きみに薔薇花束(アリシア)を  ~地獄の戦場を生き抜いた俺だが、男子ひとりの教室こそが本当の地獄だった~

カフカ

第1話 男子ひとりの教室

(アテナ……! アテナ……!! 返答をしてくれ!!!)


 俺の前世。人類は外宇宙より飛来した名状しがたき悍ましいモノたちから侵略された。西暦2030年。塵殺されていく人類は、その全て叡智を懸けてアルティメットAI・アテナを創造した。アルティメットAI・アテナの自己進化はシンギュラリティを実現し、人類では不可能だった人間の超兵器化を実現した。

 兵士だった俺も幾度も改造され、その超科学の力で地獄の戦場を生き抜いた。しかし、、、 終わることのない戦禍で戦友ともはみんな死んでしまった。家族はみんな殺された。全てはあの悍ましき邪神たちに。

 俺の唯一の家族。妻アリシアは前世において史上最高の科学者だった。アテナを創造できたのもアリシアの貢献が大きかった。蒼い瞳が美しい女性ひとだった。その愛しい声が聴きたくて、その安らぐ匂いに包まれたくて、ただもう一度アリシアに逢いたいという想いだけで俺は地獄の戦場から生きて帰ることができた。

 アリシアを愛していた。いや、異世界に転生して十四年の時が経た今でも愛している。その愛が俺の魂を奇跡へと導く。超弦虹速穿孔ゼーレ アクセルという神をも超越する力に覚醒して、全ての名状しがたき邪神たちを滅ぼせるというところまできた。ようやくアリシアと結ばれて平和な世界を共に生きられるという局面まできた時、俺たちの結婚式場に最強の邪神である極点種〝イヴ〟が現れて、人類を魂ごと根絶やしにする呪いをばら撒いた。更には超大質量ブラックホールで地球を飲み込み、西暦2043年12月24日に人類は幕を下ろした。

 しかし、俺の魂だけはアリシアの機転によって多次元宇宙へと逃がされた。どれぐらいの月日が流れたかは分からないが、俺はこの世界、魔法という科学とは異なる力が存在する異世界に転生した。

 そしてあの夜。俺の三歳の誕生日に夜空に虹色の流星が流れてこの異世界に堕ちた。奴らが来たのだ。この異世界にも。その日から俺は情報を集めて計画を立てた。アリシアのおかげで転生してからもアルティメットAI・アテナとの魂接続されていて、前世の叡智で悍ましき邪神たちを滅ぼす方法を確立することができた。しかしそれには複数人の協力者が必要だった。

 この世界の人々の平均的な魔法の力では決して届かないほどの力を持つ者。それは女神エアリアから特別な福音を受けた〝勇者〟と呼ばれる三人の少女たちだった。その少女たちこそが俺が必要とする力に到達しうる可能性があり、この異世界で邪神たちを完全に滅ぼすことができる可能性を秘めた者たちだった。

 三人の勇者と仲良くなり俺からの修行を受けてもらい邪神殲滅計画を実行できるほどまで成長させるために、彼女たちが入学するであろうこの世界の最高学府とも云われる魔法学園、星煌せいこうエアリアル学園へと入学することを決意した。そして七つの入学試験をクリアして三人の勇者たちと共に学べるエアリアル学園の最高峰、Ⅶ星スーパー レイティブのクラスで入学することができた。

 入学試験中には顔を合わせる機会がなかったため、入学日である今日が三人の勇者との初対面でもある。期待を胸に教室のドアを開けて一歩足を踏み入れた瞬間だった。

 それはあまりに唐突だった。

 アルティメットAIアテナとの通信を断たれたのだ。リンクが、魂で繋がっていた回線が何者かの干渉によって完全に断ち切られたのだ。いったいこの世界の誰にそんなことをできるというのか。

 多次元宇宙に本体を置くアテナとの回線は、俺の超弦虹速穿孔ゼーレ アクセルによって超銀河に匹敵する莫大なダークマターのエネルギーで構築した不可侵のプロテクトで守れていた。

 それがこの教室に入った瞬間に断たれてしまった。俺が超弦虹速穿孔ゼーレ アクセルを安全に行使するためには、アルティメットAIアテナにその力の演算処理をしてもらう必要がある。もしアテナに繋がっていない状態で超弦虹速穿孔ゼーレ アクセルを行使すると、一度の行使で俺の脳のシナプスは全て焼き切れて死に至るだろう。つまり俺はアテナとのリンクが復旧するまで超弦虹速穿孔ゼーレ アクセルを使えなくなったということになる。

