禁術使いと被召喚者〜テキトーでゆるそうな異世界に召喚されたけど実は思ったよりシリアスな世界観で反応に困るんだが、流石にヒロインの国を滅ぼしたクソ野郎は倒して元の世界に帰ることを目指す大阪の高校生の話〜
第35話 正直可愛い子に旅させたらほぼほぼこうなると思う
第35話 正直可愛い子に旅させたらほぼほぼこうなると思う
「ぐるるるるるる!!」
「!」
隠れる暇も無く。見付かった。崖の上に居たのだ。
否。
実際は既に数キロ手前から気付かれていた。最速で向かっているふたりに、隠密を意識する暇は無かった。
あのオークの10倍以上はある巨体。遥か上から見下ろされている。
人類の最大の武器は魔法だと言うのに。
魔法があっても人類より強い上にその魔法さえ使える最強種族ドラゴン。
そのドラゴンの中でも『最強種』。
灰かぶりの竜王。
「おうドラゴン。『禁術』はどこや」
「! マシュ殿」
マシュは知っている。ドラゴンが、会話可能な知的生命であることを。それはつまり、解釈次第で『亜人』に分類される可能性のある発見。シロイナの火山でグレゴリオと話し、経験している。
だからまずは、会話を試みた。『敵』は、
「グルルルァオオオ!!」
大口で吼えた。
大量の唾が散弾のように飛び散る。
「…………侵入者と話すことはあらへんてか? ええ加減にせえよ。『禁術』と『幻術』はどこや。少なくともここに『居った』んは確かやろ」
「ガアアアア!!」
威嚇。通常ならば気絶してもおかしくない威圧感を放つ。が。
マシュは微動だにしない。一歩も、1ミリも譲らない。
「教えるなら見逃したる。俺らの目的はそのふたりや。お前らはどうでもええねん」
「ガアアッ!!」
「!」
恐らく。ドラゴンも。
再三に渡って、警告していたのだ。しかしそれは、この鉱物と死体の革で身体を覆う、毛の無い猿のような生物は。無視した。
「マシュ殿!」
開いた大口が、高速で迫る。避けられる大きさではない。『面』の攻撃である。速い。人間の全速力の数倍。
マシュは。
「タイさん撃てェ!」
「!?」
ドラゴンの必殺の『噛みつき攻撃』を、鉄の盾で弾き飛ばした。
「!?」
ドラゴンも、何が起こったか分からず硬直する。首が。頭が弾かれたのだ。
止まる。
「『
「!!」
ドラゴンは全身が矢も剣も魔法も弾く堅い鱗に覆われているが。
その眼球と。奥の脳は守られていない。
この至近距離で外す理由が無い。
彼は騎士団長だからだ。
✡✡✡
ズドン。
精確に脳幹を撃ち抜かれたドラゴンは。
そのまま崩れ落ちて。絶命した。
「…………マシュ殿」
「ああ。魔法は使ってへんよ。散々魔法使って実戦で練習してただけや。旅の道中、『アレ』を弾くことだけを考えてたからな」
「!」
力ではどうしようもない相手の攻撃を、『相手の力を利用して方向転換させる技術』は。
マシュの居た世界にも存在していた。
その技術と感覚が。この数ヶ月の命懸けの冒険で。
確かに研ぎ澄まされていた。
「…………まあ、骨は折れた。治療魔法使えるんやろ隊長? 頼むわ」
どさり。
倒れた。
「…………だが、どうする。すぐに気付かれるだろう。身を隠すか」
「は。谷の下見い。『建造物』や。あそこが
タイは初級治療魔法をマシュの両手に掛ける。本来ただの骨折なら数日で治るのがこの魔法だが。そんな猶予は無い。
「…………ああ。それしかないな。だが最大限近付く為に、身を隠すのは必須だ。行くぞ」
「おう」
タイの肩を借りて。ふたりはその場から去った。
✡✡✡
シャルと、ワフウ姫は。
窓のない、密閉された場所に閉じ込められていた。手と足を、彼女らの魔法では切断できない強度の縄で縛られて。
ここがどこなのか。どれだけ時間が経ったのか。
分からない。
「…………シャルお姉ちゃん」
「ワフウちゃん……」
本来。
確保したターゲットがふたりの場合。1ヶ所にしていると敵が全員その場所を追ってくる為良くない。きちんとリスク管理するなら、シャルとワフウ姫は別々の場所に連れて行くべきだ。
だが。事はそう単純にはいかないらしい。
「これからどうなるのです?」
「分かりませんわ……」
イセカイニヨクアール・ワフウノヒメ。艶やかな黒髪をさらりと伸ばしている少女だ。目はぱっちりしており、その他の顔のパーツは小さい。まるで人形か、子猫のような印象を受ける。
前合わせだが豪華な服。様々な色か散りばめられた、幾何学模様が描かれている。
あのオークとゴブリンの
だが今は。そのお姉ちゃんにしがみつくようにして、恐怖を和らげようとしている。
「……わたくし達が狙われたのは、やはり『禁術』と『幻術』の使い手だから。……ということは分かりますが……」
「これから、わらわ達は魔導連盟に殺されるのです? それとも魔術会議に人体実験されるのです?」
「………………」
冷たい。鉄の檻のようだ。格子状の牢屋。これまで、数時間に一度、簡素な食事が運ばれてきたが。それだけで、
「…………マシュさん」
勿論、檻を破ろうと魔法を使ったが。全ては無意味だった。檻なのだ。魔法が存在する世界の檻。当たり前に、『魔法使いを閉じ込める』目的で作られている。それを想定した頑強さであることは当然であった。
しばらくして魔力も尽き。少量の食事では回復もままならない。
精根尽き果てる、寸前であった。
「ったく馬鹿野郎どもが!」
「!」
びくり。
飛び跳ねるかというくらい、驚いた。だが恐怖で声は出なかった。
牢屋の様子を見ようとしたのか。あのスキンヘッドの
「……ふむ。『召喚魔法』の女に『魔物寄せ』のガキか。面白え」
彼はシャルとワフウ姫をじろりと視姦して。
「おいこっちに来い。檻の端だ。手は縛られてるんだろ? 口を出せ」
「………………えっ?」
「妙な真似するなよ。即座に殺せるからな。良いな。鉄格子越しにしゃぶれ」
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