第12話 未開の跡地

ドラゴン騒ぎのあと、Cランクになった俺たちは、今まで立ち入り禁止だった森の奥や、洞窟の中など魔物が多い場所の依頼を着々とこなしていた。


「今日は森の奥の未開の跡地の探索ですね。ここは以前、絶滅した犬型のモンスター、ヘルハウンドが多く生息しており、強大な魔力が立ち込めているため、魔物も多いそうです。決して無理はしないでくださいね?」

依頼カードを受け取ったソフィアさんはニコニコしながらそう言った。


なんか怖いこと言ってる。

え、未開の探索って魔石あつめたりとか新しい洞窟の発見とかじゃないの?

ちょっと楽そうなのを選んだばっかりに裏目に出てしまった。

能力がちゃんとわかるまでは、あんまり戦うの嫌なんだよなー。

「ちょっと考え直し…」

「レイ様!早く行きましょう!魔物が逃げてしまいます!」

「さすが旦那様!1番面白そうな依頼ですわ!」

…そうなるよね。


「なんか、、薄暗いな」

未開の跡地に入ると辺り一面に霧がかかっていた。

このいかにもな感じね。

絶対やばいやついるでしょ。


「わくわくしますね!」

「旦那様は私が守ります!」

なんでこんなにもビビらないんだこの女たちは。逆に何にビビるわけ?

女性は強いっていうがこんなにも頼もしい女たちを俺は知らない。


「にしても霧がうざったいですね。旦那様、獣化していいですか?霧をなくします」

「え?そんなことできんのか?」

それにしても何を…

エルヴィナは少女の姿からレッドドラゴンに変身する。久しぶり見たその姿は相変わらずの存在感だ。


その瞬間、エルヴィナは翼を前後に羽ばたかせた。信じられないくらいの強風に俺たちは近くにあった木を咄嗟に掴む。


数秒後、霧で覆われてた辺り一面が澄やかになった。す、すげえ。


「”旦那様、シュカ様。聞こえますか?”」

今獣化してるはずのエルヴィナの声が直接脳に響いた。

なんだこれ。不思議な感じだ。

「ああ、聞こえる」

「聞こえます!」

「"よかった、念話で直接脳に語りかけてます。私の背中に乗ってください"」

俺とシュカは顔を見合わせ、エルヴィナの背中に飛び乗った。

まさかドラゴンの背中に乗る日が来るとは。

やばい、少年心をくすぐられワクワクしてしまっている。


「"しっかり捕まっててください"」

その瞬間、エルヴィナは一気に羽ばたき空を飛んだ。

「おお!すげえ!」

いかん、思わず素の三森悠太の感想が出てしまった。何だこのジェットコースターとも違う爽快感は。味わったことがない。


「レイ様、シュカ怖いです」

シュカは後ろから俺にぴったりくっつく。

胸をあてるな、胸を。


「"シュカ様、旦那様から離れてください。振り落としますよ”」

「レイ様まで落とす気ですか?エルヴィナは飛ぶことに集中してください」

「"こんな時に誘惑なんて、女狐はどっちですか?"」

「なんですって!?」

お前らこんな時に…

念話で喧嘩するなよ。


良くも悪くも通常通りな2人に呆れながらも未開の領地を見下ろす。

さっきはあまり見えなかったが、草木が生い茂っていて、ところどころに魔物が倒れているのが見えた。

「あの魔物たち死んでるのか?」

「はい、私が羽ばたいた時に出した覇気で死んでしまったのかもしれませんね”」

こえー、覇気って。

それで死ぬもんなの?


エルヴィナに関しては前に発情期で村を一つうっかり全滅させたことがあると聞いたときに絶対に怒らせないと決めた。

これはブラッドさんとの約束でもある。

「"なんか匂いますね"」

「ええ、魔力が強大になってきてます」

「”あっちです!"」

え?行くの?怖くね?

