サイコパス勇者は今日も世直し。

猫寝

第1話 村は焼くもの

 どこにでもありそうなファンタジー異世界。

 どこにでもありそうな剣と魔法の世界。

 そこにいるどこにでも居そうな勇者様と、どこにでも居そうな女神様。


 ただ一つだけ違ったのは――――


「なんで勇者がいきなり村を焼くの!?」

 涙ながらに訴えるのは、青い長髪と白いローブに包まれたその体をフワフワと中空に浮かばせている女神様である。

「なんでって……その方が話が早かったから」

「被害の事とかは考えてくれないんですか!?」

 泣き過ぎて敬語になってますよ女神様。

「被害って言われてもなぁ……僕が言われたのは、街の中に入り込んだモンスターを倒せ、って話だったけど、建物の中からなかなか出てこなくて面倒だから建物ごと焼いちゃえ、と思ったら……いやー、まさか建物の中に大量の油があるとはビックリですよね。まあでも、結果的にはモンスター倒せたんで都合良かったですね」

 無表情のまま声だけはっはっは、と笑う勇者。

「笑い事じゃなーーーーーーい!!!」

 至極真っ当すぎる女神のツッコミにも全く表情を変えない勇者に、頭を抱える女神。

「あなたねぇ……初手で村焼く勇者って何なの!?もうちょっと人の迷惑とか、人の気持ちとか、考えられないの!?なんなの!?」

 その問いかけに対して、天を焦がすほどの大きな炎と、そこから逃げ惑う村人たちを見ながら、ほんの少しの沈黙の後、こう答えた。


「―――……人の気持ちってなんですか?」


 ―――ただ一つだけ違ったのは……勇者は、サイコパスだったのです。



「ぜはー、ぜはー!何とか村の人たち全員救い出したわ……」

「よっ、さすが女神様。神の名前は伊達じゃない!」

 空を飛ぶのも止めて地面に倒れ込んで肩と胸で荒々しく息をしてる女神様に、ボーっと見てた勇者の心のこもってないねぎらいが飛ぶ。

「なぜにぼーっと見ていたの!?手伝おうとか思わない!?」

「思わないです」

「そうでしょうね!!なんてったってサイコパス!!」

 無駄なことを言ってしまったわ、と吐き捨てる女神様。

 威厳はもはや欠片もございません。

「あーもう今日はこのまま帰って寝たい。……けど、さすがにこの村を放っておけないわよね……ちくしょうめが」

「女神様、口が悪いですよ」

「誰のせいよ!!」

 無駄とわかりつつも怒りながら、女神様は家を失い呆然としている人たちに目を向ける。

「くっ……うずく……!私の女神としての慈悲が疼くわ……!」

「ははは、中二病みたいですね」

「ていやっ!」

 天罰の雷(いかづち)が炸裂しましたが、勇者は無事でした。

「ちっくしょう!!転生する時に最近の流行だからとチートレベルに強くしてしまった私ちっくしょう!!」

「知ってます?そういうの、自業自得っていうんですよ」

「お前はもう口を開くな……!!」

 勇者の口に、大きく×マークのテープみたいなものが貼り付けられて、声を封じる事に成功した女神様。やったね、さすが神の力!

 しかし、本当の神の力を発揮するのはここからだった。


 女神様がふわりとその体を浮き上がらせたかと思うと、そのまま上空にまで昇っていく。

 ゆっくりと、光の柱に包まれながら浮上していくそのさまは人ならざる美しさを放ち、村が焼け絶望していた村人たちがその神々しさに涙を流しながら祈りを捧げ始める。

 その祈りに応えるように女神様が手をかざすと、そこから放たれる眩い光。

 周囲を白で包み込むような強い光に人々が目をくらませ、強く瞳を閉じることを余儀なくされる。

 瞼をも通り抜けて来るような強烈な光――――それは少しずつ薄れ、村人たちは恐る恐るめを開く。

 すると―――……誰かの大きな声が響く。


「村が……村が元に戻っている!!!」


 なんということでしょう。

 先ほどまで炎に包まれ焼け野原寸前だった村がすっかり元に戻っているではありませんか。

「神の奇跡だ……!」

「ありがとうございます女神様……!!」

「女神様が救ってくださった…!」

 村人たちは涙ながらに感謝の言葉を口にして、地面に跪き祈りをささげる。

 そして満更でも無い顔の女神様である。

 それを見て勇者は思うのだ。


 ああ、今あの人、めっちゃ自己顕示欲満と承認欲求たされてるなぁー……と。


「ひほへんひよふみははれまひはー?」

 そしてそれを実際に口に出すのだ。そういう人間なのだ。

 しかし残念、口はふさがれている。

 だが、何を言ったのか読みとった女神からはひどく睨まれているのだった。


 勇者は、それも気にしないのだけど。

 なぜならサイコパスだからね。


 この物語は、サイコパスな勇者と、そんな人間を勇者にしてしまった責任からフォローをするもそれによって自己顕示欲と承認欲求が満たされる女神の、見方によってはマッチポンプな物語である。


「誰がマッチポンプよ!!」


 さすが女神様、ナレーションにもツッコミを入れる辺り、腐っても神様ですね。

 はてさてどうなることやら。



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