たぬきはイヌ科の動物です。
浅野エミイ
たぬきはイヌ科の動物です。
緑のたぬきのカップにお湯を入れ、テーブルに運ぼうとすると、愛犬ショコラ・御年1歳のミニチュアダックスが足元にまとわりついてきた。
しっぽを振って喜んでいるのは、この緑のたぬきのお裾分けをもらえると思っているからだろうか。確かに鰹だしのいい香りが漂っている。
「くうん、くうん」
「あげません!」
「ハッハッ」
興奮しながら脚の周りをぐるぐると回るから、テーブルになかなかたどり着けない。このままだとお湯がショコラにかかってしまう。
「危ないよー」
そう言っても、ショコラは聞かない。今度はぴょんぴょん飛び跳ねてくる始末。
「だーかーら、危ないってっ!」
ショコラが落ち着く気配はない。この緑のたぬきの香りに魅了されてしまっている。手のひらを鼻の前に当て、なんとか落ち着かせると、俺はゆっくりテーブルに緑のたぬきを乗せた。
俺がイスに座ってもショコラの興奮はおさまらない。ずっと膝のところまでジャンプ。そんなところがとてもかわいいのだが、緑のたぬきでここまでになるとは予想外だった。
もちろん、ショコラは犬だ。緑のたぬきを食べさせたことはない。普段こんな興奮することなんてめったにないのに……。それだけ緑のたぬきの香りは犬をも虜にするのか。もしくは飼い主である俺に構ってほしいのか。
食べている間もこの調子じゃかなわん。俺はショコラを一度抱き上げると、腹をなでてあげる。
「よーしよし、少し落ち着こう。な?」
「ハッハッ」
まだ舌を出してはいるが、今はおとなしくなでられている。俺が抱っこしているせいもあるけど。少し間ショコラの体をなで回している間に、スマホのタイマーが鳴った。緑のたぬき、食べ頃だ。
ショコラを床に下ろして箸を掴むと――
「ワンッ!」
……吠えた。これはおねだりだ。参ったなぁ。緑のたぬきはあげられない。でも、ショコラは期待で目をキラキラさせている。そんなまなざしを飼い主に向けないでくれ。
「ダメだよ、これは」
「ワンッ!」
ショコラは俺の足元を行ったり来たり。これは埒が明かない。仕方ないなぁ。
俺は一度席を立ち、骨ガムを用意するとショコラの前に差し出した。
「おすわり。よしっ」
ショコラは骨ガムに夢中だ。ふう、これで一安心。ゆっくり緑のたぬきを食べられる。ふわふわの天ぷらにそばを絡めてすすっていると、あることを思い出した。
――そういえば、たぬきもイヌ科だったなぁ。
ひとりと一匹は、目の前にある食事に舌鼓を打つ。犬は飼い主に似るって言うけども、俺もこんなに食い意地が張っているのかなぁ? なんて、疑問に思いながら。
だけど、ショコラも満足しているみたいだし、これでいいか。
ずずっとそばをすすり、ガジガジと骨ガムをかじる、のほほんとした日曜の昼下がり。
たぬきはイヌ科の動物です。 浅野エミイ @e31_asano
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