こちら北海道農経大学、狩り喰い部
震電みひろ
第1話 大学生活ってつまらない→一転してハーレム環境?
(大学生活って、思ってたのと全然違ってツマラないもんだな……)
四月早々、まだ肌寒い北海道の空の下、俺はまだ雪の方が多く目立つ山々を見ながらボンヤリとそう思っていた。
腹がクゥ~っと鳴る。
仕方ない。
学食の売店で買った6本120円のパンを、朝に2本食べただけだ。
残り4本は夕食と明日の朝食に残しておかねばならない。
なぜにそんなに節約しなきゃならないかと言うと……
(まだ野宿はできないもんな。今夜もマンガ喫茶に泊るしかないよな)
そう、今夜も寝るところがない俺は、マン喫とカラオケボックスをハシゴして夜を過ごさなければならないからだ。
その理由は……三日前に剣道部を辞めてしまった事だ。
俺、
実家は千葉。
関東にいた俺がなぜ北海道の大学に進学したかと言うと……一浪したけどココしか受からなかったからだ。
そしてこの大学は部活動が盛んだった。
部に入れば部専用の寮にタダみたいな値段で住む事が出来る。
しかも朝食と夕食付だ。
俺は剣道部に入った。
だが一浪の俺は、タメ歳の一学年上の先輩には敬語を使わねばならない。
そしてこの大学には現役生が多い。
つまりタメ歳の相手に敬語を使ってコキ使われるのだ。
中でも一人、俺をなぜか敵視している先輩がいた。
ソイツの度重なる嫌がらせとイジメに耐え兼ね、俺はついにソイツをブン殴って剣道部を退部したのだ。
当然、その日から剣道部の寮には居られなくなった。
だが仕送りまでにはまだ日にちがある。
急遽、寮を出る事になったから金をくれとは、親にも言えない。
こうして俺は日々の食費を削る事で、次の仕送りまでをしのごうとしている訳だ。
(だけど住む所はどうしようか……アパートを借りるのは高いし、第一敷金や礼金なんて準備できない)
そうかと言って、これから卒業までの三年間、ずっとマンガ喫茶やカラオケボックスで過ごす訳にもいかない。
「はぁ~」
敷地が広い割りに学生数が少ないウチの大学の、そのまた人気のない草原が続く丘の真ん中で、俺は大きなタメ息を漏らした。
「何をそんなに黄昏てんだ?」
不意に背後からそう声を掛けられて、俺は驚いて振り返った。
そこには背の高い、ショートカットのグラマー美女が立っていた。
身体にピッタリとしたTシャツに、アーミータイプのパンツ。
上着としてはカモフラージュ柄のダウンジャケットを羽織っている。
この大学の名物女子、
それにしても足音も立てずにいつの間にか背後に居たんだ?
俺は人の気配には敏感なはずなのに。
「なんだ、返事もしないで人を顔をジロジロ見て。そんなにアタシの顔が珍しいのか?」
彼女は不機嫌そうにそう言った。
「あ、いや、ごめん」
俺はすぐに謝って前を向いた。
今は他人を話す気分じゃない。
俺としてはそれで会話は終わりのつもりだった。
ところが何故か麗明は俺の隣に腰を降ろした。
「あんた、
「あ、ああ」
俺は驚きの目で彼女を凝視した。
なぜ俺の名前や学部学科まで知っている?
