【The Ripple of a New Name】
エドワードは庭園の小さな噴水のそばに姿を現し、冷たい石の縁に体を預けるようにして身を屈めた。胸を大きく上下させながら荒い息を吐き、額には汗がにじみ、髪の端を湿らせていた。
「はぁ…はぁ…『シャドウステップ』…」息切れの合間に呟きながら、袖で額の汗を拭う。「やっぱり…消耗が激しすぎる…」
午後の日差しが手入れの行き届いた庭園を暖かく照らし、エドワードの荒い呼吸とは対照的に静けさを演出していた。噴水から流れる水の静かな音が優しく響き、一瞬の安息をもたらしていた。彼は少しずつ姿勢を正し、呼吸を整える。胸の動きが徐々に穏やかになり、鋭かった表情も和らぎ、再び焦点が定まった。
その時、近づいてくる足音がエドワードの注意を引いた。現れたのは、先端が自転車のハンドルのようにくるりと巻き上がった立派な口ひげを持つ男だった。整然とした曲線が彼に演劇的な精密さを与えている。彼は学院の教授用ローブをまとい、金の縁取りが日差しを受けて輝いていた。その後ろには、何人かの若い助手たちが急ぎ足でついてきており、顔には明らかな疲労の色が浮かんでいた。
「急ぎたまえ!だが走るな!」
口ひげの教授は指示を飛ばし、その声には威厳と正確さが込められていた。「学生たちがすぐに到着する。我々には遅れる余裕はない。」
エドワードは静かに見つめながら鋭い目を細めた。そのグループが通り過ぎるのを見送り、教授の堅苦しい歩調と口ひげの上下する様子に、どこか滑稽さを感じ取った。その視線は助手の一人が抱える、きちんと整えられた書類の束に留まった。
反対方向から、別の声が緊迫感を帯びて響いた。「教授!」
背筋を伸ばした灰色の髪の女性が現れ、ローブの裾を持ち上げて歩調を速める。彼女の顔は険しく、決然とした表情だった。
「ホルダム教授!」
彼女の鋭い声は、口ひげの教授をその場に立ち止まらせた。
口ひげの教授は、誇張された仕草で振り返ると、片手で口ひげの端をひねった。「また何ですかな、モーガン教授?」
その口調には苛立ちがにじんでいた。
年配の教授は一枚の紙を掲げながら、疲れた表情で言った。「これをお忘れですよ。」
彼女は紙を差し出し、その目には冷静さと皮肉が混ざり合っていた。
口ひげの教授は眉をひそめ、信じられないと言わんばかりに口ひげがピクリと動いた。「馬鹿な!私、ダガン・ホルダムは、何も忘れたことなどない!私の仕事は常に完璧だ。」
彼は助手が抱える書類の束を指差し、劇的な口調で続けた。「ここにはセント・エイリック学院の一年生132名の名簿が揃っているのだ。すべて確認済みだ。」
年配の教授は眉を上げ、その芝居じみた言葉に感心する気配も見せずに言い返した。「それは元々の名簿にはありません。この名前は今朝届いたばかりです。」
口ひげの教授の目が差し出された紙に向き、苛立ちは慎重な好奇心に変わった。彼は鋭い動きでその紙を掴むと、内容をざっと目を通した。その表情が変わり、余裕のある態度にひびが入る。瞳がわずかに見開かれる。
「クラス1-A…?」
彼は驚きと困惑を含んだ声で呟いた。
年配の教授は両手を組み、その表情には深刻さが浮かんでいた。「ドロテア様にさえ事前の通達はありませんでした。キングズガードが直接届けたものです。理由があるに違いありません。」
一瞬、二人の間に静寂が訪れた。口ひげの教授の顔がこわばり、指先が紙の端を小刻みに動かしていた。やがて、もう一方の手が無意識に口ひげの端に伸び、思案や動揺を示すようにその先をひねった。
彼は深く息を吸い込み、態度を取り繕いながらも、口ひげの端をひねり続けた。「推測はやめたまえ、モーガン。これは何の意味も持たない。」
一瞬の間を置き、彼は姿勢を正し、もう片方の口ひげにもバランスを取るようにしっかりとしたひねりを加えた。「ただし……何かを変える可能性はあるな。」
その声は強い口調だったが、微かな震えが不安を隠しきれなかった。