もうそのまま帰っていいんじゃない?とは言えず。俺はエルヴィナの背中でひたすら何事もないことを祈っていた。


「"いました、あそこです"」

エルヴィナは着地する。

前の方には、3匹の炎をまとった巨大な犬のような魔物がいた。

ん?犬?まさかな

だって絶滅したって…

「ヘルハウンドなんて久しぶりに見ました!」

そうだよね。


ヘルハウンドはグルルと俺たちを感嚇している。すると一番大きいヘルハウンドが俺たちに向かって突進してきた。

「レイ様、後ろへ。バリアシールド」

シュカが咄嗟に張ったバリアにぶつかり俺たちは事なきを得るも、そのバリアは衝撃で粉々になってしまった。

おい、やばいぞ。これまともに食らったらとんでもないことになるのでは…。


「さすがかつて伝説といわれた妖魔。少しはやるようですね。」

「”シュカ様は大きいのをお願いします。残り2匹は私が。」

シュカとエルヴィナは体勢を立て直す。


また攻撃してくるヘルハウンドに立ち向かうシュカ。

だが、ヘルハウンドのすばしっこさに剣技でも魔法でも簡単に避けられどうしようもできない。

残り2匹を相手にしているエルヴィナも火を噴くが、あっちこっちと移動するヘルハウンドにダメージは与えられてないようだった。


一方、ヘルハウンドの身を纏う炎は最初よりも大きくなり、シュカとエルヴィナに強力な炎を放っている。

これ、圧倒的不利なんじゃ…


「2人とも、ここは俺が…」

「"旦那様、シュカ様。私に任せてください”」

俺の言葉にかぶせて、エルヴィナが念話でそう言った。

「大丈夫なのか?」

「はい、レッドドラゴンの私が炎で負けるわけにはいきません。私にやらせてください。本当の火災攻撃を見せてやります。”」

「わかった。」

「わかりました。エルヴィナ、お願いします」


「"シュカ様、3匹を少し足止めしてもらうことはできますか?”」

「拘束魔法は使えますが、ヘルハウンド相手に効くかどうか…もって5秒ぐらいかと」

「"十分です"」

おお、なんかかっこいい。

完全に蚊帳の外の俺はこの状況を少し楽しんでいた。


「ではいきます。拘束光魔法、ルミナスチェイン」

その瞬間、3匹のヘルハウンドに光の鎖のようなのものが現れ、縛った。

「グルルル」

ヘルハウンドは抵抗するが、動けずにいる。

成功した。


「”さすがです”」

念話でそう言ったドラゴンの姿のエルヴィナは息を吸い込むようにして上を向く。

「エルヴィナ。も、もう限界かと、」

シュカの魔力がつきたのか、一番大きいヘルハウンドの拘束が解けてしまった。

一目散にエルヴィナへ向かうヘルハウンド。


「エルヴィナ!!」

俺が叫んだその瞬間、一瞬だった。


エルヴィナが息を吐くようにして放った炎はすさまじい爆発音とともに、俺とシュカは後ろに吹き飛ばされる。

な、なにが起こった…


とりあえず俺は生きてる。

シュカも「イテテ、」と木にぶつけた背中をさすりながらも無事のようだ。


「なんだこれ…」

俺は絶句した。

周りを見渡すと、エルヴィナが炎を放った方向の辺り一面だけ焼け野原になっていたのだ。


「レイ様、これは…」

俺はシュカと顔を見合わせる。

俺たちはとんでもないやつを仲間にしてしまったのかもしれない。


「旦那様!シュカ様!大丈夫ですか?」

俺たちに駆け寄る小さな赤髪の少女。

…誰がこの子をさっきの大爆発の張本人だと思うだろうか。


「エルヴィナ、これ」

「久しぶりで手加減ができず、少しやりすぎちゃいました!てへ」

少しってお前…

てへってお前…

どうしよう。どこからつっこんでいいかわからない。


「やりすぎです!危うくレイ様にも危険が及ぶところだったんですよ!?」

「旦那様はシュカ様が守ってくれると信じてたので」

「ま、まあそれはそうですけど」

満更でもない顔するな。


「でもほら、ヘルハウンドは倒しましたよ!3匹まとめて!」

だろうね。

火葬まで済んじゃってるね。

エルヴィナはキラキラした目で俺を見る。

褒めてほしいんだろうな。


俺はエルヴィナの頭に手を置いた。

「それはありがとう、すごかった。でもなシュカの言う通りやりすぎだ。俺たちの依頼、なんだったか覚えてるか?」

「…ヘルハウンド討伐?」

「うん違うね。未開の領地の探索だ。探索のはすがこれじゃ半壊だ」

これ絶対怒られるよな。

怒られるだけで済めばいいが…


「ごめんなさい」

エルヴィナは俺の腰回りに手を回し抱き着く。

「旦那様、エルヴィナのこと嫌いになりましたか?」

不覚にも可愛いと思ってしまった。

改めて見ると小さな子に怒ってるみたいで罪悪感すごいな…

「そんなわけないだろ、エルヴィナがいないとやばかった。ありがとな。…ただちょっと加減を

「きゃー!私旦那様のお役に立つことができたのですね!!旦那様のためなら未開の1つや2つ余裕で吹き飛ばします!!」

聞いちゃいねえ。

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