 今この状況はこの異世界に転生してから最大のピンチといえるだろう。なぜならば、おそらく俺とアテナとのリンクを断ち切った犯人がこの教室に居るはずだからだ。あれほどのプロテクトを遠隔で断ち切るなど、あまりにも道理から外れ過ぎている。発動条件として犯人がすぐそばに居るはずだ。魔法? いや、そもそもそれほどの魔法がこの異世界に存在するのか。前世の宿敵。やはり名状しがたき邪神どもの中でも最高位の怪物がこのクラスメイトの中に居るというのか。

 俺は教壇から扇状に広がる教室を入り口から見渡す。既に着席しているクラスメイトとなる女子生徒59名のうち大半が振り返り俺を見ている。

「………………ト……」

「…………ベルト……」

「シュベルト・ウォルフスター!」

「は、はい!」

 教壇に立つ深紫の長髪を後ろでポニーテールに束ねた若く美しい女性が、俺の名を呼んでいることに漸く意識が向いた。あまりの想定外の事態に自分の世界に入って考え込み過ぎてしまっていたようだ。

「入り口で立ち尽くしていないで、早く着席しなさい。キミが用事で遅れるのは御三方から聞いている。既に大半の生徒の自己紹介は終わっているのでそのつもりで」

 俺はこの女性がなぜここに居るのかという疑問も頭に過った。なぜならば、教壇に立つ女性カタリナ・ブリュンヒルドは、このエアリアル学園の学園長なのである。俺の入学試験で何度も試験官を務めた人で、更には俺のこの異世界での両親も学んだ講師でもあり、更にはシュベルトという名の名付け親でもあるのだ。年齢は五十歳を過ぎているはずだか、二十歳未満の見た目をしているのには理由がある。しかし今はそれどころではない。学園長が授業が始まったている教室に居ることは、このエアリアル学園では常識なのであろうか。

「カタリナ先生がなぜここに?」

「ふむ、本来なら学園長がクラスの担任をすることはないのが、誰かさんが入試で派手に暴れてくれたから、このクラスの担任を引き受けてくれる正規講師が誰も居なかったのだ。やむを得ず私が学園長と兼任して務めることになった。理解したかね? ウォルフスター」

 なるほど、、、 俺のせいという訳か。それは迷惑をかけてしまった。

「とにかく早く座りなさい。」

 カタリナ先生の促しに俺はもう一度教室を見渡す。これってどこに座ってもいいのだろうか。前世の高校とかなら席順とか決まっていたが。ここは異世界の魔法学園だし、まったく違う常識とかがありそうだ。

「あの……、俺はどこに座ればよいのでしょうか?」

 素直に質問してみると、カタリナ先生は「ああ、そうか」と呟いた。

「キミは知らぬようだが、エアリアル学園の席順は基本的には自由だけれど、Ⅶ星スーパー レイティブの教室の真ん中の席だけは、前年度の最優秀成績者が座るという暗黙のルールが存在する。新入生の場合は入試の最高点獲得者だな。つまりは〝新星ノヴァ〟の称号飾りを胸に付けているキミということになる。分かったら早く座りなさい」

 カタリナ先生は俺を見た後に、この教室で唯一不自然に広めのスペースが取られている真ん中の席に目線を送った。椅子の色と形が少しだけ他のクラスメイトたちとは違う造りになっている。

 誰かが俺に攻撃を仕掛けてきている教室の真ん中に座れというのか。いや、今はそのことを考えても仕方がないのかもしれない。そんなことができる者が本気で襲撃してきたら、超弦虹速穿孔ゼーレ アクセルを使えない無力な俺では瞬きの間に殺されてしまうだろう。つまりは逃げても意味がない。腹を括って相手の出方を待つとしよう。

 俺はゆっくりと席に向かうために、歩み出す。教室は扇形に掘り下げられていて、机の間の通路階段を下ると教壇がある。真ん中の席。教室全体で一番目立つ席だ。

 クラスの視線が歩む俺に集まる。このⅦ星スーパー レイティブの教室に男子が踏み入れるのは、エアリアル学園の創立から五百年の歴史において初のことだろう。この異世界で女神エアリアによってもたらされた魔法は、男の魂には適合しなかった。科学ではなく魔法が人々の生活の根幹に根づくこの世界で男女の格差は凄まじく、男は低能な上に魔法による魂の負荷に耐え切れず、平均寿命は三十歳と女の半分しか生きられなかった。

