アインツェルカンプ〜魔導騎士から始まる現代のゴーレムマスター〜

呑兵衛和尚

第1話・ゴーレムマスターの、帰還

 エーテルドライバーシステム。


 自然エネルギー、化石燃料、原子力発電の三つのエネルギーシステムに並び追加された、新たなるエネルギーシステム。

 だが、このシステムには、二つの欠点があった。


 一つは、これを開発した人間以外はその理論を理解することができず、開発者以外はシステムを現実化することができなかったという点。


 そしてもう一つは、エーテルドライバーシステムのエネルギー源が人間の体内で生成される『魔力』を必要とするために、一般的なエネルギーとしては使えないということ。


 結果として、新たなエネルギーシステムではあるものの一般的には普及することができず、エネルギー不足を解消するものではないと、多くのエネルギーメーカーは離れていった。

 しかも、エーテルドライバーは、それを発表した企業以外では開発することができなかったため、理論が公開されてからも他社が手を出すことは不可能であった。


 結果として、エーテルドライバーは大規模発電システムには叶う事がなかったため、エーテルドライバーをはっひした企業は別の方向性でエーテルドライバーを発展させることにした。


 それが、超小型エーテルドライバーを搭載した、小型ゴーレム【魔導騎士マーギア・ギア】である。

 そして魔導騎士マーギア・ギアを使用したゴーレムバトルシステム【アインツェルカンプ】は、やがて玩具メーカーとしては世界トップシェアを確保。

 開発メーカーの『ゴーレムファクトリー』は、追従するものを許さない企業となることができた。

 

 この物語は、エーテルドライバーを開発した青年が、のんびりといろんな事件に巻き込まれるという面白おかしい人生の物語である。



◯ ◯ ◯ ◯ ◯



──白亜の間

 ここは、俺たちの住んでいた地球と、俺が異世界転生した世界『マナフィリア』を繋ぐ神域。

 つまり神様の住まう世界であり、俺がここに来るのは二回目である。

 ふと見ると、白亜の間の奥で、卓袱台の前でのんびりとお茶を飲んでいる神様がいた。

 俺を召喚した神様のようだが、名前は……もう忘れた。


『おお? 誰かと思ったらユウ・イザヨイではないか。二十五年ぶりかな?』

「まあな。約束通りに世界を救ったぞ。しっかりと『勇者の仲間』としての務めは果たしたから、そろそろ地球に帰れるんだろ?」

『うむ。最初からそういう契約だったからな。それじゃあ帰る準備といこうか?』


 俺、つまり十六夜悠いざよい・ゆうが、有限会社・異世界トラックの追突によって異世界に旅立ったのは二十五年前。

 しっかりと貴族の三男坊として異世界転生し、これまたお約束通りに勇者と共に魔王を討伐して、俺の人生は無事に幕を閉じた。

 向こうの世界で生きていた『勇者の仲間』だった俺の魂は、そのまま新たな魂としてて向こうに留まる。

 そして俺本人の魂は最初の契約通りに、この『白亜の間』に帰ってきたのである。

 

「さて、それじゃあ始めるとするか」


 重い腰を上げつつ神様が用意したのは、一枚のボード。


―――――――――――――――――――――――――――

1:深夜バス『異世界ファンタジー号』で地球へ

  《ノーペナルティ、今のスキル、ステータス維持で帰還》

2:深夜バス『異世界ファンタジー号』で地球へ

  《所有加護及びスキルを三つ持ち帰り》

3:深夜バス『異世界ファンタジー号』で地球へ

  《スキルなんてやらねーよ、加護も全部返却だ》

4:新たな世界を救え、別世界で勇者に転生

5:世界を破壊しろ、新たな世界で魔王に転生

6:今度は転生させる側、神様に昇格だ

―――――――――――――――――――――――――――

 そんな事が書いてあるボードを用意して、俺にサイコロを握らせる神様。

 おい、ふっざけんなよ。

 俺が北海道民だからって、こんなシチュエーションを用意するなよ。

 そもそも、帰ってくるって話だったろ?

 地球に帰るはずだろ?

 なんだよこれは、『今回も、何も知らされていない大泉洋じゃねーんだからな?


