その4
〇
歴史本のコーナーから45日。地下への階段を下ると、そこはアーチ状の石造りの構造と薄暗いランタンの明かりが神秘的な雰囲気を演出していた。貴重な本が保管されていそう、とは今思うことではないか。司書さんから聞いていた話通りなら、入り組んでいるように見えて直進すればいいだけだ。
ここらは読めない本が大半で、時間をつぶせない。
腰に括り付けていた図書館の本を改めて見ると、文字のつくりが似ている。読み解くことができれば何かの助けになるかもしれない。あたりの本を引っ張って、もう一度頭をくらくらさせた。
地下を歩いてみれば、ほこりがたまっているところがあったり、なんなら箒が立てかけてあったりと人の気配を感じる。同時に、よりにもよって地下なんだとも思う。地下はあまりにも薄暗い。肌にかかる情報量が少なくて、目を閉じそうになる。
水の入った桶が目に入った。
あっ!
ここはよく響く。しばらく足を止めて頭をくらくらさせていたところ、絵本に出てくる魔法使いの風貌をした人が声をかけてきた。
「まさか、ここで人に会えるとは」
「あ、こんにちは。あなたは」
「魔法使いだ」
「わあ!」
〇
「おれはスミンの魔法使い。君は」
「私は、日本の国の社会人です」
「ニホン? スミンの海の向こう側の国のことか?」
「えーっと、なんというか。そもそも違う世界の人間だと思います」
「……」
「……」
「私の世界に、『スミン』はないし、魔法使いはいないんです。だから、初めましてです」
「驚いた。しかも、君はそんなに驚いてないんだな」
「ここに迷い込んだ時、案内してくれた人が別の世界の方だったんです。その人はスミン出身じゃないですけど、こういうことが起こりうる場所なんだなって」
「へえ」
「それと、この図書館にいるせいで感覚がだいぶ鈍ってます。本当は飛び跳ねたいくらいです」
「本当なんだな」
「え、それはどうして」
「心を読めるんだよ」
「……」
「今、試しに嘘つけ、って考えたのもわかる。それに、図書館に対して非日常をくれていることから好意的なのもわかる」
「……」
「おれがここに来たのはつい最近、のはずだ。日にちの感覚がどんどんズレていくせいで、正確にはわからない。この空間が安全なのがわかって、少しとどまっているところだ」
「……」
「誰とも会ってない」
「……」
「おれを試すのもそろそろいいんじゃないのか」
〇
別の世界のことについては考えていた。歴史本曰く、司書さんが異世界人ということもあって、それなら火星人だって、月の住民だって、もっと別のなにかの世界から来たっていい。じゃあ、言語はどうなるのかと。どうも、魔法使いさんはスミン語を使い、そしてまた私もそう話しているように聞こえると言った。なんて都合いい。空に文字を書いてみる。翻訳はされない。そう都合いいわけではないらしい。
魔法使いさんはいろんなものを見せてくれた。まずは魔法といって、本を浮かせたり、火や水を出してみたり、占いをしてくれたり。私にも出来るものだと話してくれたが、才能は無いようだった。
スミンの文字はあまりにも難解だったので私が諦めた。知らない単語が多すぎる。
2人で図書館の本を読み解くことにした。時間があるのはいい。本の文字がローカライズされていないのは何か理由があるんだろうか。わからない。
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