『専業主婦』は、仕事です
浅野エミイ
『専業主婦』は、仕事です
子どもを幼稚園に送り、休む間もなく買い物。洗濯物と布団を干して掃除。『家事と呼ばれない家事』をこなして、お昼ご飯を食べたらすぐお迎えの時間。習い事にまた子どもを連れて行ったら、夕食の支度。お風呂に入れて、寝付かせて。それが平日のルーチン。休日は一日中子どもの相手。子どもが生まれてから、すべて『子ども中心』の生活。一日24時間じゃ全然足りない。夫は「手を抜いていいよ」なんていうけども、だったら協力してよって思う。料理なんかは手伝ってくれているけど、もっと子どもと遊んであげてほしい。私だって、自分のやりたいことを後回しにして、子どもに構っているんだから。
私も自分の時間が欲しいし、働きに出たい。でも、働いているママ友からの言葉は「働かないだけ贅沢だよ」。そうじゃないの。私も外の空気をたくさん吸いたいの。子どもは大切だし、しっかり育てないといけないこともわかってる。でもね、子どもの成長も大事だけど、『私の人生』もあるじゃない。私だってまだまだやりたいことはあるのに……。
今日も子どもを幼稚園に送ったあと、スーパーへ直行する。今日はお昼ご飯、ひとりだ。でも、何か自分のために作るのも面倒。お惣菜やお弁当でもいいけど、温める手間がかかる。レンジでチンって簡単だと思うじゃない? レンジにお惣菜を入れるという行為さえ手間。
たまにはカップ麺でもいいかな。そう思って、売り場に移動する。スーパーのプライベートブランドは若干飽きてしまった。安いのは魅力的なんだけどね。たまには冒険して、新作カップ麺でも食べてみようかな。探してみるが、あいにく自分の好みじゃないものばかり。がっつり系は胃が持たれちゃうのよね。となったら、あとは定番のもの。そのとき目に飛び込んできたのが、緑のたぬきだった。久々に緑のたぬきでもいいかな。棚から商品を手に取ると、かごに入れた。
家に帰って、いつものルーチンワークを済ませると、あっという間にお昼ご飯の時間。電気ケトルでお湯を沸かし、先ほど買ってきた緑のたぬきを取り出すと、ささっと調理する。そして3分間。
待っている間、ボーッとしながら働いている結婚していない友人に愚痴を送る。ママ友じゃないから気楽だ。
『仕事どう? 私も働きたいんだよね』
友人もやっぱり「働かないだけ贅沢」と言うんだろうか。返ってきたのは意外な言葉だった。
『専業主婦も立派な仕事だって。私には無理だよ、結婚とか子育てって。本当にお疲れ様』
お疲れ様。そうか、私はこのひとことが欲しかったんだ。
出来上がった緑のたぬきの味。いつもと変わらない馴染みのあるものだけど、鰹だしがなんだか心を温かくしてくれた。
『専業主婦』は、仕事です 浅野エミイ @e31_asano
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