第18話

俺は今、豪華なクルーザーの上でフレンチを食べている。船上から美しい街の夜景を眺め、これが麻耶と一緒ならどれだけ楽しい思い出になるだろうと妄想してみる。


「先生ってば!」学生達が、痺れを切らして麻耶のことで頭が一杯の俺の肩を叩く。「美味しいのは分かるけど、ガツガツ食べてないで記念写真撮りましょうよ!」


このディナークルーズデートのために母親に金を借りた俺は、とりあえず学生らと一緒に楽しむことにした。そうしたいからではなく、1人でぼんやり考えていると、涙が出て来そうだからだ。


俺たちは、豪華なディナー、美しい船からの夜景、そしてピアノとバイオリンの生演奏と、文句のつけようがない最高の模擬デートを過ごしていた。


その最中、学生の一人が俺の隣に座り、手を軽く握ってきた。どうやら甘いデート感を演出したいらしい。俺はぼんやりしたままだったが、彼女はそんな俺に問いかける。


「先生、人ってね、1番好きな人より、2番目とか3番目に好きな人と一緒になったほうが幸せになりやすいって聞いたんですけど、先生はどう思います?」


それは、何だか今の俺の心境にひっかかる質問だった。俺は大好きな麻耶と付き合ってもいないし、振られてもいない、そして面と向かって怒られてもいない。それなのになぜこんなにキツいんだろう。これでもし告白して振られたり、あるいはしないまま会えなくなったら、どれだけ苦しいのだろうか?


例えば2番目が、隣にいるこの女の子だとすれば、一緒にいて、些細なことでそこまで傷つくことはないような気がする。

きっとそのことを言ってるんだろうと思った。だとしても…無理だ。


「それは本当のことかもしれないけど、きっと1番好きな人がいるのに、2番目や3番目に好きな人と一緒になるのは、1番目と一緒にいれない痛みを癒やしてもらってるだけなのかもな。」


学生は少し驚いた顔をした後、真剣な眼差しで俺を見つめた。「先生って、意外とロマンチストなんですね。」


「いや、そういうわけじゃないけど…」俺は視線を逸らしながら答える。確かに、自分でも少し恥ずかしいことを言ったような気がした。でも、本心だった。


「じゃあ先生は、1番好きな人と一緒になるほうがいいってことですか?」


「そうだな…結果的にそうならなくても、少なくともその人を諦める理由は、自分で納得できるものじゃないと苦しいんじゃないかと思うよ。」自分でも驚くくらい、今の自分の心に正直な言葉が出た。


学生は少し考え込むように頷いた。「そっか…先生って、そういう考え方なんですね。何だか少し見直しました。」


「見直すって、どういう意味だよ?」俺は苦笑しながら尋ねたが、学生はそれ以上何も言わずに夜景のほうに視線を移した。


俺も彼女の横顔を見つめながら、ふと考える。1番を目指すべきだという自分の言葉に、自分が背中を押された気がした。麻耶との関係がどうなるかはわからない。でも、ただこのまま終わらせるのは嫌だ。


夜景の輝きは美しいけど、麻耶の笑顔のほうが何倍も輝いている気がする。 俺はそれを、どうしても取り戻したいと思った。

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