『いや、様式美は大切だろ? そもそも、出さなきゃいーんだよ、とっとと振れよ‼︎」

「いーんだよ、じゃねーよ。訴えるぞ‼︎」

『まあまあ、それじゃあ気を取り直して参りましょう。十六夜くんの、次の転生先は何処か‼︎』

「四以上の数字を期待するなよ‼︎  ムニャムニャムニャとりやぁぁぁぁ‼︎」


──コロコロコロッ

 出た目は2。

 よし、無事に地球だ。


『出た目は2なので、地球に帰還です。最初の契約通りに、君が異世界転生した日の午後に帰ります。それで、報酬は、サイコロの目が2なので、お前が身につけていた加護やチートスキルから三つ、持って帰っていいから』

「本当にいいのか? まあ、そうなった場合は想定していたので、最初から決めていたからいいんだけどさ」

『まあ、仕事に対する報酬は当然。という事で、決めるのはバスに乗ってからで構わないから。バスから降りた時点で、選択しなかったチートスキルは全て消滅するから、そのつもりで』


──ブゥゥゥゥウン……

 そんな説明を受けている最中に、深夜バス『異世界ファンタジー号』がやって来た。

 気がつくと手荷物としてカバン一つ持っている俺がいる。

 この鞄はなんだ?


「おい神様。これはなんだ?」

『別途報酬だよ。君が稼いだ金を換金して詰めておいたからさ。それぐらいはサービスさせて貰うよ』

「気前がいいな。まあ、色々とありがとうよ」

『ああ。それじゃあ、またな』

「もう来ねーからな。異世界トラックに俺を跳ねさせるなよ?」

『安心しろって、事故でもない限りは、異世界トラックは同一人物を異世界転生させないから。事故じゃない限りはな』


 よし、それならいいか。

 それで神様や、どこに電話している?

 有限会社・異世界トラック? 生きのいい人間を一人頼む? 事故でも構わないって、俺をもう一度呼ぶ気満々かよ!

 ということで、俺は『異世界ファンタジー号』に乗った。

 色々な思い出もあったし、ラブロマンスもあったけどさ。

 やっぱり、自分のいた世界に帰る約束だから。

 そして、ゆっくりとバスは走り出した。

 窓の外では、神様がボードの横で手を振っている。

 ええっと、第二回異世界サイコロの旅ってなんだ?

 また、俺がくるのは確定なの?

 それじゃあ、グッバイ異世界。

 良い夢、見させてもらったよ。

 

………

……


──キキィィィィッ

 札幌駅・北口。

 俺の乗ってきた深夜バス『異世界ファンタジー号』は、定刻通り正午に札幌に到着した。

 乗客は俺一人だけ、始発から終点までずっと俺一人。

 もっとも、このバスに乗ることができるのは、選ばれた人間だけ。

 このバスは『有限会社・異世界トラック』が運営する『深夜バス・ファンタジー号』。

 まあ、よくある『異世界転生案件』で、最初から帰還契約をしたものが、元の世界に戻ってくるのに使うバスである。


「ふぁぁぉぁ。白亜の間から、十三時間も掛かったのかよ。さて、世界はどうなっているかな?」


 最初の契約では、帰還時刻は当日の午後。

 まあ、ほとんど時間なんて経過していないので、なにか変わっているとも思えない。ということで、三つの持ち帰りスキルの一つを使ってみる。


空間収納チェスト……」


 一つ目は、異世界転生お約束の、時間が停止する無限収納。

 神の加護として貰っていたので、引き続き使わせてもらいます。

 こんなこともあろうかと、向こうで稼いだ財産すべて資材や魔導具にして詰めてきたんだわ。

 あっちの俺、すまん。

 あの豪華な屋敷は、勇者に売り飛ばしたから、うまく交渉してくれ。

 ということで、空間収納チェストからスマホを取り出して、日時や時間などをチェック。


「本当にあの日の午後か。それに、外見も当時のままとは、ナイスだ」


 スマホを確認しても、俺がいた世界に間違いはない。メールアドレスに登録してある知り合いの名前もそのままだし、看板や聞こえてくる会話も日本のまま。


「それじゃあ、帰るとしますか」


──ブゥン

 空間収納チェストに持っていたバッグを放り込むと、俺はのんびりと地下鉄で帰宅することにした。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 翌日。

