おかえりなさい、日本

浅野エミイ

おかえりなさい、日本

『Welcome to JAPAN』

『おかえりなさい』


 そんな広告が空港を飾っていたのは何年前だろうか。海外の赴任先からやっと帰ってきた。2年ぶりの日本。赴任先では濃い味の食事ばかりだった。日本食もあったと言えばあったが、やっぱり海外の人の舌に合わせている感じがして、イマイチ好きになれず。早くだしの効いた何かが食べたい。しかし、これからしばらくの間、隔離期間だ。

 私は空港で滞在先になるホテルやそこまでの交通機関を届け出ると、タクシーに乗り込む。

 さて、ホテルでの隔離期間、どうしようか。テレワークで仕事はできるけども、不要不急の外出はできない。それでもコンビニは不要不急の外出には当たらないので、そこでしばらくの間の食事を買い込む。主にインスタント食品。だが、ホテルの部屋にはレンジがないので、カップ麺ばかりになってしまうが。私はそのとき、緑のたぬき天そばに目が行った。

 そばだ。日本のそば。しかも天そば。久しぶりのそば。私は気づいたら棚にあるだけの緑のたぬきをかごに詰め込んでいた。

 ホテルの部屋に着くと、さっそく手洗いうがいをして、ホテルの部屋にあるポットでお湯を沸かす。その間にフィルムを剥がし、中の袋を取り出しておく。日本に帰ってきて、久々のそばだ。ああ、楽しみだなぁ。袋に入っていた粉末スープだけ入れ、お湯が沸くのを待つ。七味と一体になった袋だが、七味はやっぱりあとから入れたい。

 そういえば、日本勤務だったときは、よく立ち食いそばを食べていたな。だけど今日は緑のたぬきだ。基本的に料理はできるから、緑のたぬきのお世話にはあまりなったことがないが……今日は思う存分堪能させてもらう。緑のたぬきのおつゆは、ともかくだしが効いていてうまかった記憶がある。

 お湯が沸いたので入れて、3分間。腕時計は自動で現在の日本の時刻を刻んでくれている。ボーッと秒針を眺める。この、何もしない3分間が贅沢に感じてしまうのは、普段が多忙すぎたからなのかもしれない。

 そばが出来上がると、私はまずおつゆを口にした。

「あぁ……」

 うまい。この味だ。この鰹節の味。まさに日本の味。柔らかくほぐれたつゆの染みた天ぷらとそば粉の効いたそばを頬張る。なんという幸せだろう。これぞ、私の欲していた味だ。

 ようやく、日本に帰ってきたんだ――。

 私は、自分の国に戻って来たという幸せを、緑のたぬきに感じさせてもらっていた。

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おかえりなさい、日本 浅野エミイ @e31_asano

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