 そんな女性が超優位な世界で、さらに一握りの魔導エリートだけが学ぶことを赦されたクラスがこの教室、それがⅦ星スーパー レイティブクラスだ。

 俺は転生してから一度も魔法を使ったことがない。前世の叡智。神をも超越した超弦虹速穿孔ゼーレ アクセルの力によって、生まれた瞬間からこの世界に住む誰よりも強かったからだ。正直、現時点では俺を脅かす力を持つ者など居ないと思い込んでいた。名状しがたき邪神でさえ、俺と戦えるほどの高位種の出現はまだまだ先だと思っていたからだ。

 しかし今、俺はアルティメットAI・アテナとのリンクを断ち切られて窮地に追い込まれている。この女子生徒たちの中に居るというのか。俺の仇敵が。

 クラスメイトの少女たちは俺を見ながら近くの生徒同士でヒソヒソと話している。嫌な汗が背中を伝う。攻撃者が俺とアテナとのリンクが断たれたことを確認するすべを持ちえない可能性もある。それなら力が使えなくなっていることを攻撃者に悟られてはいけない。俺は襲撃に備えながら真ん中の席に着席する。

「では、全員揃ったところで残りの者の自己紹介に移る」

 俺は息を整えることに全神経を集中させていた。アテナとのリンクを切断された動揺が大きすぎる。平常心を取り戻せ。でなければ、、、 次の瞬間に死……

「シャルラ。自己紹介を」

「はい」

 カタリナ先生に呼ばれて階段を下り教壇に上がった女子生徒。大人びた百合の花のような美麗な顔立ち。濃い碧色の髪を後ろできっちりと結ってお団子にしている。その美しい宝石サファイアのような蒼い瞳が一瞬だけ俺を見たように思えた。

「ガルデリア王国、シャルラ・ミオマルクだ。皆、仲良くしてくれ」

「えっ?」

 思わず声に出ていた。俺は勇者に会うために七年もの間、魔導の知識を学び試験勉強に時間を費やしたのだ。そして念願叶って勇者と対面することができたのに、、、

 その勇者はすでに見知っている少女だった。俺がエアリアル学園の第五次試験の日に偶然会い、そして一夜を過ごした少女だった。いや、別に身体の関係を持ったわけではないが、お互いの心が触れ合うような時間を過こしたと思っていた。

 彼女もエアリアル学園のどこかに居るとは聞かされていたが、まさかこのⅦ星スーパー レイティブでしかも三人の勇者のうちの一人だなんて。

 いや、だって、、、 勇者? 彼女が勇者? 戦うことが好きじゃないって………、将来の夢は運命の人のお嫁さんと頬を赤らめていた少女が………、勇者?

「では次、ミズキ」

 混乱する頭が必死に記憶を手繰り寄せる。自分が想像していた、そしてこの世界の機関誌しんぶんしに書き讃えられていた勇者像と、あの蒼い瞳の少女を合致させようと試みる。しかし合わない。合致しない。料理が上手で照れ笑いが可憐な少女が本当に勇者だというのか。

 席に着席するシャルラ・ミオマルクを目で追いながら、パニックになりそうな思考の手綱を握ろうとしていた。しかし教壇に上った別の女子生徒を見て、思考は停止する。

「リノアール王国、ミズキ・マイネスです。皆さんと共に学べることを

 彼女は「嬉しく思います」という時に俺を見た気がした。肩にかかる桃色の髪は以前会った時には前髪によって両目が隠れていて、自信の無さが全身から滲み出ていた。しかし、今その瞳は別人のように煌めきを放ち、溢れ出る魔導の才気が圧倒的なオーラとなって身に纏っているのが視えるほどだ。それこそ大好きな絵を描いている時の彼女の表情でもある。いったい何が彼女を変えたのだろうか。

「それでは、ハニエル。自己紹介をしなさい」

 花の香りに惹かれるように、ぼんやりとした想いでミズキ・マイネスに見入ってしまっていた。止まった思考がようやく動き出そうとしていたその時。

 聞き覚えがある声。いや、決して忘れることなどできない声が耳に届いた。

「あーしはルシュノヴァース皇国、ハニエル・クラーラ・ルシュノヴァースだよ。みんなよろ~」

 ひらひらと手を振っている。たぶん俺に向かって。銀の長い髪。血のように赤い瞳。口元からは犬歯が光り、病人のような白い肌をしている超絶美少女。服装は制服なのにピアスや、装飾品でビジュアル系ロックバンドのようなカスタマイズがされている。校則とかに違反していないのだろうか。いや、気にするところはそこではない。彼女は純血種の吸血鬼ヴァンパイアなのだ。そして彼女こそが俺の、俺たち人類の女神。この異世界でロック魂を紡いでくれたギャルなのだ。