短いうなずきで話を切り上げると、口ひげの教授は助手たちを促し、足早に建物の中へと消えていった。庭園に残された年配の教授は、しばらくその背中を見送っていたが、やがて彼女自身も反対方向へ歩き出した。その顔には明らかな不安の色が浮かんでいた。
エドワードは噴水のそばの隠れ場所から動かず、教授たちのやり取りをじっと観察していた。その声のかすかな響きが背景に溶け込む中、彼の鋭い頭脳はその意味を素早く組み立てていった。
「クラス1-A……」
彼は低く呟き、その声には深い考えがにじんでいた。「それは、お嬢様がおられるクラスだな。」
背筋を伸ばしながら、エドワードは慎重に手袋を直した。その動作は落ち着きを取り戻すための儀式のようだった。先ほどまでの疲労感は消え去り、代わりに新たな決意が彼を満たしていた。彼は荘厳な建物に最後の一瞥を投げかけた。そびえ立つアーチや磨き上げられた石の外壁は、その内部に答えが隠されているように感じられた。彼の視線は鋭く、計算されたものだった。次の行動の計画が頭の中で組み立てられつつあった。
エドワードは一呼吸置いて気を引き締めると、建物を回り込むように歩き出した。その足音は砂利の道を踏む音すらほとんど立てず、静かな庭園に溶け込んでいた。葉のかすかなざわめきや噴水から流れる水の音が、彼の集中した決意を包み込むように響いていた。
彼の視線は建物の外観を鋭く走らせた。背の高い窓、絡みつくツタ、装飾的なアーチ――一つ一つを見逃すことなく確認しながら、周囲に人の気配がないことを確かめた。
建物の側面に差しかかったところで、彼は足を止めた。彼の注意を引いたのは、外壁に沿った一連の装飾的なアーチだった。その中の一つの上部には少しだけ開いた窓があり、木製の枠はやや古びているものの、内部への入り口として十分な役割を果たしそうだった。エドワードの口元に微かな笑みが浮かぶ――彼が求めていた機会が目の前にあった。
手入れの行き届いた生垣の後ろに身を隠しながら、エドワードはしゃがみ込み、慎重に登るべきルートを見定めた。ツタで覆われた石のトレリスは登攀に適しているように見えたが、正確さが要求される。アーチ状の彫刻の上にある窓の位置は危険だが、エドワードにはこれまでに直面した試練の中で十分に耐えられるものだった。
冷たい石に指先を触れ、エドワードは自分を落ち着かせると、最後に周囲を見回した。学生や職員がいる気配はなく、遠くから聞こえる話し声や風の音以外には何もなかった。決意を固めた彼は、静かに登り始めた。手袋をつけた手でツタをしっかりと掴み、一歩一歩確実に進む。
登攀は慎重そのものだった。一つ一つの足場を確かめながら、できるだけ音を立てないように動いた。ツタがわずかに軋む音がしたが、彼の訓練された動きはその揺れを最小限に抑えた。ツタ越しに差し込む日差しが彼の顔に影を落とし、その姿をさらに隠していた。
アーチ状の窓の下の突起に到達したエドワードは、姿勢を低くして彫刻のバランスを確かめた。汗がこめかみを流れるが、呼吸は制御されたままだった。手を伸ばして窓枠に触れると、ヒンジがかすかに軋む音を立てた。彼は動きを止め、耳を澄ませた。内部からの気配がないことを確認すると、流れるような動きで窓を開け、部屋の中に滑り込んだ。
部屋は薄暗く、重いカーテンがわずかに開いているだけで、差し込む光は床に細い筋を描いていた。精巧に作られた机が整然と並び、その表面は磨き上げられてかすかに光を反射していた。空間には木材と羊皮紙のほのかな香りが漂い、学びの場としての厳粛さを感じさせた。講師用の講壇は正面に配置されており、濃い色合いの木材が学生用の机とは対照的だった。
エドワードは部屋全体を一瞥し、その隅々まで観察した。その場の静寂に干渉しないよう、慎重に動きながら側面へと進んだ。
彼はドアのそばに立ち、ハンドルの上で手を止めた。静かに少しだけドアを開け、廊下を覗き込んだ。廊下は不気味なほど静かで、学生の姿は見当たらなかった。磨き上げられた床を歩く靴音が遠くから聞こえ、その音源に目を向けると、例の口ひげの教授が助手たちを連れているのが見えた。
「急ぐのだ!」
教授の鋭い声が響き渡る。「すでに遅れているぞ。精密さが重要だが、迅速さも必要だ!」
