サンタクロースと星の子族のミミとリリ
月白 蓮
第1話 サンタクロースと星の子族のミミとリリ
明日はクリスマスイブ。
世界中の子供たちに、プレゼントを配るという大仕事がある。
子供たちの喜ぶ顔を思い浮かべては、それはそれは豊かな気持ちになるものだ。
しかし、困った。こんな時にトナカイが足をケガしてしまった。ソリを引いてくれているトナカイも、申し訳なさそうにしょんぼりしている。
「どうしたもんか……」
夜明けまであまり時間がない。解決策がみつからないまま、いたずらに時間は過ぎていくばかり。
「なんとかしないと、せっかくのクリスマスイブが……」
気持ちが焦り始めた頃、視界の端にキラリと光るものをみた気がした。
「……気のせいだろうか?」
辺りを見渡してみても、何もない。一瞬、助けが来たのかと少し期待してしまった。
「どうしたの?」
やっぱり、気のせいではない……
しかし辺りを見渡してみても、やっぱり声の主は見当たらない。
「どこにいるんだい?顔を見せておくれ」
「ここよ!ここにいるわ。さっきから」
しかし、どこを見ても姿が見えない。
「からかっているのかね?遊んでいる場合じゃないんだが……」
「トナカイさんの頭の上にいるわ」
えっ?と思い、視線を落としトナカイの頭の上を見ると……
なんて小さいんだろう。小さな小さな女の子がそこには二人いた。
「すまない。小さくて見えなかったよ」
「そうよね。ごめんね」
そこには体長15cmもなさそうな、小さな小さな女の子が二人いた。
「さっきから何をそんなに困っているの?」
「トナカイが足をケガしてしまってね。プレゼントが配れなくなってしまって、困っているところなんだよ」
「足?」
そういうと一人の女の子は背中についた、それはそれは小さな羽根をパタパタとさせながら、トナカイの足を確認した。
「本当、とても痛そう」
「もう、大丈夫よ!私たちが治してあげる」
「治す?」
「えぇ」
「君たちはいったい……その、随分と小さいね」
「ふふっ。そうね」
「妖精?」
「妖精ってなぁに?」
「ん~……」
困った。聞き返されるとは思わなかった。
質問しておいてなんだが、聞き返されると何だろうか?自分でもうまく説明できないのだ。
だが今はそれどころではない。
「ミミ、手伝ってよ」
そういわれると、ミミと呼ばれた子は、もう一人の子のもとへ飛んで行ってしまった。
いったい、本当に今日はなんて日なんだ。
トナカイの足元をのぞき込んでみると、そこには二人の小さな小さな女の子たちが、小さなステッキをかざしながら、なにやらつぶやいている。
すると次第に二人は発光しはじめた。まばゆい光に包まれた二人から、キラキラと輝いた光のシャワーが放射線状に私たちに降り注いだ。
なんて綺麗なんだろう。不思議だ。力がみなぎってくるような感じだ。
すると、動けなくなっていたトナカイが立ち上がった。
「なんてことだ!もう大丈夫なのか?」
そう問いかけると、トナカイも返事をするように鳴いた。
「これで、もう大丈夫よ!」
「ありがとう。本当にありがとう!」
「これで、プレゼントが配れるわね」
ハッとした。そうだ、時間が!!
「夜明けまでは、あと……」
首からぶら下げてある懐中時計を確認した。まずい、あと3時間もないではないか。
「あら、まだ何か困っているの?」
「夜が明ける前までに、このプレゼントを配り終えないといけないんだ。プレゼントは、子供たちが寝静まっている時に配り終えないと……」
「まだ、たくさんあるわね」
「ミミ、私たちもお手伝いをしようよ!楽しそう」
「ん~…そうね。子供たちが悲しむのはよくないわね」
「君たち……」
「大丈夫、私たちもお手伝いするわ」
「君たち、今更だがお名前は?」
「私は、ミミ」
「私は、リリ。早くいきましょ!楽しみ」
「あなたのお名前は?」
「そうだった。聞いておいて名乗らないなんて、失礼なことをしてしまったね。私はサンタクロース。こっちはソリを引いてくれているトナカイのベル」
「あら、あなたはベルという名前だったのね」
そうミミがいうと、ベルも鳴いて返事をした。
「それじゃぁ、出発しようか」
そう声をかけると、トナカイは軽快に夜空を走り出した。
本当に、ケガは治ってしまったようだ。驚いた。なんてことだろう。
「ソリというものに、初めて乗ったわ!」
「君たちは飛べるのに、そんなに喜んでもらえるなら、私もベルも嬉しいよ」
「飛べるけど、飛ぶのって結構疲れるの」
「なるほど、確かに飛び続けるのは、とても疲れそうだ」
ミミの横で、リリはソリをたいそう気に入ってくれたようで、とても喜んでいた。
「みんなに、帰って自慢しなきゃ!こんな、楽しい乗り物はじめてだわ」
「ふふっ、そうね」
楽しそうにしていたリリだったが、フッと自分たちの後ろにある、たくさんのプレゼントを見てつぶやいた。
「けど、プレゼントまだ、たくさんあるね」
「そうね、楽しんでばかりいられないわね」
「1つ1つ届けるのは、少々時間が掛かり過ぎてしまう。どうしても、子供たちが起きる前に届けなくてはならないんだ」
「魔法で、みんなに届けようよ!そしたら、ソリで遊ぶ時間ができるわ!」
その言葉を聞いて、ミミはやれやれといった感じでこう言った。
「あなたのいいところは、そういうのんきなところね」
「そう?心配しなくても、何とかなるわ!私たちがいるんだから」
リリの横でため息をつくミミ。
「でも、そうね。朝起きてプレゼントがないなんて、がっかりだものね」
「西にそれから南。まだ、こんなに届けなくてはいけないところが残っているんだよ」
「そうなのね。それじゃぁ、あそこまで行ってくれる?」
そういって指さした先は海の上だった。
「海?」
「えぇ、あそこがちょうどいいわ。リリもそう思うでしょ?」
「うん」
言われたとおりに、海の上でソリを止めた。
「こんなところで、何をするんだい?」
「見てて!」
すると、二人はスーッと宙に浮かび上がった。
いったい何が始まるというんだ……
次第に二人は発光しはじめ、小さな小さなステッキを手に、祈りを捧げると二人は同時に叫んだ。
「テリオス!」
すると、二人から光のシャワーが放射線状に広がっていく。ソリに積んであったプレゼントは、放射線状に広がっていく光のアーチの上に乗って運ばれていく。
「なんてことだ!まるで夢でも見ているようだ……」
何が起きているのだろう?
