第9話 冒険者通信
冒険者ギルドの広報部が毎月発行する雑誌、冒険者通信。
今月の特集は、世界最大規模のパーティー〈竜の宿り木〉を脱退し、最弱Fランクパーティー〈
彼の関係者たちは、記者の取材に対し以下のように回答した。
―― 〈竜の宿り木〉二代目頭領、アリス・エルドラゴ ――
「最初は驚きました……まさかうちを抜けてすぐ、別のところに入るなんて……」
パーティーメンバーの方々は、どのような反応でしたか?
「なぜ? という感じでした。強豪なパーティーならともかく、Fランクですから。私も困惑しましたが、気づいたのです」
何にですか?
「〈白雪花〉は、〈黒金の牙〉の被害に遭ったパーティーの一つです。私も彼らの蛮行には憂慮していましたが、レイデン先輩も気持ちは同じだったのでしょう! 私たちの元を抜けて、弱った者たちに手を差し伸べる……! 何て素晴らしい方なのでしょうか!」
レイデン氏は、〈白雪花〉の女性メンバーに篭絡されて加入したとの情報もありますが?
「だ、誰ですか、そんなことを言ったのは!? 確かにレイデン先輩はヤンチャなところがありますが、とても優しくて素敵な方なのです!! 一体誰がそんなことを……!! 教えてください!! 私はその人を……レイデン先輩を性欲に負けたマヌケ扱いした人を許しません!!」
あの、ちょっと! 離してください! 離してっ! うわああああ!!
―― 海洋専門パーティー〈ポセイドン〉船長、
「えっ!? そもそもあいつ、生きてたの!? クラゲとヤろうとして毒で死んだって聞いたけど、あの噂はガセだったのかー」
ノアさんはレイデン氏と同じくSランク冒険者ですが、彼がどのような思いで〈竜の宿り木〉を抜け、Fランクパーティーに加入されたと予想しますか?
「あのバカが深いこと考えてるわけないじゃーん。どうせ酔った勢いで抜けるとか言ったら本気にされて、新しいとこには女に誘惑されて入ったんじゃない?」
確かに、そういう情報もあります。
「あいつ、マジもんのバカだからねー。ボクも一回さ、ヤらせてあげるから渦潮に飛び込んでって冗談でお願いしたら、あいつ、すぐに船から飛び込んじゃってマジウケたよ! しかもそのまま死にかけて、意識戻ってからまず何言ったと思う? 『あの約束って嘘じゃないよね!?』だよ?」
……個人的な興味でお聞きしますが、関係を持たれたのですか?
「別にヤッてもよかったんだけどさ。あいつ、ボクのこと見た目が可愛いから
そんな喧嘩で災害を起こすのやめていただけますか!?
―― Sランク冒険者兼ヤマト国剣術指南役、
「あんの糞虫がぁああああああああああ!! まだ生きてやがったのかぁああああああああ!!」
あ、あの、武錆さん……?
「あの時のアレは、死んだフリだったのか……!? この儂を騙しおって……!! 殺す、絶対に殺す!! 今度こそ殺す!!!!」
怖いです! 私に言われても困ります!
「儂から
やめて!! 刀を振り回さないで!! 怖いっ、怖いですからー!!
「うがぁああああああああああ!!!! その首寄越せぇええええええええええええ!!!! あとチェルシーちゃんを返せぇええええええええええ!!!!」
しゅ、取材は以上です!! ありがとうございました!!
―― 〈黒金の牙〉代表、クロウ・イナラシ ――
「…………」
あ、あのー?
「…………」
クロウさん?
「……あのオッサンのせいで、全部台無しだ」
は、はい?
「Aランク共は全員逃げたし、残ったザコはおれを舐め腐ってるし、街の連中からは笑われる……もう、散々だ」
それは、何というか……ご愁傷様です。
「でも、いいんだ。むしろこれでよかった」
えっ?
「おかげで、
うわっ!? え、真っ二つに……!?
