第一章

ユートピア

ビルの壁には大きく広告が張り出されていた。「みんなの意思でユートピアに」と書かれている。男は少し冷える室内から窓を開け外を見ていた。冬が訪れるのか先月とは気温差を感じた。美しい新緑を見せていた葉は黄色くなり木にぶら下がっていた。大きな広告はそこらじゅうの壁に貼ってあった。政治広告だ。この国はマアト大統領が政権を握った民主主義国家であった。国民の思想、言語、宗教、さまざまなことは規制されず個人の自由とされた。そこはユートピアと呼ばれた。男はキッチンでコーヒーをコーヒーカップに注ぐと味見程度に口に含んだ。マアト政権は民主主義としていたがそれは表向きであった・言い換えれば全体主義国家であった。彼らは国民が気付かぬところで統制を行なっていた。彼は統制の魔の手から逃れたのだが、彼が愛した人は統制されてしまった。彼女はそれを知らない。誰も統制されていることに気づかないのだから。誰も内側をいじられてることなど知らないのだから。思想、言語、宗教、それが統制されていることを。男はコーヒーを飲み干し、机の上に置かれた写真立てを悲観的な目で見つめていた。コーヒーカップを机に置き、口の中にの残る雑味を飲み込んだ。コートを羽織り、鏡で身なりを整えた。頭から足先まで確認する。特に問題はなかった。スマホで時間を確認し、靴を履いた。

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