ドアの隙間から覗き込むエドワードは、教授とその助手たちが向かいの教室に近づいていくのをじっと見ていた。教授は手で指示をしながら、助手たちを中に招き入れる。その間も例の口ひげをくるりと回す癖は変わらなかった。助手たちは書類を抱えながら教室に入り、小さな紙の擦れる音と低い囁き声が廊下に響いた。
エドワードの目が鋭く細められる。彼の頭脳は即座に彼らの動きのパターンを把握していた。いずれ、彼がいるこの教室も確認に来るだろう――それは間違いない。エドワードはすぐに身を引き、そっとドアを閉じた。
教室の中で、彼の視線が素早く辺りを走る。選択肢を即座に検討した後、エドワードは迷うことなく部屋の最上段の机へと向かった。隅にある一つを選ぶと、机の下に身を滑り込ませ、その影に自分の体を隠した。頑丈な木製のフレームがしっかりとした覆いを提供し、表面からの視線を完全に遮った。
廊下のドアがかすかに軋む音が、エドワードの予感を確信へと変えた――教授が再び動き始めたのだ。
エドワードは呼吸を整え、全身を緊張させながらも静かに待ち構えた。
口ひげの教授はクラス1-Aの教室の前に立ち、助手たちが忙しなく動き回りながら机に書類を配っていた。
「ここが最後の教室だ。さっさと済ませろ!」
教授は鋭い声で命じ、その威厳のある態度に助手たちは慌てて従った。
助手の一人が前列の机のそばで立ち止まり、一枚の紙を手に取った。その紙には名前が書かれている。
「待て。」
教授の鋭い視線が助手に向けられ、口ひげが軽く動いた。「その名前は誰だ?」
「アイリャ・ヴォイジーです、先生。」
助手が答え、前列の机に紙を置こうとした。
「甚だしい手落ちだ。」
教授は口ひげをくるりと捻り、誇らしげに言った。「ヴォイジー家の優秀さは名門貴族にも匹敵する。三列目に置け。ただし、マウントバッテン=カエルウィスクとは隣同士にするな。」
助手はすぐに頷き、指示通りに配置を修正した。
別の助手が恐る恐る進み出てきた。「それでは、『セインツ・スカラー』はどうしますか?」
教授は鼻を鳴らし、軽蔑したように言った。「ただの平民だ。あの馬鹿げたスピーチの後では、称号など何の意味もない。前列に置け。」
三人目の助手がためらいがちに口を開いた。「しかし、先生……最上段の席に名前が四つになってしまいます。」
教授の口ひげがぴくりと動き、彼は考え込むように口ひげを捻り始めた。「ノーサム……アディントン……バークレー……そしてカエルウィスク。」
短い間の後、彼は指示を再び出し始めた。「アディントンとバークレーの二人は右の机に一緒に座らせろ。彼らの家は友好的な関係を持っている。ノーサムは中央に座らせろ――彼を喜ばせるだろう。そしてカエルウィスクは左の机に一人で座らせろ。彼女は社交的な煩わしさには興味を示さないだろうし、むしろ一人の方を好む。」
教授が知らないところで、エドワードは最後列の机の下からその言葉をじっと聞いていた。その表情は険しくなり、教授の軽蔑的な口調に眉をひそめた。
「ふざけるな……」
エドワードは低く呟いた。「お嬢様の好みを知っているだと?一体何様のつもりだ?」
助手たちが作業を終え、部屋を出て行くと、教授もその後に続いた。廊下から聞こえる足音が次第に遠ざかり、教室には静寂が戻った。
エドワードはそのまま動かず、しばらく待機した。だが、彼が身を起こそうとしたその瞬間、突然声が静寂を破った。
「今のは、何なのじゃ!?」
エドワードはその場で動きを止め、鋭い目を音の方向に向けた。長い漆黒の髪を持つ少女が、近くの机の下から姿を現した。その表情は苛立ちに満ちており、閉じた扇子を片手に軽くあおぎながら、不満を口にした。
「わらわの名前に一言も触れないなんて!少しの敬意すらないとは、どういうことなのじゃ!」
エドワードは無造作に身を起こし、乾いた口調で返した。「ああ、それは彼らにとって君が取るに足らない存在だからだ。」
少女は鋭く振り返り、細めた目で彼を睨んだ。「そなたは誰なのじゃ?どこから現れたのだ?」
