Sランク冒険者の俺が、雑魚だらけの弱小Fランクパーティーに加入するわけないだろ!! いい加減にしろ!!
枩葉松@書籍発売中
第1話 12Pしただけなのに……
俺――レイデン・ローゼスは、人生最大の危機を迎えていた。
世界最大規模の冒険者パーティーの一つ、〈竜の宿り木〉。
その創設メンバーである俺は、パーティーの幹部の一人として何不自由のない生活を送っていた。
若い頃は現場に出て命懸けの戦いをしていたが、メンバーの数が二桁後半になってからは事務仕事が増え始め、今じゃよほど大変な案件じゃないと出番がない。
つまり、リスクゼロ。
そのくせ一番の古株で幹部だからと給料は高く、昼間に仕事を放り出して娼館に行っても誰も咎めないのだから、こんな最高の職場はない。
だから、このままヨボヨボの爺さんになるまでパーティーにしがみついて、最後の一滴まで甘い汁を吸おうと思っていた……それなのに!!
「レイデン先輩、本日無事、退職の手続きが全て完了しました!! 今まで本当にありがとうございます、お疲れ様でした!!」
「「「「「お疲れ様でした!!」」」」」
俺に深々と頭を下げる、〈竜の宿り木〉二代目頭領のアリス・エルドラゴ。
その後ろには、パーティーの幹部、幹部補佐、その候補たちと数十人が並び、アリスに倣って一斉に頭を下げる。
「え、えーっと……アリス? 退職ってどういう……お、俺が……?」
「はい! レイデン先輩の手を煩わせないよう、書類の用意から引き継ぎから全て、こちらで行いました!」
アリスは真っ赤な髪を揺らしながら、やってやりましたよ! と満面の笑みを浮かべ胸の前でガッツポーズを作った。うーん、相変わらず可愛い。
……じゃ、じゃなくて!
待て待て、待ってくれ。
何がどういうことか、まるでわからない。
「まさか、お忘れですか? 先月の決起集会でのことを?」
「決起集会……?」
「はい! レイデン先輩が語ってくださった、〈竜の宿り木〉への想い……! 私、とても感動しました!!」
腕を組み、うーんと首を捻り過去の記憶を遡った。
何か言ったっけな。
あの時はタダ酒だからって浴びるほど飲みまくって、気づいたら娼館で12Pしてたくらいだから、何も覚えてねえんだよなぁ。
『俺もさぁ! 本当はもう、引退したいんだ! でもよぉ……怪我で抜けたり結婚したり殉職したりで、もう創設メンバーは俺だけだろ……? いなくなったあいつらのこととか、今頑張ってるお前らのことを考えたら、俺が自分勝手に抜けるってのも筋が通らないんじゃないかって……』
……あー、言ってる。
完全に言ってるわ、俺。
心にもないことを。
「普段、気怠そうにお仕事をされていたので、レイデン先輩はサボりたいだけのやる気のない人だと思っていました! しかし、その表情の裏には複雑な想いがあったのですね! 異常とも思える娼館通いも、ままならない現実を忘れるための行為だと思えば納得です……!」
「い、いや、あの時は酒に酔ってて――」
「ですので皆で相談し、ここはいっそ強引にレイデン先輩を送り出すことにしようかと! 今まで本当に、ありがとうございました!!」
「「「「「ありがとうございました!!」」」」」
ま、まずい……。
まずいまずいまずい!!
どうしよう、これ!?
マジで辞める流れ……ってか、手続きも終わってるとか言ってたし、本当にもうクビになってるんだよな。あの時は酔ってて冗談でした、って頭下げるか?
……うん、そうしよう。
今更プライドなんかねえよ。
これで軽蔑されたところで、無職になるよかマシだ。
「うっ……ぐすっ、ぅう……!」
「ど、どうしたアリス? 腹でも痛いのか?」
いきなりポロポロと泣き出したアリス。
俺が尋ねると、彼女は涙を拭いながら精一杯の笑みを絞り出した。
「亡くなった私の叔父――レイデン先輩の親友である先代の頭領が今、お疲れ様と、先輩の肩を叩いたような気がして……! 他の散っていった方々も、きっと先輩のこれまでの働きを労っていますよ!」
肩叩いた!? 怖っ!?
いきなりスピリチュアルなこと言うなよ……。
まあ、あの男なら死んでも俺の周りをちょろちょろしてそうだけど。
……にしても、やばいなこれ。
他の連中も泣き出して、やっぱり辞めるのなしで! とか言い出せる空気じゃないぞ。軽蔑通り越して、殺されるんじゃないか?
死ぬのは嫌だ。
それだけはごめんだ。
仕方ない……。
退職金もらって、あとのことは一発ヌいてから考えるか。
「あっ、ちなみに退職金ですが――」
タイミングよく、アリスが口を開いた。
どれくらいの額もらえるんだろ。
最低でも、王都に十軒は豪邸が建つくらい欲しいよな。
わくわく!
「決起集会の席で『退職金だぁ? んなもん要らねえよ、適当に孤児院にでも配っといてくれ。俺はいなくなったあいつらと、今いるお前らとの思い出を持っていければ、それで十分だ』とおっしゃっていたので、そのように取り計らいました! 見てください、国中の孤児院から感謝状が……! たくさんの子どもたちが救われて、本当によかったですね!!」
「…………」
こうして俺は、無職になった。
◆
「頭領……本当によかったのですか? レイデンさんを引退させてしまって……」
先輩がパーティーを去った直後、幹部の一人が不安そうな面持ちで尋ねた。「仕方ないでしょう」と、私はため息混じりにこぼす。
「レイデン先輩は、〈竜の宿り木〉結成から二十年、パーティーの発展にこの上ないほど貢献してきました。これだけの功労者が辞めたいとおっしゃっているのですから、笑顔で送り出すのがせめてもの恩返し。引き留めるわけにはいきません」
「で、ですね……」
シンと静まり返る幹部たち。
重い沈黙の中、「ちくしょー!」と一人が頭を抱える。
「やばいだろ、俺たち!? レイデンさん無しでやっていけるのか!?」
「引退したいとか言ってたの、酔った勢いの冗談かって期待してたのに、本当に辞めるのかよー!」
「と、頭領! やっぱり今から追いかけて、戻って来てくれないかって交渉しましょ!? じゃないとあたしたち――」
「静かにっ!!」
せきを切ったように溢れ出した不安と不満。
私の一言で皆は再び口を噤み、しかしどこか納得のいかない表情で視線を落とす。
「
先輩の離脱は痛い。
それはもう、致命的なほどに。
〈竜の宿り木〉はこの日より、冬の時代を迎える。
辛く厳しい日々が続くだろう。
でも、だからこそ!!
「我々は大変な時、いつもレイデン先輩頼りでした! それがもうできないということは、成長するチャンスということ……! 先輩を含め、去って行った人たちのためにも、更に大きなパーティーにしましょう! 力を合わせて、我々の時代を作りましょう!!」
私の言葉に皆は沈黙し、しかしお互いに顔を合わせて頷き合い、合図もなく一斉に歓声をあげた。
……ふぅ、やれやれ。
どうにかまとまりそう、ですが……。
私は目を閉じて、ギッと奥歯を噛む。
誰にも悟られないよう、心の中で本音を叫ぶ。
レイデン先輩ぃいいいい!!!!
何で辞めちゃったんですかぁああああ!!??
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