なんにもない日
浅野エミイ
なんにもない日
今日は『なんにもない日』だ。
大学は春休み。バイトもないし、スケジュール帳の今日のマスは空白。
ひとり暮らしのアパートで、朝9時ちょっとすぎにベッドから起き上がる。お日様がぽかぽか。春の日差しが窓から入ってきて気持ちいい。着替えて顔を洗うけども、今日は予定がない日。さて、どうしようか。
最初は、やっぱり誰か誘って遊びに行こうかとか、取り溜めしていたドラマや動画を見たりしようかなんて考えていたけども、こんなにお日様がぽかぽかなのに、春の暖かさを堪能しないなんてもったいないなぁ。
私は整えたベッドの上に、またごろんと横になって、スマホの電源を落とした。今日はなんにもない日。なんにもない日だからこそ、『なんにもしない』。これって究極の贅沢じゃない?
ただボーッとお日様ぽかぽかを堪能していたんだけど、それでもお腹は空く。朝ごはんどうしようかな。でも、今日は『なんにもしない日』。普段は自炊しているけども、今日は手を抜いちゃえ。カップ麺でいいや。何か買い置きがあるはず……。
ベッドから起き上がって、キッチンの棚を漁ってみると、あった。赤いきつねだ。
電気ケトルでお湯を沸かす。ケトルの前に立って、じーっとお湯が沸き始める音を堪能する。なんにもしない日だから、お湯を沸くまでもなんにもしない。しゅんしゅんとお湯が沸く音をただ聞いている。お湯が沸いた合図がすると、ゆっくり、のんびりした動作で赤いきつねのフタを開け、粉末スープとお湯を入れる。
そして、また5分間。冷蔵庫のジーッという音だけが部屋に響く。お日様は相変わらずぽかぽかして、ずーっとこのままボーッとしていられそう……。日向ぼっこをしていると、5分間なんて案外あっという間。
赤いきつねができあがると、七味をかけて、いただきます。まずは温かいおつゆを飲む。鰹だしの風味が口の中に広がり、鼻に抜ける。ふわぁ、おいしいなぁ。
ぽかぽかのんびりなんにもない日。
こうやって、ひとりの時間を大事に過ごすのも、たまにはいいかも。
春のお日様は相変わらず暖かい。本当に気持ちがいい休日だ。こんな日が、忙しい現代人にはたまにあったほうがいいんじゃないかなぁ。そんなことを考える、朝だった。
なんにもない日 浅野エミイ @e31_asano
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます