第22話 本来は護衛対象なんで役割とか必要無いですからね

 朝。


「ん……」


 自然に目が覚めたのは、ハクだった。4人で2部屋借りた筈だ。部屋に用意されたベッドはふたつ。


「…………ええと」


 目の前に、マシュの寝顔があった。


「きゃあ」


 驚いた声を上げる寸前で、うるさくして起こしてはいけないと思い、しかし止まらずに微妙に普通の声が出た。


「…………落ち着きましょうハク。ふぅ。こんなのいつもじゃないですか。マシュさんと肩を並べて眠るなんて。ふぅふぅ」


 起きよう。そして街へ出る準備をしておこう。そう思い、ベッドから出て。


「…………」


 振り返り、マシュを眺めて。


「…………そ〜っ」


 我慢できずに掛け布団をめくり、彼の脚を確認した。






✡✡✡






「まずは衣服と手袋と靴ね。なるべく革製。隙間無く全身を覆う必要があるから、サイズとか色々、よく見なさいね」


 朝食後。

 4人で街へ繰り出す。ハクは未だに顔が赤い。元が白い肌なので目立っている。


「(…………あの後、寝てもうたんか。女子の部屋で。恐らくハクさんと同じベッド。……まあ別に何もないっちゅうか、普通にお互い疲れ果て過ぎて眠りこけてたからな)」


 マシュも、少し照れていた。山の中では何も疑わず密着して寝ていたというのに。『安全圏』という状態は心に余裕ができるものだ。常に気を張ってはいられない。


「…………鎧は?」

「そうね。そこも色々と話し合う必要があるわ。だから、先に『会議』よ。これから、本格的に未開地ダンジョンに入るから」

「ほむ。それはええけど、話し合うなら別に宿でも良かったんちゃうん」

「……シャルが行きたいって言ったのよ。まあどこでも良いなら良いじゃない」

「おん?」


 着いた先は。

 複数人で入れる、足湯だった。


「マシュさんとも温泉を楽しみたかったんですわ。そうなると、足湯はもってこいだと思いまして」

「なるほどなあ」

「(シャル王女、普通に好意をぶつけるの尊敬します……。マシュさんもなんだかさらりとしているし)」


 4人並んで足を浸ける。ハクがまた赤くなり、チラチラとマシュの脚を。


「さて。まずはこのパーティの役割ロール分担ね」

「ほむ。何があるんや?」


 ヨージョは。

 昨日の夜、竜騎士ドラゴンライダードレイク・ノルンジャーと会ったことを話さなかった。必要が無いと判断したのだ。無駄に今話して、焦らせることはない。彼らはこの街では見逃してくれることになっているのだから。


「まずは『偵察兵スカウター』ね。パーティの進行方向と周囲に危険や異常が無いかを確認する役目。仕掛けられた罠を看破しなきゃいけないし、安全な道を行く獲物を狙える場所を虱潰しにしなきゃいけない。敵やモンスターの痕跡を見逃さず、そこから様々な情報を分析しなきゃいけない。体力、速力、注意力、知識が必須よ」

「…………ヨージョ先輩しかできへんやん」

「………………まあ、そうね。実は4人で固まってをしてたのよ。分散すると多分死ぬから。遅いけど、確実に進める方法だったの。だけど、もしあんた達が『普通』に冒険できるようになれば。例えばあたしが偵察やっても良いし」

「……それは、かなり『勿体ない』ですよね」

「おん」


 ハクは。ヨージョが偵察兵を買って出ることに難色を示した。ヨージョ自身も、言い淀んだ。


「ヨージョさんは『魔王』ですから。一番強い使い方は『魔法兵ソーサラー』なんですよ。ひとりで数人分の火力となって敵を正面から制圧できます。ですがその火力も、敵の居場所が分からなければ意味がありません。だから、腕の良い偵察兵スカウターがひとり居れば、ヨージョさんの実力は100%発揮される筈なんです」

「…………なるほど」

「そうよ。本来あたしは魔法兵ソーサラー。でも基本的な冒険者としての知識と経験はあるから、どのポジションでもある程度動けるってだけ。本職の偵察兵スカウターじゃないのよ……」


 これが、ヨージョが『ドラゴンからの追跡』に気が付かなかった理由である。それは自分の落ち度だと認め、反省している。他3人が『使い物にならない』以上、全ての仕事を担わなければならなかったのに。


「ちょっと、お待ちに」

「?」


 シャルが手を挙げた。


「……ヨージョさんを除くわたくし達は、何のポジションもできないのではありませんか? 寧ろ、今のわたくし達には何ができますか? ヨージョさんにだけとてつもない重荷を背負わせている自覚は3人共ありますわ」

「!」


 結論を急ぐひと言。

 協力作業において、『何も貢献できていない』というストレスは、メンバー全員のネガティブ要素となる。『あいつに任せて楽ができる』などと考える者は、明確な目的を持った命懸けのシーンでは存在し得ない。


「……じゃあ、あたしの意見から言うわね」

「はい」


 このパーティのリーダーはヨージョである。一番知識があり、経験がある。たった12歳の幼女であるが。

 彼女の見立ては、このパーティでは最も正解に近い。


「ハクは偵察兵スカウターの素質があるけれど、任せられないわ」

「どうしてですか?」

「あんたは『看護兵ヒーラー』だからよ。パーティの要でもある。優先度で言えば、あたしみたいな火力兵アタッカーより上。まず最初に守るべきポジションな訳。あんたの一番重要な任務が、パーティメンバーの治療回復なの」

「……確かに」

「実際、ここまでの旅でもあんたが居なかったら結構やばかったわよ。全滅はしないまでも、まだこの街へ辿り着けては居なかったわね。間違いなく。資格持ちの正規看護兵ヒーラーは貴重よ。偵察兵スカウターなんかで、あんたこそ勿体なくて使えないわ」


 そして。

 残ったふたりが。


 最もパーティに貢献していないふたりである。

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