「全部先生のおかげだ! 先生はカッコよくて、イカしてて、何もかもが最高にクールなんだ!」
格闘家に師事をしている、ということでしょうか?
「違う! 格闘家なんてちゃちなものじゃない! 先せいはすごいんだ! せいせいをばかにするなー!」
だ、大丈夫ですか? 落ち着いてくださいっ、落ち着いて!
「せんせいはすごいんだ! せんせいはすごいんだ! あっ、うわー!! わぁーーー!!」
どちらへ行かれるんですか!? クロウさん!? クロウさーーーん!!
◆
冒険者ギルドの貸し会議の一室。
朝からヴァイオレットに呼び出された俺は、渡された冒険者通信に目を通していた。
「……何だこれ? いいのかよ、こんなの載せて……」
「クロウのことを言っているのか? それとも、自分を過大評価しているアリスさんのことか? レイデン殿の間抜け話をバラしたノア殿のことか? もしくは、殺害予告をした武錆殿のことか?」
「全部だよ、全部!! こんなのバカ正直に書くなよ!!」
冒険者通信をテーブルに叩きつけ、俺は小さく息をついた。
アリス……あいつ、俺のことを過剰に信頼してるとこあるからな。
こんな記事見たら、ノアのクソ野郎のとこに『あんな嘘をつかないでください!』とかって突撃しかねない。……まあでも、そっちは何とかなるか。
武錆のクソジジイは……うーん、どうしよう。
せっかく死んだフリで何とかしたのに、まさかこんな形でバレるなんて。
あいつ、マジで面倒なんだよな。
……んで、問題は最後のこいつか。
「このクソガキ、どうしちまったんだ? 頭おかしくなるにしても、俺に金を払ってからにしろよ」
「レイデンさん、ちょっとは心配してあげたら?」
「……レイデンの恐喝で、こうなった……」
舌打ちをした俺に、エリシアとゼラが厳しい視線を飛ばしてきた。
俺が悪いのか……?
まあでも、この二人はSカップだからな。
もしかしたら、俺の考えが間違っている可能性はある。他でもないSカップの二人が言うんだから。
「クロウはこの取材の最中に部屋を飛び出し、そのまま消息を絶ったらしい。そこで、やつの父親から直々に依頼があった。息子を見つけて家に帰して欲しいと」
「はぁ? 迷子探しなんざ、そこらの暇してる連中にやらせろよ。せっかくお前ら、いくらか強くなって稼げるようになってきたのに、そんなバカみたいな仕事受けられるか」
俺が〈白雪花〉に入ってから、かれこれ一ヵ月が経った。
Fランクだったエリシアとゼラは、今やCランクに。
パーティーランクは仕様の都合上中々あがらないが、それでも昨日Eランクになった。この調子なら来月にはDランク、再来月にはCランクも夢ではない。
そういう大事な時期に迷子探しって……まったく、やってられるかよ。
「息子がこんなことになった責任を取れ! という気持ちはあると思う。だがそれ以上に、ワタシたちの……いや、レイデン殿の能力を信頼してのことだろう。Sランク冒険者であれば、必ず連れ戻してくれると信じているんだ」
「そりゃ嬉しいな。んじゃ、断っといてくれ」
あのクソガキは、この一ヶ月、一度も俺に金を持ってきていない。
あいつが乳のデカい女なら助けたが、乳はデカくないし、そもそも女ですらない。
ふざけやがって。
そんなやつにかける情なんて持ってねえよ。ポコチン切り取って乳デカくしてから出直せってんだ。
「報酬だが、前金で250億ゴールド、息子を無事連れ戻した時にもう250億ゴールド払うらしい。そしてこれもって、息子のレイデン殿への蛮行を許して欲しいと……そう言っていた」
「な、何て息子想いな父親なんだ!! 俺は感動した!! みんな、
「「「…………」」」
やめてくれよ、そのゴミを見る目。
でも、ちょっと好き。
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