 彼女も勇者だったというのか。俺は入学試験中に三人の勇者に出会って、さらには親交を深めていたのか、、、

 いや、、、 まずくないか!? だって俺は勇者に修行してもらわないといけないのに。名状しがたき邪神どもを滅ぼすにはどうしても三勇者の協力が不可欠だ。しかし俺は彼女たちエアリアル学園での四年間の自由のために戦ってしまったのだ。戦って自由を勝ち取ってしまった。彼女たちエアリアル学園を卒業するまでは、自由に恋ができて、自由に絵が描けて、自由にロックが唄えるのだ。

 しかし今度は俺が自由それを赦さないと、地獄のような修行をしろと彼女たちに告げなければならないというのか。

 そんなこと………、言えるわけがない。

「女子生徒の自己紹介は全員終わったな。では、最後にシュベルト・ウォルフスター。キミの自己紹介で終わりとする。キミは少し丁寧な自己紹介をすることをお勧めする。キミの未知の力に怯えている女子生徒も多いのでね」

「えっ!? 怯えているとはどういう意味でしょうか?」

 クラスメイトの大半と面識が無いのになぜ怯えられているのだろうか。

「シュベルト。キミは本当に自分のことに関して無頓着なのだな。キミがどのような成績でエアリアル学園の試験をクリアしたのか、その情報は包み隠さず全て公開されている。隠すと情報が漏れた時、余計に混乱と邪推を生じさせるからという判断だ。第六次試験でキミの担当試験官を務めた英雄ルエル・サラマンデラを置き去りにして一位入選したことや、第七次試験の試験官である御三方とどのような戦いをしたのかも全てだ」

「なるほど、、、 理解しました、、、」

 正直、もう頭がパンクしそうだ。この教室に入ってから色んなことが起き過ぎている。こんな時にはいつもアテナが最適なアドバイスをしてくれていたから、その叡智に頼り切っていたツケが回ってきたのだ。

 アテナとのリンクを断ち切った犯人が誰かなど今のところ検討もつかないが、それでもこのまま座っている訳にもいかないだろう。動揺を抑えて俺はゆっくりと立ち上がり教壇への階段を降りて行く。

 どこを見ても女子ばかりと思っていたら、前の隅の方の席にフィーナの姿を発見した。目と目が合うとフィーナは花が咲いたような微笑みと共に、小さく俺に手を振ってくれた。そんな彼女を見た瞬間、とても心が安らいでしまった。この異世界に転生して0歳のころから、2歳に年上だったフィーナは俺の傍に居てくれた。

 成長すると共に俺の面倒を見てくれるようになり、いつも手を引いてくれたのだ。前世に姉弟は居なかったけれど、俺にとってフィーナは大切で居てくれるだけで心強い家族なのだ。

 命が狙われているかもしれない状況だけれど、それでも落ち着いて教壇に立ち教室を見渡すことができた。

 自分の席を中心として上部にミズキ・マイネスが座っておりその周囲にリノアール王国の出身者と思わしき取り巻きの生徒たちがかたまっていた。リノアール王国の女子たちは如何にも才女というエリート魔導師の雰囲気を漂わせている。中には一人金髪で耳が尖って長い女子も居た。まさかあれは超希少種と云われる〝エルフ族〟なのか。感情を読めない視線でじっと俺を見ている。

 俺の席から左側にはシャルラ・ミオマルクの一団が座っており、魔導騎師と一目で分かってしまう。なぜなら彼女たちは帯剣しているからだ。エアリアル学園は武器の所持が認められている。俺も腰に刀を帯刀しているが誰からも苦言を呈されることはない。それこそ剣術の授業さえあるのだ。たしか選択授業だったとは思うが。シャルラの取り巻き達の眼光は鋭く俺を値踏みしているようにさえ感じる。

 カタリナ先生の言うような怯えている気配はしない。フィーナはガルデリア王国の女子生徒に混じって座っているようだ。エルアドロス王国はガルデリア王国の属国みたいな立ち位置なので、エルアドロス王国王女であるフィーナを知る者たちも居るのかもしれない。

 そして俺の席の右側には、肌が病人のように白い女子生徒たちが集まって座っている。朱い瞳の少女たち。その中にハニエル・クラーラ・ルシュノヴァースは座っていた。10人くらいの集団だが、おそらく全員吸血鬼なのだろう。皆がハニエルと同じように、派手な外見をしている。ていうか、正直怖い。ギャル集団が怖くない男子など存在しないだろう。後で絡まれないようにあまり見るのはやめておこう。

