とある外れた者たちの短編集
ほんや
ほう、私に死ねと言うんだな?
「ほう、私に死ねと言うんだな?」
暗い、がらんとした部屋に男の低い声が響く。1つ、小さな窓から差し込む光は弱々しく今が夜であることが分かる。40代ほどの白髪がまじり始めた痩躯の男だ。黒のスーツを着こなし、強い自信を持った瞳が暗闇の中に目立っている。
「もう一度言うぞ。この私に死ねと言うんだな? 稀代の魔術師の弟子であり、その生まれ変わりまでと呼ばれたこの私に!」
広い机を前に勢い良く立ち上がった男は大きな声で叫んだ。部屋には男以外にはおらず、虚空を睨み何かと会話する男は異様な光景を為している。何度か瞬きを繰り返した後に、1つ溜息を吐きドカリと椅子に座り込む。
「すまない。柄にもなく大声を出してしまった。それでどういう意味だ? 未だ計画は始まってすらいないのだぞ。」
幾ばくか落ち着いた様子で再度、男は問いかける。依然として部屋はがらんとしたままだ。
「同じことを繰り返すんじゃない。いや、お前は伝令役なのか。そうか……。ではこう返事をしてくれ。理由を聞かせてくれ。彼女らは未だに氷山の一角にすらたどり着いていないのだぞ、と。…………いや、待てよ。」
それきり男は黙ってしまう。細々とした月明かりは顔に手を当て考え込んでいる男を照らしている。動くものがなくなってしまった部屋の中である。雲でも通ったのだろうか。ふっ、と差し込む光が消えてしまった。部屋を暗闇が支配したその時、男は呟く。
「ありかも……知れないな。そうか、そうか! 私にその”氷山の一角”になれというのだな! それならば納得できる!」
何度も男は頷き、何か感動でもさせたのだろうか。椅子に深くもたれ掛かり、上を見上げ、小さく拍手を始める。
「面白い。伝令役、我らが
伝令役と呼ばれたものは去ったらしい。いつの間にか雲が散っていたのか、また部屋に薄明かりが灯る。未だ、椅子に座り込む男は小さな笑い声をもらしていた。
「さて、用意をしなければ……。まずは部下に命令を出し彼女らの位置を割り出させるとしようか。ここから忙しくなるな。この命が潰えようとも計画は成さなければならない。しっかりと”氷山の一角”を見せなければ……。」
暗い部屋の中に黒い男の、《
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とある外れた者たちの短編集 ほんや @novel_39
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