第21話 ただ今回ツッコミ不在なんよね
ドラゴンに『乗ることを許された』人間のことである。
ドラゴンとは、最強の生物だ。実際に数頭で人間の国を滅ぼすことが出来る。
ただの力と体重でぶつかるだけで大抵の生き物は即死する。その上高度な魔法も使用する。
種類にもよるが大抵は群れで生活し、世界中を飛び渡る。空へ飛べば追い付ける生物は皆無。人間も空に手出しはできない。
そして非常に高い知能を持ち、社会性があり、人間の作った武器や罠の理解もある。
つまりドラゴンは人間を圧倒的に『下』に見ており、それは丁度『人間が小動物に向ける危険度』と大差無い。
そんな絶対強者ドラゴンが、気まぐれに人間の特定個体に気を許すことがある。
太古より、その強さと遭遇率の低さで特定の人間達から神と崇められてきた歴史がある。そんな中、一部の人間達と『契約』を結んで、楽して食糧を獲得するドラゴンも居た。ドラゴンと非常に密接な関係を持っていた人間が居るのだ。
彼らはその子孫か、またはその歴史的ノウハウを『訓練』に落とし込んだ組織の構成員である。
当然ながら命懸け。ドラゴンに認められなければ最悪『食われる』こともある。
それを乗り越えて、ドラゴンと一定の信頼関係を結ぶことに成功したのが、目の前の男だ。
「…………!」
臨戦態勢。最大限の警戒を向ける。ヨージョはいつでも火炎を吹く態勢になる。
「……お前、『火の王』だろ。個人でドラゴンより強えって噂だが、実際はどうなんだろうな……?」
「…………」
応えない。敵と会話をする意味も無い。今は、シャル達の居場所がバレないように立ち回り、最悪戦闘になればこの男を殺害しなければならない。その手段と逃走経路を脳内で巡らせる。
「…………シロイナのサンドリヨン襲撃と大陸各地のモンスター襲撃は俺達じゃねえぞ」
「!」
槍を引っ込めて、戦意が無いことをアピールした。プレッシャーが弱まり、ヨージョの意識に余裕ができる。
「あんたがなんでここに居るのよ。国際同盟の指名手配犯が。通報するわよ」
「やめとけ。無駄だ。ここは俺の契約ドラゴン――グレゴリオの『縄張り』だ。ここの長にも俺達竜騎士の顔が利く」
「なんですって……!」
ふたりは初対面だが、ヨージョはこの男についてシャルとマシュから何度も特徴を聞いていた。間違いないだろう。
竜騎士も、魔法協会の六大魔王のことは世界中で有名である。『火の王』が先代から交替して若い女性になったことも噂で知っている。
「お前、『ドラゴンから狙われている』って意識無かったろ。
「はぁ……? バレてたですって? ならあんたや魔導連盟が襲って来るでしょうが」
「ふん。こっちにも色々事情があるんだよ。グレゴリオはドラゴン達のネットワークを介して『火の王』をチェックしてた。お前はドラゴン達の間でも有名らしいぜ。だから、ある程度の敬意の証として、『俺達に告げなかった』ってことだ」
「! …………!」
ヨージョは。
これまでに何度も、ドラゴンと対峙している。『ドラゴンさえ撃退する』と噂になるほどには。
「……あんた達竜騎士は、ドラゴンを支配している訳じゃないのね」
「そうだ。俺達はいいとこ『対等』なんだよ。利害の一致があった時しか乗せてくれねえ。まあ、そこがドラゴンの良い所なんだがな」
この火山と周辺一帯がドラゴン――グレゴリオの縄張りだとしたら。ヨージョ達が比較的順調に旅を進められたのにも納得できる。この男の言葉は本当だろう。
ただ1点。
「……縄張りの印は確認できなかったわ。ドラゴンなら必ず付けるでしょうが」
「それ見せるとお前ら警戒するだろ? だからグレゴリオはお前らの進行ルート上に印を付けなかったらしい。ここで、俺と『会話』させる為に」
「!」
そんなことを、考えてやっていたのなら。
ドラゴンとは、本当に人類と同等かそれ以上に頭が良い。
「会話ですって」
「ああ。まああの禁術使いの女と護衛の男は話にならねえだろうが。お前なら少しは会話になるだろ」
「…………」
ここは本当に、魔導連盟の縄張りなのだろう。ここで戦闘を行うことは自殺に等しい。
会話することしかできない。
「魔導連盟も一枚岩じゃなくてな。『使わなければ無いものと同じ』って日和った考えのジジイかババアが『上』に居る。だから、一生封印しとくなら禁術使いを殺さなくても良いってな」
「…………国ひとつ滅ぼしておいて、そんな話は通らないわ」
「ははっ! 分かってるじゃねえか! 俺ァ諦めねえ! 禁術を使う『可能性』が少しでもあるなら殺す! 滅ぼす! それが魔導連盟の理念だろうが! 絶対に殺す。それは絶対だ。なあ魔王!」
「…………」
プレッシャーが放たれる。『狩る側』のプレッシャーだ。
今この場で。戦闘になれば。
守り切れない。ヨージョは頬に冷や汗がたれる。
「……んだが、今は連盟内でごたついててな。俺はしばらくこの街に留まらなきゃならねえ。この街での戦闘は御法度だ。グレゴリオに殺される。だから、今回は『挨拶』だけだ。一等魔法騎士『六大魔王』第三席『火の王』ヨージョ・ファイヤー」
「…………なにそれ。挨拶?」
「まあ、お前が禁術使いを差し出すってなら話は早えんだがな」
「あり得ないわ。魔法騎士の名に懸けて。あたし達は禁術を保護する。何があっても」
「だろうよ。魔法協会の理念の塊がお前ら一等魔法騎士だ。最初からこの交渉は考えてねえ。だから挨拶だけだっつったろ。邪魔したな」
「!」
男は踵を返し、歩き始めた。
「ああ、言っとくか。俺の名前はドレイク・ノルンジャー。禁術の存在を決して許さねえ、ただの竜騎士だ。肩書は特に無えよ」
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