記憶探し~記憶のない私は、新たな生を謳歌する~

天宮まろん

1章

01.転生と可愛い子

 「もぐもぐもぐもぐ……」


 先程狩った大きな蟹の足を両手に持ち、終わりの見えない洞窟を歩く私。

 なんというか、色々異質。

 ぶっちゃけ、私自身も何やってんだろ、と言いたくなるような状況だ。


 まず、私が目覚めた時には、既にこの洞窟の中だった。

 なんで?という質問は受け付けない。

 そんなの、私が聞きたいくらいである。

 

 そしてなんと、私には!。

 なんでやねんッ!って突っ込みを入れたい気持ちはよ〜く分かる。

 実際、私も思った。

 というか言った。

 …………それにさ、記憶喪失にせよ、もっとマシな場所でなれやっ!って話だ。


 でも、その理由を何故か私は知っている。

 そう、なんと私、

 ………………うん。

 はい再び、なんでそこだけ知ってんねんッ!って突っ込みを抑えきれないのは凄くわかる。

 実際、私も当時は「はぁ〜?」って叫んだ。

 だけど、いくら他に記憶を呼び起こそうとしても、全くもって思い出せない。


 しかも、そんな私に追い討ちをかけるように、今の私は洞窟探索は少なくとも絶対しないであろう八歳くらいの少女の身体なのだ。

 まぁ、水溜まりで確認した感じ、容姿だけはいいので、洞窟を出た後なら役に立ちそうなのだが、それも今は宝の持ち腐れ。


 何かの罰ゲームか?という言葉は多分このためにあるのだと思う。

 作者がいたら殴りたいっ!。

 とまぁ、そんなこんなで、私は今この洞窟の探索を余儀なくされている。

 

 え?この蟹?

 この蟹は先程襲ってきた蟹だ。

 なんか私の三倍以上の大きさでとても怖かったので、殴って倒したのだ。

 この足は、その時の戦利品である。

 

 ちなみに、「何か入れるものないかな〜」とか言ってたらなんでも入る異空間?みたいなものが現れたので、残りの蟹は解体して全部その中に入れている。

 入れた物の中から欲しい物を出ろー!と念じると出てきて、便利だから使っている。


「…………ぁ………………。」

「ん?」


 何か聞こえた?


 一様、というか当然だが、この洞窟に入ってから一度の人に会っていない。

 会ったのは、大きな蟹と、その他食べられない生き物ばかりである。


「んー。走ると喉渇くんだよな〜。」


 一様、蟹の身が水分を含んでいたので、今はそれで耐えているだが、これも無限ではない。

 ここで下手に走って、行った先が人どころか食べれるものでもなかったら最悪である。


「んー。でもなー。人の声っぽかったよねぇ……。」


 うーん、よし!走ろう。


 ――ゴン!

 

 右足に力を入れ、思いっきり地面を蹴る。

 どうやら私は足が早い方らしく、こうして走るとすごく早く走れるのだ。


 さて、人はいるかなー?

 いたら、まずはまともな水をもらおう!

 あ、でも無料でもらうのは無理かなぁ……。

 この蟹で勘弁してもらえないかなぁ……。


「ぁ…………ぁ……はぁ……」

 

 すると、吐息のような音ともに、足音のようなものが聞こえてきた。

 というか、こっちに向かって来てる?


「っと……!来てくれるなら待とうかな。」


 下手にすれ違いになったり、激突してしまったらもともこもない。

 それに、足音的に多分走っているのだろう。

 

 走るのをやめ、耳をすませる。

 すると、着実に荒い息使いと足音が近づいてきていた。

 そうして少しして、現れたのは、だった。


「……え?迷子?私と一緒?」


 多分年齢も、私と同じくらいだろう。

 もしかして、私と同じで転生した人だろうか?

 もしそうなら、何か聞けるかもしれない。

 私が視認してから少しして、相手の方も気づいたのか一瞬足を止め、驚いた表情を見せるも、一瞬後ろを向くと、またこちらに走り出した。

 その挙動は、まるで何者かに追われているよな……。


「…………ん?」


 その時、先程まで一つしかしなかった足音が、|。

 一番大きいあの少女の足音より後方に、足音が三つ。

 今聞こえ始めたばかりだから、まだある程度の距離はありそうだけど、明らかにこの少女より早い。

 恐らく、こちらは大人だろう。


「流石に、聞きに行こっかな。」


 足に今度は少し力を入れ、踏み出す。

 そうして少女の前でくるりと方向転換し、彼女の横を走る。


「あのー、何やってるの?」

「え?!いつの間に?!?!」

「あー、うん。まぁ、私のことはいいからさ。」


 残念ながら私と違い、この子は純八歳の少女のようだ。

 まぁ、別に私自体大人だったって記憶もないんだけど……。

 そんなこと考えていると、なんと少女が動揺のあまり足を止めてしまったではないですか。

 これは流石にマズイ。

 もし追われているなら、この距離ならすぐに視認されてしまう!


