地球が滅んだあとのボクたちは? ~まさかの剣と魔法の世界でドンパチ激しくやってます~
あおき りゅうま
第1話 序章その1・西暦2124年、温暖化のせいで地球はあと十年で無理ポです。
「———好きなんだろ? じゃあ告白しちまえよ。当たって砕けちまえ」
昼休みの学校の屋上で、二人の少年が話している。
白いシャツに黒いズボンと何処にでもいそうな爽やかな制服。胸には藤の花をあつらえた校章が紺の糸で縫い込まれている。
「———だけど、俺達の関係が壊れるのが怖い。俺達三人の……」
片方の、短髪の気弱そうな少年がそう言う。
それに対して「告白しろ」と言った、眼鏡で少し背の高い少年は、
「あのなぁ……
眼鏡の少年は空を見上げる。
そこには青い空が広がっているが……どこかくすんでいる。ぼやけている。
まるで———網目状のフィルターがかかっているように。
日光の光も———黒い小さな線が細かく寸断されている。眼鏡の少年がそちらを目を細めずに、見やる。
眩しさに目がくらむということはない。
何かに、フィルターのようなもので遮断されて、人間の眼に負担がかからないように眼鏡の少年に届く光が制限されていた。
「———こんな終わりが近い世の中なんだからさ」
そして今度は足元のグラウンドへ視線を向ける。
そこには何人も生徒がいるが十人にもに満たない。休み時間だというのに。
その上、彼ら彼女らの中には不織布のマスクや、何ならガスマスクをつけて運動をしている生徒もいる。
「
伊澄という少年に名前を呼ばれ、眼鏡の少年、清十郎はふっと視線を直下のグラウンドから伊澄へと戻した。
「あと十年で死ぬんだぜ———俺達みんな」
「そうだな」
平然と清十郎は肯定した。
「地球温暖化が進んで通常の
清十郎は伊澄を見る。
「後悔しないように、
清十郎の瞳にグッと力が籠もる。
「だけど、最後の最後の瞬間まで楽しくて居心地良い時を続けるっていうのも。俺達三人の絆は最後まで壊れなかったって証明するのも大事なんじゃないのか?
その清十郎の力のこもった瞳を同じように力を込めた瞳で見つめ返す。
「ばっか……壊れねぇよ。例え多少の、表面上の関係が変化しようと。一番大事な根っこの部分は変化しないさ。俺はお前と今後一生会えなくなったとしても。三人で廃ビルの三階に作った秘密基地のことは忘れない。あそこで壊れたゲーム
トンッと拳を伊澄の胸に当てる清十郎。
「それを覚えている限り。俺達の絆は———不変だ。〝変わらないもの〟だ」
「清十郎……」
伊澄はうん、と一つ頷き立ち上がった。
「わかった。決めたよ。俺、鈴に告白する。好きだって伝える……今の世の中いつ終わるかわかんねぇのに。いつまでもうだうだやってるなんて俺らしくないもんな」
「あぁ……そうだな」
そして、伊澄は清十郎を残し扉へ向かって歩いていく。
清十郎は、
「そうだ。こんなクソみたいな世の中なんだ。やったもん勝ちだ……ぞ」
鼻から何かが出そうになってズズッとすする。
それでもやっぱりその鼻から出ようとするものは垂れてきて、不快感を感じた清十郎は唇の上に指をあてて〝それ〟を拭おうとした。
「あ……」
青い———血だった。
「あ~ぁ、マジでどうにかなんねぇかな……この世の中。俺の人生」
そして首をがくんと後ろに傾けた。
彼らは屋上のフェンスを背もたれにして話していた。そして首を大きく後ろに傾けたことによりドームのフィルターがかかった青空と、巨大な塔が見えた。
姿勢を変える。
くるりと全身を捻って体の向きを変え、街の中心にある天へと伸びる〝巨大な塔〟へと視線を合わせた。
漆黒の無機質なただひたすら巨大な音叉のような塔。東京タワーやスカイツリーよりもはるかに高い五百メートル。その先端は人類を日光から守るためのドームを突き破り、裸のまま外気に晒されている。
異様な塔だった。
「
清十郎がその塔の名前を口にする。
「本当に俺達は、あれがあるから〝転生〟できるっていうのかねぇ……」
ぐっと拳を握りしめた。
「永遠の命なんて、幻想だろうが……!」
ガシャンッとその拳を清十郎はフェンスに叩きつけた。
———その日の夕方、黄昏時のことだった。
三人の幼いころからの親友三人。真白伊澄、秋姫鈴、小春清十郎の内、二人———伊澄と鈴は想いを伝えあい———恋人関係になった。
● ● ●
「ねぇ! このゲーム、占いができるよ!」
戸塚第一ビルと言う名前の廃ビルが、真白伊澄の自宅の近くにあった。
そこはボロボロの建物だったが不思議と立ち入り禁止の張り紙がされておらず、幼い小学校に入りたてだった伊澄は好奇心の赴くままその中に入り、所有物と言う概念すらなかったので、その三階の一室を勝手に自分たちの秘密基地だと言い張った。
「ねぇ伊澄! 私たちの相性! どんなかなぁ⁉」
無邪気に笑うもみあげだけを伸ばしたボブカットの快活な印象を受ける少女———秋姫鈴が戸塚第一ビル内に破棄されていたプリクラのような箱型ゲーム機を叩く。
前にカーテンがかけられているその箱の中に鈴は入って、
「伊澄! 伊澄! やろう!」
「えぇ~~~……そんな、いいよ。そんななよなよしたもの」
くるっと体の向きを横に向ける。
伊澄たちはこの時、八歳だった。
まだ恋愛感情なんてなく、男と女がべたべたとすることに気恥ずかしさが、なんとも言えない情けなさを感じる感情があった。
だが、鈴はそんな伊澄の抵抗に構わずにその手を掴み、
「いいから! やろやろ!」
「お、おい……鈴!」
「だって———将来私たち結婚するんだもん」
断定をしてそのまま『恋愛占いゲーム』と書かれたゲーム機の箱の中に入っていき、
「ほら手を乗せて一緒に選ぶことが大事なんだって」
カーテンの中には大きなモニターと二つの椅子があり、その前にキーボードが置いてある。
「一緒にやろ!」
モニターには『二人で手を重ねて入力してね♡』と書かれていた。
伊澄は最初は嫌だったが、強引な鈴のノリに乗せられて渋々手を重ねて自分たちの生年月日や血液型、名前と言った簡単な個人情報を入力していった。時折、何十年も前のゲームらしく画面にノイズが走ったり、電気が一瞬だけ消えたりしていたが気にしない。八歳の自分たちにとって自由にゲームが遊べるというそれだけで嬉しいものなのだ。それに壊れているから電気を通すだけでプレイ出来て、本来は硬貨を入れないとプレイできないはずなのに、その投入口にあろうことかガムテープが張りつけられている。
二人は項目を進めていくと画面に———『相性100%』の文字が浮かび上がる。
「ほら!」
嬉しそうに鈴が言う。
何が「ほら!」なのか伊澄にはわからない。だけどものすごく……嬉しかった。
「私たちは一緒になる運命なんだよ!」
そうにっこりと微笑みかけたことを、伊澄はずっと覚え続けていた。
鈴に結婚の約束をしたと言われてからかわれても、いつか伊澄と私は一緒になる運命にあるんだよと言われても伊澄は頑なに「しらない」「忘れた」と言い張っていた。
だが、口が裂けても言わなかったがそういった鈴との恋愛がらみの話になるたびに、この時の鈴の微笑みを思い出していた。
そして思い出すたびに胸に暖かい思いが、ポッとロウソクの明かりが灯るような嬉しい熱がこみ上げてくるのを感じていた。
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