僕の恋愛軍師~出会いというものは不思議でさ~

べいちき

1_へんなひと

 人生とは何だろう。そんな事を考えないほうがいいことを、僕は周りを見て知っているはずなのに、それでも考えてしまう。僕は笹倉正時ささくらまさとき、絶賛思春期真っ盛りの15歳。高校1年生だ。


「マサトキ、どうした?」


 高校の校舎の屋上。昼食時にここを開放するウチの高校、私立桜園さくらぞの高等学校はまあ。行いの一端に現れているように、開放的な校風を持つ。その屋上で僕がパック牛乳をストローで飲んでいると、3年の僕の兄貴、笹倉正治ささくらまさじが声をかけてきた。


「あー……。兄ちゃんか。それに透子とうこさん」


 兄貴は、デカい。何というかラグビー部の生徒! って感じで、ガチでデカい。そして実際にラグビー部員だったりする。スポーツ刈りの頭と、適度に日焼けした精悍な顔に浮かぶ自信確かな表情が爽やかだ。そして、兄貴の後ろには彼女の花菱透子はなびしとうこさんがいる。この二人、中学生の頃から付き合ってるんだ。


「フラれた……、よ」


 僕は思わずそう言った。兄貴はいつだって頭が良くて、優しくて、経験豊かで。相談を持ち掛ければいつも聞いてくれて、解決を助けてくれていたから。


「……誰にフラれた?」


 兄貴は、そう聞いてくる。


「1年の人気女子、蔵山水樹くらやまみずきって子だけど」

「……ああ、蔵山の妹か」

「? 蔵山さんってお兄さんいるん?」

「俺とおんなじラグビー部だ」


 そんな諸々の事を話していると。兄貴の彼女の透子さんが口を開いた。


「正治。だめだよ。今回は弟君の相談に乗っちゃだめ」


 とか、ぴしゃりと言った。


「? なんでだ? 透子。正時に彼女が出来たほうが、いろいろ経験積んでくれるじゃないか」


 兄貴は不思議そうに透子さんに尋ねる。


「わかってない。わかってないよ正治。男の子の自分の工夫が凝らされていない、何処かで聞いてきた告白の言葉なんかで。女の子が落ちるわけないでしょ?」


 むむ。一理ありそうな透子さんの言葉。確かに僕は今回。水樹さんに告白するときに雑誌で読んだ告白定型文みたいなつまらない言葉で告白をしてしまった。それが拙かったのかな?


「……まあ、そうか。透子のいう事にも理が確かにある。おい、正時。今回は自分で考えろ。俺と透子は飯食ってくる」


 そう言って、踵を返す正治兄貴。兄貴はウチの両親からの期待が絶大で、小遣いというか可処分金をけっこう貰っているので、それを使ってウチの学校の敷地内にある外食チェーン店の食事を食べに行くことがよくある。

 実は僕はそれが結構羨ましい。僕は自宅で朝早めに起きて、冷凍食品とか簡単な調理をしたおかずを詰め込んだお弁当を持って学校に来ているから。


   * * *


「はぁ……。フラれるって案外キッツイんだな」


 放課後。僕は校内で一番空調の効いた図書室で、明日の授業の予習をしていた。

 この習慣は、実は中学生のころからやっていて。何かにつけて優秀である兄貴が教えてくれた勉強法である。

 兄貴曰く『授業を答え合わせと復習に使うんだ』という事であるが。実際この習慣を始めたら、学業成績がぐんぐんと上がり。兄貴と同じこの私立桜園高校に入る事が出来たんだから、効果の程は証明されていると言っていい。とか考えていると。


「ふふふふふ……。ハートブロークンな少年発見!! ターゲットロックオン!!」


 とかいう、なんか柔らかいけど癖のある猫の鳴き声みたいな声が聞こえて。

 僕の背中に、何かの柔らかい圧がかかって来て。

 首にしなやかな両腕がからんできた……? これってもしや?


 誰かに後ろから抱き着かれた⁉


「だ? だれだよ⁈」

「うふー。名前言っても分かんないでしょ? 初対面なんだから」

「だから誰だって!! なんで僕に抱き着いてんだよ!!」

「傷心の少年を癒そうと思って♪」

「なにいってんだぁ~!!」


 僕は、首に回された『そいつ』の両腕を振りほどいて。

 後ろに向き直った。

 すると、すると。


「うわ……⁉ でかい……!!」


 何よりまず、やたらとビッグサイズのおっぱいが視界に入る。


「おいコラ少年。初対面でおっぱいに挨拶をするな」


 という、クスクス笑いが『その女子生徒』の口からこぼれた。

 ブレザー制服のウチの学校の。首につける紐ネクタイの色を見ると緑色。

 うちの学校は、1年生青色、2年生緑色、3年生赤色の紐ネクタイを着けることになっている。

 と言うワケで、名前も知らないこの女子生徒は1年先輩の2年生という事になる。


「ま。自己紹介しましょ。このままじゃ私、ただの不審者だからね」


 2年生の女子生徒がそんな事を言い始めた。


「私は『少年少女心理研究同好会』の会長、浅見光海あさみこうみ。よろしくね、ツーブロ」


 つ? 僕の事を『ツーブロ』という髪型が人格化したような呼称で呼ぶ、浅見さん。でっかい丸眼鏡を押し上げて、やっぱりクスクス笑ってる。


 なんだろこのひとへんなひと。


 でも、メガネの奥の色素が薄めの茶色い瞳から、確かに。

 理性と感性の光が見えたような気がして、僕は頷いた。


「僕は。1-Bクラスの生徒、笹倉正時です」


 と自己紹介をした。

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