「ちょっ!……もう!」

「え?……キャッ!」


 なので、仕方なく私が抱っこすることにした。

 所謂、お姫様抱っこというやつである。


「ちょっと、何するの?!」

「まぁ、まぁ。ちなみに、後ろの人達は友達?」


 すると、少女はぶんぶん首を横に振った。

 なんというか、すごく嫌いのようである。


「そっか。なら、少し走るねっ!」


 ――ドンッ!


「え?キャャャ!!」


 いや、キャャ!って。

 そんな化け物を見たような声を上げないで欲しい。

 私ただ走ってるだけなのだが……。

 ただ、すごい絵面であるとは思う。

 なんて言ったって、八歳くらいの少女が同じ年の少女をお姫様抱っこした上に走っているのだ。

 これだけ見れば、確かに軽いホラーである。


「あの、叫んでいるところ悪いんだけど、ちょっといいかな?」

「な、なにぃっ?」

「出口がどこか知ってる?」

「う、うん!知ってる!」


 少々は、目を瞑りながらも必死に私の質問に答えてくれる。

 ただ、この速度が相当怖いらしく、ずっと目を瞑ったままだけど。


「ま、この辺りでいっか。」


 足を止め、耳を澄ませる。

 …………うん、とりあえず聞こえない!

 それに、あんまり離れすぎると戻れなくなってしまう。

 少女があちらからきたのだがら、恐らくあっちが出口なのだろう。


「一旦下ろすね、怪我とかない?」

「……え、う、うん。…………ありがと。」

「ッ――――――――。」


 可愛いんだけどぉぉぉ!!!

 笑った時のニコって顔が特に可愛いぃぃ!!

 あー、こういう可愛い子って癒されるよねぇ〜。

 この洞窟の襲ってくるしか脳の無い生き物達とは大違いだ。


「可愛いぃぃ~。蟹食べるぅ?」

「え、う、うん。」


 新しい蟹の足を取り出し、少女に渡す。

 少女は「おっきぃ」と呟くと、身をハムっと咥えた。

 うん、おっきぃねぇ。

 咥えてる顔も可愛いぃ。

 って、そうじゃなくて!


「あなた、お名前は?」

「ふぇ?ハムハム…………ゴクリ。カリーナだよ!」

「そっか〜。カリーナちゃんかぁ〜。」


 かわいぃぃ〜って、いかんいかん!

 何とは言わないが、完全に幼子好きの変態化していたっ!

 私はあくまで優しいお姉さん、そう。

 不純な心などない、清きお姉さんなのだ。


「私、海賊やってるんだぁ!」

「そっかぁ〜。海賊やってるのかぁ〜。」


 少女海賊とか可愛すぎだなぁ~。

 って、ダメダメ!

 ――――って、海賊?


「海賊やってるの?」

「うん!今ね、海賊祭ってお祭りの最中なんだ!」

「海賊祭?」

「そうだよ!お金を貰うために戦うの!」

「……………………。」


 なんだろう、面倒事の予感しかしない。

 これ、関わっちゃいけない案件だったかなー。

 でも、こんなに可愛い子っじゃなくて、こんな小さな子供をここに置き去りにするのはお姉さんとして良くないと思う!!!!

 うん、そう!

 決して可愛いからではなく、大人のお姉さんとして、子供は保護しなければならないのだッ!!!!

 ――――まぁ、転生前が大人だったかも分からないんだけどね?


「あのね、カリーナちゃん。一つ、お願いがあるんだけど、いいかな?」

「…………うん、何?」

「あ、食べながらでいいよ。あのね、私があなたのママのところまで、あなたを連れて行ってあげる。」

「ほぉ、ほぉんどに?」


 あぁ――。

 食べながらでいいとは言ったけど、可愛すぎて私が倒れそうである。


「…………うん。ただ、その代わりにそこまでの案内と、着いたらお水と食料を分けてくれないかな?」

「うん!いいよ!」


 あぁ、純粋な子だ。

 私が子供というのもあるだろけど、ここまで警戒しないのはこの子が天使だからだろうか。

 きっとそうだろう!

 うん、可愛いは正義!

 

 「じゃ、行こっか!」

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