 今日は、実に体感二十五年ぶりの札幌を堪能することにした。

 幸いなことに、大学の講義もない。 

 まあ、俺としても色々とやりたい事ができたので、大学は卒業証明書が取れる程度に通っていればいいやと思っている。

 特に目的もなく街中をぶらぶらしたり、近所の公園に顔を出したり。

 懐かしい光景に涙しそうになったけど、こんな街中で泣いていたら不審者扱いされるからグッと我慢。

 昼過ぎには自宅に戻り、さっそく持ち帰った二つ目のスキルを試してみることにする。


「それじゃあ、始めますか。魔法陣展開……っと」


──ブゥン

 自宅の居間に、直径二メートルの魔法陣が展開する。

 これはゴーレム魔法によって作り出された『錬成魔法陣』。

 この中で、様々な秘術や魔導具の作製を行うことができる。

 まあ、基礎中の基礎であって、ゴーレム魔術が使える術師は当然使える訳で。


接続コネクション。対象は俺の空間収納チェスト。同時に術式開放、ミスリルゴーレムの製作を開始」


──シュゥゥゥゥ

 魔法陣の中にミスリルの塊が現れると、シュウシュウと音を立てて溶けていく。

 やがて、それが人型に変形すると、全高1.5メートルほどのマネキン人形に変形した。

 そこに、ゴーレムの核となる『魔導核』を16個組み込んでいき、最後は心臓となる『エーテルドライバー』を組み込んで体表面を融合し直した。


受諾せよアクセプト。我は汝の主人なり」


──カシッカシッ

 俺の言葉に反応して、額にゴーレムの証である『魔導核』が形成されると、マネキン人形のような全身を人型の皮膚が包み始めた。


「さて、次は知識のインストールか。知識継承インプリンティング目覚めよウェイクアップ、サーバントワン」


──パチッ

 額の魔導核に指を添えて、知識の継承を行う。

 すると魔導核がゆっくりと頭部に埋没して、小さいハート型のホクロのようになる。

 これでゴーレムの製作は完了。

 これが俺の持ち帰ったスキルの二つ目、正確には神の加護である『ゴーレムマスター』。

 俺の異世界の職業は『ゴーレムマスター』であり、さまざまなゴーレムや各種魔導具マジックアイテム作る事ができた。

 レベルはなし、神の加護のチートスキルなので、あえていうなら『無限大アンフィニ』。

 この能力で、さまざまなゴーレムやら魔導具を作りだしては、勇者と共に様々な冒険をしていたものである。

 俺自身は普通の人間程度の力しかない『ように振る舞っていた』ので、後方でゴーレムを自在に操る勇者の仲間という印象しかなかったはずなのだが、まあ、最後の魔王戦で使ったゴーレムが目立ったからなぁ。

 

「さて、おはよう。君の名前は、『綾姫』でいいか。俺のサポートをお願いするよ」

「かしこまりました。マスターは、どう呼べばよろしいのですか?」

「ユウで構わないよ」

「了解です。では、今後はユウさまとお呼びします。ご家族にご挨拶は必要ですか?」


 家族……いないんだよね。

 俺が小さい時に事故に巻き込まれて、俺だけ生き残って。

 親父とお袋は乗っていた車が炎上して、それっきり。死体も何も残ってないから……。

 死体も何も残ってない?

 あれ?

 あの時ぶつかったトラックも逃げたって聞いていたけど、あれ?

 まさか? 親父たちも異世界転生した?


──ガクッ

 思わず膝から崩れ落ちたわ。

 両親が死んでからは、俺はこの家で祖父と住んでいたんだよ。

 その祖父も数年前に他界したので、天涯孤独だと思っていたけど。親父たちが生きている可能性があるのかよ。

 その可能性が異世界転生? いや、死体がなかったから異世界転移の可能性が高いのか?


「ま、まあ、俺の両親は今はいない。死んだことになっているけど、生きている可能性が出て来たから、この件は追及しないように」

「了解です。では、とりあえず部屋の掃除と夕食の買い出しをして来ます」

「よろしく頼む……って、待て、お袋の服があるから、それを先に着てくれていいから、裸で出ていくなぁぁぁ」


 危ない危ない。

 あやうく犯罪者になるところだった。

 さて、地球で面白おかしく生きる計画の第一段階はこれでクリアだな。 


………

……


 家のことは綾姫に任せるとして。

 俺は、異世界で手に入れたゴーレムスキルを有効に使うことにした。

 まずは、自宅の電化製品を全て補う。

 あ、炊飯器をゴーレム化するんじゃないよ、俺があっちの世界で開発したものを使うんだよ。


『エーテルドライバー‼︎』


 某・青い猫型ロボットのような声で空間収納チェストから箱を取り出す。

 これは俺が開発した小型魔力炉エーテルドライバーといって、魔力を電力をはじめとする様々なエネルギーに変換する魔導具である。

 さっきも綾姫に組み込んでいただろ? 

