ロミオたん&ジュリエットたん

宝木望

第1話

「ロミオたん、あなたは何故ロミオたんなの?」

 ジュリエットたんがバルコニーで言った。僕たちは「地球アルファごっこ」をしているところ。

 僕の名前はロミオ。モンタギュー王国の、少しだけイケメン王子さ。バルコニーにいるのはジュリエットたん。キュビレット王国の美しき姫君。

 僕とジュリエットたんは高校3年生で、高校を卒業したら結婚をする約束をしている。


 ん? 何か違和感があるって? 君は地球アルファの住人なのかな? じゃあ地球ベータの紹介をするね! 

 簡単に言うと、地球ベータは地球アルファのパラレルワールドなんだ。つまり、地球がある宇宙が2つ以上あるということ。地球ベータは地球アルファより科学技術が進んでいる。それは何故かというと平和だからじゃないかな? 地球ベータは、全ての国が王国制で、それで国同士のバランスを保ち、治安を守っている。国王はアイドルみたいな存在なんだよ! ただ、地球ベータのミーハーな科学者は、地球アルファに行く方法ばかりを探しすぎたかもしれない。おかげで地球アルファに行く通路は出来たんだけど、他は適当さ。だって、あとは地球アルファの技術を参考にすればいいんだから。地球アルファの、特に医学の技術は凄いからね。


 ……そして、僕たちは。自分の名前も国の名前も、地球アルファに憧れている国民によって変えられてしまったワケだけど。別に、いいや。未来の国王の勤めだものね。


 平和で武器を使う必要もない、豊かな地球ベータでは旅行が流行している。特に人気なのが地球アルファへの旅行だ。「もう1つの地球」なんて、いくら費用がかかっても見てみたいものだ。地球アルファの中では日本が一番、人気がある。日本人は時間に正確で、効率よく観光が出来るからだ。地球アルファに滞在出来る時間は限られていて、効率は重要なんである。


 僕たちの注目の日本の観光地は、2025年に開かれる大阪万博だ。

「世界中のパビリオンがあるんですって」

「空飛ぶクルマだって! さすが地球アルファ」

「大阪だったら、ついでに京都にも行けるし」

「奈良にも行けるし」

「伊勢神宮にも行けるし」

 地球アルファの迷惑にならないよう、ひかえめに地球ベータが買った大阪万博前売り入場券は、すぐに売り切れた。


 大阪万博が開催されてすぐ、僕とジュリエットたんは地球アルファを訪れた。そして毎日、大阪万博の会場に行って楽しんだ。……地球ベータが設けた制限時間を忘れるほどに。

 帰りの通路で僕とジュリエットたんは、ふわふわとした感覚に襲われた。あとで判ったんだけど、それは地球ベータのバランスが少しだけ崩れたためらしい。


 城に帰ると使用人が、難しい顔をして言った。

「治安が乱れております」

「治安? 何が起こったのだ?」

「国民が……」

 使用人が、そう言って顔をふせる。

「もうしてみよ。国民がどうしたのだ」

「国民が、輪ゴムの飛ばしあいっこをしているのです!」

「なんてことを! 当たったら痛いではないか!」


 僕が幼い頃、お母様は僕に言った。

「ロミオ、これから母の言うことを、おぼえておきなさい」

「はい、お母様」

「お前は、やがて国王になります。国民のために生きなければなりません」

「はい」

「平和ボケをすることが国王の仕事です。国民を平和ボケさせるのも、国王の仕事です」

「はい」

「お前は明るくて、のんきな、いい子です。母は、お前のことを信じていますよ」

 ……そう言ったお母様は……今も元気だ。地球アルファの医療技術で100歳以上、生きると思う。


 僕はキュビレット王国のジュリエットたんのもとへ、かけつけた。

「ロミオたん! 大変なことが!」

「やっぱり、そっちでも?」

「ロミオたん、どういうこと?」

「僕たち、地球アルファでの滞在時間を守らなかっただろう? それで国のバランスが崩れてしまったみたいなんだ」

「なんてこと……」

「泣かないで、ジュリエットたん」

「だって……輪ゴムをぶつけあうなんて……そんな、ひどいこと……泣かずには、いられないわ……」

「ジュリエットたんは優しいんだね」

「お父様も、お母様も、寝込んでしまったわ」

「僕の両親は元気だ。だからジュリエットたんの様子を見に来たんだよ……ん? あの声は?」


 大勢の人々の声が近づいてくる。それはキュビレット城に向かって歩く人々の声だった。口々にジュリエットたんの名前を叫んでいる。

 

 ジュリエット!

 ジュリエット!

 ジュリエットに輪ゴムをぶつけろ!

 ジュリエットに輪ゴムをぶつけろ!


「何故、私なのかしら? お父様も、お母様もいるのに」

「冷静だね、ジュリエットたん。そういうところ、好きだよ。……うーん、美しいからじゃないかな?」

「ロミオたんは正直ね。そういうところ、好きよ」

「危ないからバルコニーに行こう。あそこまでは輪ゴムも飛ばないし」


 まだ、ときどき泣いているジュリエットたんに僕は言った。

「僕のお母様は、僕に『平和のために生きろ』と言ったんだ」

「素敵」

「だからジュリエットたんにも平和のために生きてほしい」

「わかったわ。どうすればいいの?」

「こうだよ!」

 僕は、しっちゃかめっちゃかなダンスを力いっぱい踊った。とたんにバルコニーの下にいる民衆から笑いが起こる。

「すごいわ! 私も!」

 ジュリエットたんも一心不乱にダンスを踊った。バルコニーの下の笑い声が、さらに大きくなる。2人とも社交ダンスは習っているけど、人前で踊ったことは無かった。それが愛をこめて踊っただけで、こんなに喜ばれるとは思わなかった。

 そして僕とジュリエットたんは民衆の見ている前でキスをした。王族同志のキスに民衆は呆気にとられ、その次に拍手をした。

 民衆の手から輪ゴムが落ちた。


 こうして両国に平和が戻ったのである。


 未来の国王と王妃の幸せと平和を祈ってくれ!!

 では!

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ロミオたん&ジュリエットたん 宝木望 @takinozomi

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