第13話 レイ争奪戦



「ふっ、ふはははは、半壊…はははは」

「ブラッドさん。俺が言うのも何ですが、笑い事じゃないと思います。」

ギルドに戻り、未開の領地の一件をソフィアさんに報告したところ、顔を真っ青にしてまたギルドマスターの部屋に通された。

俺らこの部屋来すぎじゃない?


「今度は誰がやったんだ?」

「…エルヴィナです」

「このエルヴィナ、やってやりました!!」

「褒めてねえんだよ!少しは反省しろ!」

ブラッドさんはまた笑って一息つく。

「まさかヘルハウンドがまだいたとはな。並の冒険者では確実にやられていただろう」

「あ、あの半壊の件は大丈夫なんでしょうか?」

俺が一番恐れていること。

あの土地分の補償請求とかされないよな?

内心心臓が飛び出そうだ。


「ああ、大丈夫なんじゃねえか?」

「え?ほんとですか?!」

「そもそもあの土地は誰のものでもないしな。魔物が多くてギルド管理にはなっているが。ヘルハウンドが消滅したことで魔物の発生も少なくなるだろうし。そうだ、その土地にギルドの別荘とか建ててみるか!」

はははは、と香気に笑うフラッドさん。

なんかこの人面白がってない?

そんな適当でいいの?


「ヘルハウンド討伐に未開の領地半壊。これはエルヴィナもFランクって訳にはいかねえな」

そんなこんなでエルヴィナも俺たちと同じCランクになった。

一気に3ランク昇格は異例だが、ヘルハウンド討伐した実績があれば皆納得するだろうとのことだった。


そして報酬もたっぷり出て、その夜は俺たちの奢りでギルド内でお祭り騒ぎのバーティーをした。


「レイ様〜飲んでますか〜?」

「シュカ様、レイ様にくっつきすぎです!私も〜!」

「ちょ、離れろ!」

酒を片手にベタベタくっついてくるシュカとエルヴィナ。どちらもすでに千鳥足で顔を赤くさせている。ったく、飲み過ぎだろ。


「シュカはレイ様とお会いできて幸せです〜」

「旦那様〜早く私の番になってください〜」

「エルヴィナ、いつまでそんなことを言ってるんですか?レイ様があなたの番になんてなるわけないでしょう」

「いいえ、私は必ず旦那様の心を奪って結婚してみせますわ。シュカ様は黙っていてください。」

「は?わ、私だって、レイ様と、結婚…してみせます!」

シュカは顔を真っ赤にしてエルヴィナに対抗している。

当本人を目の前にして何て会話をしてるんだこの女達は。


「シュカ様、本気ですか?」

「もちろん、私はずっとレイ様が好きなのです」

「では、どっちがレイ様を好きか勝負しましょう。勝者が今晩レイ様と一緒に過ごす。これでどうでしょう?」

「受けて立ちます」

「「お酒で勝負です!!」」


え?

俺の意思は?


"さあ、準備は整いました。今宵、閃光のレイをかけて戦うのはこの女達!!"

なんか司会いる。


"エントリーNo.1 閃光のレイ初めての仲間、忠誠心の強さでは誰にも負けない!シュカ!"

「レイ様を1番愛してるのはこのシュカです!」


"エントリーNo.2 初対面で求婚、見た目とのギャップでは誰にも負けない!エルヴィナ!"

「この勝負で必ず旦那様を射止めて見せます」


"エントリーNo.3 今のところ目立ったアプローチのなさでは誰にも負けない!受付のソフィア!"

「ちょ、慎重と言ってください!」


ソフィアさん、何してるんですか?


"エントリーNo.4 閃光のレイに綺麗と言われた女!伸びしろでは誰にも負けない!酒場のマリー!"

「レイさんに綺麗と…やっぱりあれは本当だったんですね…」


マリーさん、なぜここに?


"おっとここでもう1人エントリーがありました!"


"エントリーNo.5 閃光のレイは彼を変えてくれた。憧れでは誰にも負けない!新人潰しのダント!"

「閃光の兄貴に永遠の忠誠を!」


ほんとになんで?


てかこんな屈強な男ありかよ!こいつ勝ったら俺こいつと一夜過ごすの?何の地獄?


"最後まで立っていたものが、閃光のレイの今夜のお相手だー!じゃあいくぜ!よーい、スタート!"


5人はすごいスピードで酒に食らいつく。

ほんとなにやってんの。


「少しペースが遅いんじゃないですか?皆さん」

シュカのその言葉に全員が一気に飲み干す。


バタッ

"おっとー1人脱落だー!ダントです!優勝候補のダントが早くも脱落ー!"


下戸かよ!そのなりで?

いや、こちら的にはよかったけども!


てか優勝候補って何?


"そして受付のソフィアが倒れたー!またもチャンスを逃す!"

「う、うるへえ」

目がぐるぐる回る回るソフィアさんはそう言ってそのまま夢の国へ落ちていった。

おやすみなさい。


"残ったのは3人!さすがの忍耐力ですね、ここでまたペースを上げるようです!"


「相変わらずモテモテだな、レイ」

「あ、ブラッドさん」

違う酒を両手に持ったブラッドさんが俺の隣に座る。「もっと飲めー熱意を見せろー」と笑いながらヤジを飛ばしている。

ほんとにこの人は…


"お、ここで脱落者1人でました!酒場のマリー脱落です!いやー、酒場勤めということで期待してたんですがね、やはり2人には勝てなかったようです"

意外とちゃんとしてる司会なんか腹立ってきたな。


「エルヴィナ、やはりやりますね…。」

「シュカ様だって…」

周りの冒険者はシュカ派、エルヴィナ派に別れ、応援合戦を繰り広げている。

ここの人達はよほど娯楽に飢えてるらしい。


「これで決着をつけましょう」

「絶対に私が勝ちます」

なみなみに注がれた酒を持った2人はそのまま一気に飲み干した。そして力が抜けたように2人ともその場に倒れた。


"おお!2人とも同時に倒れました!今回の勝負は決着つかず!"


あーあ、俺は一体何を見ていたんだろうか。

呆れた俺とは打って変わり、ギルド内はその日1番の盛り上がりを見せた。


"素晴らしい戦いを見せてくれた選手達に拍手を!!次は第2回でお会いしましょう!"

勘弁してくれ。


結局その日、俺は酔い潰れたシュカとエルヴィナを引きずって宿に帰る羽目になったのだった。

あれ?1番の被害者俺じゃね?

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