第4章 「知識の活用」
入学から一週間。私は早速、学院の一室を研究室として借り受けていた。
「リノア様、また新しい患者様がいらっしゃいました」
評判は予想以上に早く広がっていた。
貴族たちの間で、皮膚の悩みを解決する不思議な令嬢の噂が密かに囁かれ始めていたのだ。
「お次の方どうぞ」
「失礼します」
入ってきたのは、整った顔立ちの青年貴族。
第一王子の側近、ジェイムズ・カーターだった。
「王太子殿下の...」
「お断りします」
私は即答で遮った。
「患者様ご本人でないと診察はできません」
「しかし...」
「それが私のポリシーです。王太子殿下にもそのようにお伝えください」
数日後。
「リノア様、覆面の紳士が...」
「クレア、その方は?」
「怪しい方はダメですわ!」
私の弟子として薬学を学び始めていたクレアが、毅然とした態度で告げる。
「まったく...」
覆面を取ったその人物は、金髪碧眼の完璧な容姿の持ち主。
第一王子、アレクサンダー・ヴァン・クラウディウスその人だった。
「診察室へどうぞ」
診察で明らかになったのは、王子の右手に残る深い傷痕。
幼少期の暗殺未遂の際に負った傷が、魔法での治療を受けても完治しなかったのだ。
「剣が長く持てず、魔法に頼らざるを得なくなった...」
「新しい軟膏を開発してみましょう」
私は即座に決断を下した。
「ただし、完治までには時間がかかります」
「構いません。どうか、お願いします」
研究室では、前世の知識と、この世界の素材を組み合わせた新薬の開発が始まった。
クレアも熱心に手伝ってくれる。
「リノア様、この薬草の調合比率は...」
彼女の真摯な姿勢に、私は密かに微笑んだ。本来なら敵対するはずだった私たちが、こうして協力している。
一ヶ月後。
「傷が...薄くなっています」
アレクサンダーの声に、感動が滲む。
「まだ完治ではありませんが、確実に良くなっていますね」
私が説明すると、クレアが嬉しそうに拍手する。
「リノア様、本当にありがとうございます!」
二人の表情に、心からの喜びが溢れていた。
「これからも定期的な治療が必要ですよ」
「はい、喜んで」
研究室の窓から差し込む夕陽に照らされながら、私たちは穏やかな時間を共有していた。
本来の物語なら対立するはずだった三人が、こうして笑い合える。
これこそが、私の望む世界の形なのかもしれない。
「さて、次は何を研究しましょうか」
私の言葉に、二人は期待に満ちた眼差しを向けた。物語は、また新しい一歩を踏み出そうとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます