Summer Triangle
浅野エミイ
Summer Triangle
何か夏らしいことがしたい。例えばキャンプ。キャンプに行きたい。満天の星空の下で寝転びたい。でも、そこまでアウトドアな友達はいないし、セルフキャンプは少し怖い。
と、色々考えて妥協して買ったのが、室内でプラネタリウムが楽しめる機械。これで一応、何もないところで満天の空を見上げるという『キャンプらしいこと』はできるようになった。
室内を暗くして、機械を起動させる。天井や壁に、星がたくさん。夏の大三角形もちゃんとある。こと座のベガと、わし座のアルタイル。そしてはくちょう座のデネブがきらきらと輝いているし、天の川も流れている。――きれいだ。しかし、何か物足りない。
天井と言う名の空を見上げて一時間。結局は冷房の効いた部屋にこもっていることには変わりない。
これがキャンプだとしたら、何が足りない? 暑さ。光に集まる虫。どちらも却下。それが嫌でプラネタリウムを買ったんだから。こういうところが現代人のズルいところだよな、なんて思いながら、自分もその『現代人』のひとりだということを自覚する。
ともかく何が足りないんだ? キャンプと言えば、バーベキューやカレー。ともかく食い物か。一度キッチンへ出て、冷蔵庫を見てみる。でも、作る気は起きない。部屋から出ると暑い。このキッチンで火を使った料理なんぞしたくない。何か簡単に食べられるやつ……と探した結果、あったのは赤いきつね。これもまた妥協だ。暑いのが嫌なのに熱いうどんを食べるのかと問われたら、食べるのは野外じゃなくてクーラーの効いた部屋だからと答えたい。それに、キャンプで赤いきつねというのもありっちゃありだ。
さっさと封を切り、フタを半分開け、横着して粉末スープと七味を一緒にかけると、ウォーターサーバーからお湯を注ぎ、箸を持ってまたクーラーの効いた『星空』の下へと戻る。
大きなビーズクッションに埋もれ、星を眺めること5分。そろそろいいだろうか。星を眺めていると時の過ぎるのがあっという間というが、それは偽物の星でも当たっている。
フタを開けると鰹節の香りがふんわりと鼻をかすめる。さっそく箸でお揚げを沈め、先ほど粉末スープと一緒に入れてしまった七味をおつゆに入れ、縮れたうどんに絡めるようにする。そして、まずはお揚げ。じゅんわりと口の中に甘じょっぱさが広がりうまい。
だけど、ここでただ赤いきつねを食べているだけでは意味がない。時折天井や壁の星を眺める。そしてまた、今度はうどんに箸をつける。おつゆとうどんがよく絡み、七味のアクセントが効いている。歯ごたえも抜群だ。
「これが俺流室内キャンプ、だな」
なんて、自己満足に浸りながら、俺は満天の星を独り占めしつつ、ふかふかのクッションで赤いきつねを味わうという、究極の贅沢を楽しむのだった。
Summer Triangle 浅野エミイ @e31_asano
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます