ボクの大スキな妖怪センパイ

木子 すもも

プロローグ

 幾つもの教室が並ぶ、複雑で長い廊下に、キラキラと舞うガラス片。それはまるで、宝石を鏤めたかのように見えた。


 その幻想的な美しい光景に思わず息を呑む。


 目の前には凛然と佇む先輩がいた。右手には真紅に輝く鉄傘てっさんが握られている。


 先輩は艶がかった声でぼくに囁く。それにより、ぼくの心臓は、どきりと、大きく跳ね上がった。


 段々と早鳴りになって行くぼくの心臓。


 拍動を彼女に覚られないように、右手で胸を押さえ付ける。


 すると、そんな事はお構いなしにと、彼女の左手が、そっと、ぼくの右頬に優しく触れた。


 ぼくは頭の中が真っ白になり、思わずガッチリと目を瞑る。


 緊張で硬くなる中、頬が紅潮しているのが鏡を見なくてもはっきりと分かる。


 しばらくして、先輩が呟いた。



『この世でもっとも怖いものを知ってるか?』



 その一言に耳を疑った。彼女の声音が先ほどとはまったく違ったからだ。


 ぼくは背中にぞくりとするものを感じ、体全体を大きく震わせた。


 先輩がニヤァっと、不気味に口角を上げる。


 擦過音さっかおんを立てて捻れる世界。その世界で先輩は、これ以上ないいやらしげな笑みを浮かべ、そして、答えを口にする。


 狂ったように笑い出した先輩の姿が、とても恐ろしいものに感じられて、ぼくは心の底から恐怖した。


 それはこの学園に蔓延るどの『恐話おそればなし』よりも悍ましかった。


 しかし、先輩の姿には、神秘的な美しさも含まれていた。


 ぼくの目は彼女に惹き付けられる。


 

 ――先輩の名前は、年真歌音ねんまうたねと言う。



 これは、人間である『ぼく』と、妖怪である『彼女』の、青春怪談物語だ――。

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