 俺は教室全体に響く声で自己紹介をする。ここで弱腰を見せると敵が襲ってくる可能性もあるからだ。

「エルアドロス王国出身、シュベルト・ウォルフスターです。いろんな噂が流れているようだけれど、自分に恥じるようなことは何もない。クラスメイトであるみんなも己の眼で見て俺という人間を判断してほしい。以上です」

 よし。綺麗に締めれた。ペコリと頭を下げて席に戻ろうとした時だった。

「あの……、質問いいですか?」

「へっ!?」

 ガルデリア王国側に座っている女子生徒が控えめに手を上げ、少し緊張したような声で俺に問いかけてきた。

 自己紹介に質問コーナーなどあるものなのだろうか。

「えっと、、、 なんでしょうか?」

 彼女は軍隊で訓練を受けたようにすっと立ち上がり「シュベルト君は今彼女は居ますか?」と問うてきた。

「い、、、 いや、いませんが、、、」

 俺の返答で教室が一気に沸いた。女子生徒たちは近くの者同士で好き好きに話を始める。カタリナ先生の「皆、静かに! 静粛に!」という言葉が搔き消された。怯えられているのではなかったのか。男子ひとりというのはこんなにも女子にモテるのだろうか。

 次々と手が上がり、「好きなタイプは?」「私なんてどうですか?」「昼食ご一緒しませんか?」など、俺が返答する間もなく矢継ぎ早に質問が投げかけられる。正直悪い気はしない。誰が敵か分からない状況で浮かれている場合じゃないが、こんなにたくさんの女子から話しかけられて嬉しくないわけがない。

 腑抜けた表情になりそうな瞬間だった。三人の勇者から教室中が圧し潰されるほどの魔力が解き放たれた。

 暴虐な魔力は女子生徒たちの口を強制的に噤ませる。

「そんなプライベートな質問攻めはやめなさい。彼が困っている」

 シャルラは冷淡な口調で睨みを利かせる。いや、女子生徒たちではなく明らかに俺を睨み付けている。なぜ俺? ていうか、おまえが言えるのか。俺の家族構成から趣味嗜好。さらにはキスの経験まで問うてきたおまえが。

 抗議しようかとしたけれど、ジトっと俺を睨む蒼い瞳が怖すぎる。思わず目を逸らしてしまった。

「皆さん、淑女として殿方にはそんな破廉恥な接し方をしてはなりませんよ」

 ミズキは穏やかな口調で、笑顔をみせた。しかし身体から吹き上がる魔力は活火山の噴火のようだ。ていうか、俺の下半身を勃起させるために自分のデカい生乳を顔面に押し付けてきた女の言うセリフか。さすがに反論するべきかと思ったけど、彼女が俺に向ける笑顔が怖い。コイツってこんなキャラだったかな、、、

「あーしたちは選ばれしⅦ星スーパー レイティブなんだから、もうちょい自覚をもっていこーね」

 ハニエルは尖った犬歯を光らせて周囲を威圧する。主に俺を。いやいや、なんで俺を威圧するの? 俺のことダーリンとか呼んでくれていたじゃん。しかもエアリアル学園の入試とか心底どうてもいいっていう態度だったような……。

 なぜ急に意識高い系に覚醒してしまったのか。どう見てもギャルなのに。意識高い系の吸血鬼ギャルとか属性が渋滞してる。でも明らかにイラついているギャルに言い返すなどできるはずもなく、俺は無様にも沈黙を選択する。

「三勇者の言う通りだ。皆も規範たる彼女たちを見習い、このエアリアル学園のⅦ星スーパー レイティブクラスに恥じない生活態度を心掛けるように。シュベルト、席へ戻りなさい」

 俺はカタリナ先生に促されて自分の席へと戻る。そしてその時、教室の一番後ろの右手側奥の席に座る二人の女子生徒に視線を送る。

 あの二人のうちの朱暗い色をした長髪の女子は三勇者が魔力を解き放った時、この教室内で唯一まったく怯みを見せなかった。威圧に対して平然としていた。

 俺はあの二人に見覚えがある。名前もしらない二人だが

 そして現在この教室内で一番怪しい二人組といえる。もちろん俺に攻撃を仕掛けてきた犯人としてだ。

 さて、この後はどうするべきか。

 授業が終わってから三人の勇者と話したいこともある。三勇者と親交を持つためにこの積年の努力でこの学園の入学したのだから。

 しかし、アテナとのリンクを断ち切られた今は、その攻撃者を探す方が先なのではないだろうか。後ろの隅の席に座るあの怪しい二人。


 俺は二人に接触を図ることを決意する。

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