本当にプレゼントは子供たちに届くのだろうか?
この二人はいったい……
ソリに積んであったプレゼントの山は次第に少なくなり、あっという間に、ソリは空になってしまった。
「あんなに、たくさんあったプレゼントが……」
あっけにとられていると、ミミが目の前にきて言った。
「心配しなくても、プレゼントは子供たちにちゃんと届いているわ」
「そんなに心配なら、見に行こうよ!」
「リリはソリに乗りたいだけでしょ」
「そうだね。疑っているわけではないが……でも」
ミミはにっこりと笑ってこう返してきた。
「見せることもできるけれど、行きましょうか」
「見せる?」
「えぇ、下を見ていて」
「下……?海しかないが……」
するとミミは、ステッキを手に「それっ」という掛け声とともに、手に持っていたステッキを海に向かって振った。
言われたとおりに下をのぞき込むように見ると、海面にはプレゼントが子供たちのもとに届いている様子が映し出された。
「君たちは、こんなことまでできるのかね?」
「えぇ」
「さぁ、行こうよ!」
リリのその言葉を聞いて、再びため息をついたミミとリリを乗せて、トナカイは光のアーチの上を軽快に走り出した。
確認するも、どの家にもプレゼントはきちんと届いていた。
え?どうやって確認したのかって?
届いていない家にはね、分かりやすく真っ赤なビックリマークが家に付いているんだよ。サンタクロースにしか見えないんだ。
おっと、でもこれはここだけの話にしておいてほしい。
「今日は、最高な日ね!」
「そうね、でも少しお腹が空いてしまったわ」
「魔法を使い過ぎちゃったね」
「これを食べるかい?」
そういって、二粒のチョコレートを差し出してみた。
「わぁ、なんてごちそうなの!」
「食べてもいいの?」
「もちろん!いいとも」
二人は嬉しそうに二粒のチョコレートを受け取りおいしそうに頬張った。
「二人とも小さいから、一粒のチョコレートが大きく見えるね」
「私たちからしたら、一粒のチョコレートもごちそうになるわね」
「うん!」
「君たちは、いったいどこから来たんだい?」
「それは言えないわ」
「君たちに家族はいるのかい?」
「いるよ!」
「私たちは、星の子族という種族なの」
「星の子族。はじめてきいたよ」
「そうね。普通の人間には私たちは見えないの」
「サンタさんには、なんで見えるのかなぁ?」
「そうね。どうしてかしら?」
「ベルにも見えているようだし」
そう私が言うとリリが言った。
「動物はともだちだから!」
「友達?」
「うん」
それを聞いてベルも嬉しそうに鳴いた。
「そろそろ帰らなきゃ」
「とーっても楽しかった!ありがとうサンタさん!」
「こちらこそ、助けてくれてありがとう。今年のクリスマスイブもクリスマスも、君たちのおかげで子供たちが幸せに過ごせるよ」
「それは、よかったわ。私たちも嬉しいわ」
「そうだ、サンタさんにソリに乗せてくれた。お礼だよ!それっ!」
そういうとリリは空に向かってステッキを振った。すると次第に雪がポツポツと降り始めた。
「おぉぉ、本当に君たちは凄いな。助けてもらった上に、こんな素敵なプレゼントまで貰えるなんて」
「あら。サンタクロースは、プレゼントを貰ってはいけないという決まりでもあるの?」
そう不思議そうな表情で、ミミが訪ねてきた。
「いや、そんな決まりはないね」
「ふふっ。良かったわ」
雪が降る中ソリを走らせると、二人は大喜びだった。
「今日はありがとう。優しい優しい星の子族のミミ、リリ。お礼にこれを持って行ってくれ」
そういって小さな小袋に入ったチョコレートを二人に渡した。
二人は目を輝かせていう。
「いいの?」
「やったー!」
「いいんだよ。ぜひ家族と一緒に食べてくれると、私もベルも嬉しいよ」
二人はありがとうと叫んで、飛び立っていってしまった。
「さようなら、優しい優しい子。ありがとう星の子族のミミ、リリ。今日のことは忘れないよ。良いクリスマスを……」
サンタクロースと星の子族のミミとリリ 月白 蓮 @ren_tsukishiro
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