第6話 オオカミ少年②

「……ちゃん! お兄ちゃん!!」

 首を動かして視線を向けると、日向と華が俺の手を握って泣いていた。


「あれ……、どう……して?」

 口が乾いていて、うまく声を出すことができなかった。


「お兄ちゃん!! 気がついたんだね!」

 日向と華は嬉しそうに目を細める。


「ここ……は?」

 俺は首を動かして辺りを見回した。

 今寝ている場所に、まったく見覚えがなかった。


 日向と華は顔を見合わせると、困ったようにこちらを見た。

「私たちもわからないの。気がついたらここにいて……。私と日向もそれぞれ別の部屋にいたんだけどね。あ、変な双子には会った?」

 華が身を乗り出すように聞いた。

「双子……? 何のことだ?」

「そっか……。お兄ちゃんは会ってないんだね」

 華はどこか残念そうだった。


 そうだ。俺たちはあれから三人で逃げたんだった……。

 俺が捕まるのは別によかった。

 ただ、華や日向のことは絶対にバレるわけにはいかない。

 それで、包丁や杖を持って逃げたんだった……。


 俺はゆっくりと体を起こした。

 もしかして、俺たちは何かあって死んだのか?

 それでここに? 日向や華まで巻き添えにして?

 ここが死後の世界だとしたら、俺には今、後悔しかない。


 辺りを見ていると、枕元に本があることに気づいた。

 それは『オオカミ少年』の絵本だった。


 嘘ばかりついて、誰にも信じてもらえなくなった少年の話……。


「俺、自首するよ……」

 思わず口から零れた。

 もしまだ俺が死んでいないのなら。やり直せるのなら。


 俺の言葉に、日向と華が顔を見合わせ、ゆっくりと頷いた。

「私たちもそうしようって、さっき話してたの」

「お、おまえたちはダメだ! 自首するのは俺だけでいいんだよ!」

 俺は慌てて言ったが、二人は静かに首を横に振った。

「そんなのダメ。全部本当のことを話すべきなのよ。お兄ちゃんを悪者にして逃げるのはもう嫌なの」

 日向と華はまっすぐに俺を見つめていた。

「一緒に行こう?」

「華……」


 そのとき、突然の眠気に襲われた。


 あれ、今まで寝てたのに、なんで……。

 重い瞼を上げると、華と日向も眠そうにしていた。

 これは……。


 ギーッと音がして、部屋の扉が開く。

 扉の向こう、二人の少女の姿がかすかに見えた気がした。

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