 あれの大型版。

 ちなみに、俺以外では量産どころか分解すら不可能、ゴーレムマスター以外では解析不能なアーティファクトだ。

 伊達にミスリルを素材として使っているわけじゃないからな。


「これを、配電盤の横に配置して、ブレーカーを落としてから、配線を……」


 配線の接続ぐらいは、基礎知識として持っている。

 なお、本当なら免許が必要なので、子供は当然ながら、無免許での配電は行わないように。

 俺はゴーレムマスターだからいいんだよ。

 あとでエーテルドライバーを一般公開できるようになったら、その時は改めて電気屋に頼むことにしようそうしよう。


──カチッ

 よし、エーテルドライバーを起動すると、電化製品全てが作動した。

 アンペアとか色々と細かい設定も必要なんだけれど、全てエーテルドライバーで自動認識し、適切な出力調整を行ってくれる……ように、作った。

 そのために、向こうでもコツコツと調整を続けていたんだよ。

 ちなみに燃料にあたる部分、【エーテル】の補充については、おおよそ一週間に一回、エーテルドライバーの表面の水晶パネルに俺が手を添えることで補充可能。

 俺の体内魔力をエーテルドライバーが吸収し、蓄電ならぬ蓄エーテルするようになっている。


「さて、電気契約は後日でも解除するからよし。我が家はオール電化だから問題なし、水道はまあ普通に支払うからいいや」


 ぶっちゃけると、水が出る魔導具もあるよ、けど、下水処理は自分でやりたくないので、ここはいつも通りに水道局に支払いすれば良い。

 こうして、少しづつ自分の周りをゴーレム化していくのだよ。

 なぜかって?

 その理由は簡単で。

 俺は、ゴーレムで起業する気だからね。

 そのためにこれからの大学生活では、起業についての勉強や法律を学んでいく気だからさ。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


 俺が地球に戻って来てから、半年が経過した。

 その間、大学に通いつつ起業するための勉強を続けて来た。

 そして先日、無事に起業したんだよ。

 職業は『金属加工及び機械工具の開発、整備、運用、イベント運営と製作品の販売、エーテルドライバーの開発、販売など』。

 企業名は【ゴーレム・ファクトリー】。

 まあ、自宅兼工房兼事務所なので、どこか新しく事務所を借りる必要もなし。基本的には自宅で色々とやるだけだし、本来の目的はここからスタートすることだからな。


「さて、それじゃあ、早速だけど商品開発でも始めますか」

「ユウさま。今晩のおかずはトンカツですが、よろしいですか?」

「あ、それで宜しく。では、気合を入れ直して……接続コネクション


──ブゥン

 魔法陣が展開し、空間収納チェストと接続する。

 ここからは慎重に。

 使う素材は鉄ではなくアルミニウム軽合金。

 近所のホームセンターで買ってきたアルミ製品にゴーレム魔法を用いてアルミニウムを抽出。そこにセラミックを融合し、アルミニウム軽合金を作り出した。

 これを、全高30cmの人形型に変化させる。


「|変形(トランス)……からの、人型フレーム形成。魔導核を胸部に二つ組み込む……ここに、小型エーテルドライバーを設置して……よし」


 指示通りに、魔法陣の中で金属と魔導核が融合する。

 見た目には西洋鎧を着た騎士。

 これが俺の商売道具であり、商品の素体である『リモートゴーレム』。


「次は、制御システムか……」


 これは簡単。

 魔導核と対になる『魔力結晶』を組み込んだ腕輪を作り出し、これをゴーレムに登録するだけ。

 普通の人は体内魔力が少ないため、ゴーレムを遠隔操作することなど不可能。だが、このシステムにより腕輪から魔力を飛ばして、ゴーレムを動かせるようにしただけ。

 名付けて『制御用腕輪マギ・コン』。

 このゴーレムの遠隔操作システムは、俺が向こうの世界で子供用に遊べるゴーレムを作って売っていたものがベース。そしてリモートゴーレムにも、様々な外装や装備のバリエーションがある。

 その雛形は全て、空間収納チェストに納めてある『魔導制御球オーブ』に登録されている。

 俺がゴーレムを作る時に、魔法陣と空間収納チェストを接続する理由がこれ。


「よし、地球製ゴーレム第二号完成。名前は……向こうと同じでいいか。魔導騎士マーギア・ギア、略してマーギア。ゴーレム・ファクトリーは、これを量産して商品とします」

「わーパチパチパチパチ」


 俺の言葉に綾姫が球の思想に手を叩いている。

 うん、それほど盛り上がるところじゃないんだけれどね。

 まあ細工は隆々、仕上げはご覧の通り。

 異世界のチートスキルで、こっちの世界でも悠々自適な生活を送れるように頑張るとしますか。

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