「机の下からさ。」エドワードは薄く笑いながら、まるで当然のことのように答えた。
「それを見ればわかる!」彼女は鋭い口調で言い放ちながら、なおも扇子で自分をあおぎ続けた。「わらわはオーケストラを途中で抜け出してここに隠れたというのに、他にも潜り込んでいる者がいるとは思いもしなかったのじゃ!」
エドワードは片眉を上げ、笑みを深めた。「面白いだろう?」
実際、エドワード自身もメイが隠れていたことに気づいておらず、互いに存在を知らなかった二人が、こうして同じ場所で鉢合わせたのは完全な偶然だった。
「どこが面白いのじゃ!」彼女は憤慨して声を上げ、腕を組みながら睨みつけた。「それで、そなたは誰で、ここで何をしているのじゃ?この建物は生徒専用なのじゃぞ。」
「エドワードだ。」彼は淡々と答え、一歩前に出た。「執事だ。」
少女は扇子を軽くあおぎながら、苛立ちを抑えつつも好奇心を浮かべた。「では、わらわの名を――」
「尤美萱(ユウ・メイシュエン)、だろ?」エドワードは自信たっぷりに言い切った。
メイの目が一瞬だけ驚きに見開かれたが、すぐに扇子で口元を隠しながら微笑を浮かべた。「ふむ、どうやらわらわの名は広く知れ渡っているようじゃな。」
エドワードは肩をすくめ、笑いながら答えた。「いや、レンが教えてくれた。」
「レン?」メイは眉を上げ、扇子をあおぐ動きを緩めた。「そなた、わらわの従者を知っているのか?」
「まあ、ほとんど親友みたいなもんだ。」エドワードは笑みを浮かべた。「相棒さ。」
メイが困惑した様子を無視して、エドワードは前列の机へ向かった。その鋭い目が机の上の紙を一枚一枚確認していく。そして、ベルの名前が書かれた紙を見つけたとき、彼の唇に薄い笑みが浮かんだ。
「何をしているのじゃ?」メイは興味と疑念が入り混じった口調で問いかけた。
エドワードはベルの紙をベアトリスの隣の席に置きながら答えた。「お嬢様のために。」
メイは首をかしげ、不思議そうに彼を見た。「席を動かしているのか?なぜじゃ?」
「お嬢様には友達が必要なんだ。」エドワードの表情は真剣そのものだった。「このベルという娘はお嬢様に会ったことがある。だから、ここに座れば友達を作りやすくなる。」
メイは扇子を軽く開き、その計算高い視線で彼の動きをじっと追った。「では、わらわも最上段に名前を移しても良いのか?」
エドワードは肩をすくめ、笑みを浮かべた。「もちろん。大胆な者こそ世界を手に入れるものだ。」
メイは迷うことなく二列目の自分の名前を拾い上げ、堂々と最上段の中央に置いた。そしてその席に座り、教室を見渡す彼女の姿は自信に満ち溢れていた。
エドワードはその様子を微笑ましげに見つめながら、薄く笑みを浮かべた。「これで、共犯者になったな。」軽いからかいを込めた口調だった。
「何なのじゃ、それは!」メイは驚いて振り返り、彼を睨みつけた。
エドワードは柔らかく笑いながら答えた。「お嬢様と友達になれよ。気に入ると思うぞ。」
メイは鼻を鳴らし、扇子で顔を軽くあおぎながら答えた。「それはわらわが決めることじゃ。」彼女は手首を一振りして彼を追い払うような仕草を見せた。「さあ、消えろ。さっさとじゃ。わらわが最初に来たように見せたいのじゃ。」
エドワードは薄く笑みを浮かべながら窓枠に上がった。そして振り返り、こう言った。「お嬢様の名前は、ベアトリス・アメリア・イザボー・カエルウィスク。」
その名を聞いたメイの表情が一瞬だけ変わるのを、エドワードは見逃さなかった。
彼は悪戯っぽい笑みを浮かべながら、軽く付け加えた。「ああ、それと――」その声には微かな劇的な調子が加わった。「お嬢様には絶対に言わないで」
メイは驚いた表情を浮かべたが、すぐに冷静さを取り戻し、扇子で口元を隠した。「ふむ……面白いやつじゃな。」
そう言うや否や、エドワードは軽やかに窓から飛び降り、その姿を消した。廊下から聞こえる生徒たちの声が、最初の授業が始まることを告げていた。
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