「そんな驚いた顔をすんなよ。辺根利範斗なんて珍しい名前、一度聴いたら忘れないって」
彼女は当然のように言った。
確かにウチはこじんまりとして小さな大学だが、それでも俺は誰もが知っているほどの有名人ではないはずだ。
「それで、何で黄昏ていたんだ?」
麗明は最初の質問を繰り返した。
きっとこの手の女は、自分の聞きたい事を聞き出すまで相手を解放しないのだろう。
それに七ヶ原麗明は相当に厄介な女だと聞いている。
だからさっさと事情を話して、満足して立ち去って貰った方がいいだろう。
「剣道部を辞めたらからさ、部の寮を出なくちゃならないんだ。だけど住むアテがなくって……」
「ああ、剣道部の三年を殴ったんだってな。沢井だっけ?」
俺は二度目の驚きの目で彼女を見る。
「なんで知ってるんだ?」
「去年まで同じクラスだったヤツが話していたからさ」
そう言えば彼女も三年生のはずだ。
その関係で話が伝わったのか。
「それにアタシもあの沢井ってヤツ、嫌いだったからね。チャラチャラしていて、やたら女子の前でカッコつけたがるし。アタシもウザって思っていたんだ」
俺は改めて麗明を見た。
女らしさより凛々しさを感じるが、色白でかなり端整な顔をしている。
そして前が開いたダウンジャケットから飛び出した巨乳。
Gカップはありそうだ。
(確かに美人だからな。身体目当てで近寄って来る男も多いんだろうな)
そう考えた時、俺の腹が「ぐぐぐぅ~~」と鳴った。
かなり盛大だ。
「腹が減っているのか?」
麗明が聞いて来る。
「まぁ。ここ数日、ろくな物を食べてないから」
「ふうん」
麗明は少し考えたような顔をすると「来いよ」と言って立ち上がった。
「え、なんでだ?」
「いいから来いって」
麗明はそう言って俺の腕を強引に引っ張った。
麗明はどんどん山の方に進んで行く。
ウチの大学は市街地から離れた場所にあり、敷地面積だけは広大だ。
そしてその半分がそのまま山に続いている。
周囲を森に包まれた小道を進む麗明に俺は尋ねた。
「いったいどこまで行く気なんだよ。コッチってキャンパスの外れの方だろ?」
「もうすぐだよ。黙って付いてきなって。損はしないから」
「でもこのあたりってヒグマが出るって話だよな。大丈夫かよ」
「大丈夫。ここのヒグマを人を避けるから」
麗明は事もなしにそう答えた。
ってオイ、ヒグマ出るのかよ、ココ!
俺は急ぎ足で前を行く麗明に近づいた。
でも背後も怖い。
そんな中を彼女は、まるでごく普通に街中を歩くみたいに森の中を進んで行く。
しばらく進むと急に森が切れ、開けた場所に出た。
そこに古い家が一件だけ建っている。
その家の前では二人の女子がバーベキューをしていた。
一人は茶髪のロングヘア、もう一人はツインテールだ。
どちらもかなりの美少女と言っていいだろう。
そしてロングヘアの女子には見覚えがあった。
「あれ、範斗くん?」
向こうの方から先に声をかけてくれた。
彼女の名前は
俺と同じクラスの女の子だ。
米国からの帰国子女で、明るく優しい性格なのでクラスのアイドル的な存在だ。
ただ俺との絡みはあまり無かった。
なにせ俺は一つ年上という事もあって、クラスでは微妙に浮き気味だ。
「春野さんこそ、どうしてここに?」
俺の疑問に答えたのは麗明だった。
「どうしてって、恵夢はここの部員だし、住んでいるのもここだからな」
それを聞いた俺は「えっ」と思う。
なぜならクラスでは、春野恵夢は部にもサークルにも所属していないと聞いていたからだ。
入学当初からその美貌と人当たりのいい性格のため、男子からは常に噂の中心になっていた。
彼女と同じクラスまたはサークルに入ろうと男連中は必死になったのだ。
ウチの大学は部やサークル=寮という関係があるので、同じ部やサークルに入れば住んでいる所も近くなる。
必然的に彼女とお近づきになれる訳だ。
しかしクラスどころか他クラス他学年の男子が『春野恵夢の所属している部またはサークル』を探ったが見つける事ができなかった。
学校に来る時、キャンパス外の道路を歩いているので「部活動やサークルには所属せず、住んでいるのも校外のアパートなんだろう」
と予想されていたのだ。
彼女自身もプライベートに関しては、一切しゃべる事がないらしい。
麗明の説明を聞いて意外そうな顔をした俺を見て、恵夢が笑った。
「私、クラスでは部活については秘密にしてるしね。範斗くんが知らないのも無理ないか」
すると恵夢の隣にいたツインテールの美少女がそれに続く。
「この部って存在自体がマイナーですもんね。新入生の勧誘もほとんどやらないし。わたしだって前から知っていなかったら、ここには入れなかったと思いますよ」
俺はキツネにつままれたような気分になって尋ねた。
「ここは、何の部なんだ?」
隣にいた背の高いグラマー美女が答える。
「ここは北海道農経大学、狩り喰い部だよ」
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