山へ行こう!

浅野エミイ

山へ行こう!

 私は今日、山へ行く。山と言ってもそんなに都内から遠くない。秩父の、山の中にある神社へお参りに行くのだ。

 秋の、本格的に寒くなる前の時期。紅葉にはまだ少し早い季節。こんな中途半端なときになぜ行くのか。自分でもよくわからないが、山が呼んでいるからとしか言いようがない。なんとなく山へ行こうと決めた。しまっていたトレッキングシューズを出し、リュックサックに昨日買った飴やチョコ、タオルを入れ、準備は万端。朝6時49分の電車で秩父へ向かう。

 今は朝4時半。朝ごはんにしよう。今日は作る余裕なんてないから、カップ麺で済まそうと昨日スーパーで買ってきた緑のたぬき。赤いきつねより、緑のたぬきのほうがカロリーが高いから、山に行く朝食べるのには好都合。ポットは壊れてしまってないから、お湯を鍋で沸かす。

 ――秩父は寒いだろうな。それでも空気が澄んでいて、きっと気分もすっきりするだろう。電気をつけていても暗いのかコンロの青く光る炎が光る。美しいな。まだ紅葉には早い山。だけど行ったら、何か自然の美しいものを見つけられるだろうか?

お湯が沸騰した。緑のたぬきのふたを半分開けて、粉末スープと七味の袋を取り出し、片方だけ封を切ると、スープを麺にふりかけ、お湯を注ぐ。

 朝の、3分間の静かな時間。そういえば、前に山へ行ったときも朝ごはんは緑のたぬきだったな。同じようにお湯を沸かして。前日はわくわくしていたけども、いつも出掛ける前は落ち着いている。それはきっと、この3分間があるからだろう。

 スマホのタイマーが鳴ると、私はフタを取ってまず天ぷらにかじりつく。毎度食べていても、天ぷらのふやけ具合が気になってしまうのだ。おつゆについている部分は柔らかく、ふわふわ。でも表面はカリカリしていておいしい。麺もそば粉の香りがふわんと鼻を抜けていく。出かける前の緑のたぬきは、山の蕎麦屋と比べても引け目がない。ただ、山の蕎麦屋にどうしても負けてしまうところは、きっとさらに地元の名物であるという最高の味付けがあるかどうかというところだろう。

 私が緑のたぬきを食べるとき。それは山へ行く前の高揚感とともにあるときだ。きっと今日も、楽しい山散策ができるだろう。さぁ、食べ終わったら出発だ。

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山へ行こう! 浅野エミイ @e31_asano

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