上杉さんには女装の才能がありすぎる②ドキドキ火曜日 地獄の借りもの競走編

二日目 火曜日

2-1安達はるか、再挑戦する

 1-Aの教室。休憩時間のざわめきの中、安達はるかが、前の席の椅子をひき腰を下ろした。


 うつむいていた、上杉みすみは、顔を上げた。





 当然、その中身は双子の弟の上杉 丸なのだが、こうして髪型を姉に似せれば親でも見分けがつかない。ましてや入学二日目の級友なら、そのウィスパーなハスキーボイスも上杉みすみ、その人だとしか思えない。





 前に座った安達はるかは、みすみの顔を覗き込むようにして、真剣な表情で大きく手を合わせた。


「ごめん! 何も知らなくって!」


 いきなりの謝罪に、みすみは一瞬目を丸くした。

 はるかは手を合わせてさらに言う。


「上杉さん、三年も引きこもりしてたんだって……!」


 驚いて瞬きをしたが、みすみは、すぐにうつむき、何とか返事をひねり出すように手をスカートの上で固く握った。


「う、うん……。だから、まだ外にも、人にも慣れてなくて……」


「どおりで…… 昨日、触ったらショックで倒れちゃったわけだ……」


 丸は、彼女を騙しているいたたまれない気持ちでさらに俯いた。


「それで、声もこんなに低くて小さくて……なんていうか……ごめんなさい……」


 しかし、はるかは言葉を遮って、きっぱりと断言した。


「謝ることなんかないよ、いきなり高校にきて怖かったでしょ? ……でも、本当に勇気あると思う。えらいよ……!」


 そう真剣な顔つきで、前髪の中を見つめてくる彼女に、みすみを模した髪型でうつむいたまま、丸の心は針で突くような痛みを感じながらも、小さく躍った。


(安達さんて、ほんとに優しいな…… それに思ったことをこんなに素直に言葉にできるなんて、すごいや……)


 気づかないうちに、みすみの長い前髪の陰で、頬が赤く染まっていく。


 しかし、次の瞬間、はるかの口から出た言葉に丸の心臓が凍りついた。


「よぉし!おわびがわりに友達作りを手伝ってあげるね!」

「ぇゔぇええーーー!!!」


 思わず地声を上げたみすみに、教室中の生徒が振り返るが、はるかは全く気にする様子もなく意気揚々と続けた。


「一度きりの高校生活、ガッツリ楽しまなくちゃ!」


(……な、なんでそうなるの!?)


 慌てふためいて丸は、みすみの顔で声をひそめて訴えた。


「お、おちついて、安達さん、あのね、い、一度きりの高校生活なんだよ? コソコソっと静かに過ごそうよ……!!」



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