後宮の臨時女官 ~悪縁を断つ救国の巫女は皇弟に溺愛される~
山田露子☆12/10ヴェール漫画3巻発売
第1話 団子屋の娘、なぜか出世する
「楽しくなってきた――歓迎するぞ、雪華よ」
何が楽しいのかよく分からないが、皇帝が団子屋の娘に対し、「ようこそ」の気持ちを伝えてきた。
* * *
のどかな山村で育った
姐姐と呼んでいるけれど、ふたつ年上の
雪華は赤子の時に捨てられ、団子屋を営んでいた姐姐の両親に拾われた。
養父母には可愛がってもらったが、彼らが早くに亡くなると、以降は姐姐が雪華の面倒を見てくれた。
姐姐は
蒸し菓子の
「――ほら
と言って。
「
雪華がもらったそれを半分に割って返すと、燕珠が軽く口角を上げる。
「ありがとう」
燕珠がお礼を言うのは変なのだが、雪華が「半分こしましょう」と提案すると、姐姐はいつもそう返した。彼女の低く綺麗な声を、離れ離れになった今でも雪華は鮮明に思い出せる。
姐姐との幸せな暮らしがずっと続くものだと、雪華は当たり前のように信じていた。
けれどそんなことはなかった。何事もそう、終わる時は呆気なく終わる。
――ひと月前、大好きな姐姐が失踪した。
きっかけは、故郷の村に後宮から使者が来訪したことだった。
後宮に入りたくなかった姐姐は自ら姿を消したのだ。
姐姐が去り、彼女が大切にしていた不思議な
もしも――……もしも後宮から誰も訪ねてこなかったら、私はまだ姐姐と一緒に暮らせていたのかな……。
雪華がぼんやりとあの朝のことを思い出していると、
ハッとして気持ちを引き締める。
ひとりぼっちになった十六歳の雪華は、どういう訳か今、国の中心である
宮殿の玉座には
礼をとる臣下たちの一番前にいるのが、
ひと月前まで「団子屋の娘」と呼ばれていた自分が、一体なぜこんなことに――……。
慶昭帝が気まぐれに唇の端を上げる。皇帝は明らかにこの状況を楽しんでいた。
「
役職……やだ、嘘でしょう?
こんな話、きっと誰も信じないわ……山村育ちの団子屋の娘が、突然部下十名を束ねる官吏になるなんて!
雪華は自分の右斜め後ろにいる、端正な青年の存在を強く意識した――先に
ああ、なんてこと……
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