第2話 一方そのころ
仕事を終え、子どもたちと帰宅した僕は、リビングでれんとりお、二人の子どもと一緒にミニカーで遊んでいた。
「パパ、ここ!トラックをここに停めて!」
「了解!ここで荷物を下ろすんだな?」
そんなほのぼのとした時間を過ごしていると、玄関のチャイムが鳴った。
「はーい!」
りおが勢いよく飛び出していく。扉の向こうから聞こえた声は――。
「頼まれた物、持ってきたぞー!」
ゆうきだ。
「ゆうきおじちゃん!」
りおは全力で抱きつきに行く。
「うわっ、おいおい。元気だな。ていうかまだおじちゃんじゃねぇよ。」
荷物を片手に持ちながら、なんとかバランスを保つゆうき。
後ろかられんが冷静に歩いてきた。
「ゆうきおじさん、荷物ありがとう。」
「お、れんもちゃんと礼を言えるようになったな。でもな…。」
「?」
ほめられている気はするけれど、続く言葉が分からずれんは首を傾げる。
「まだおじさんじゃないぞー!」
ゆうきは無造作にれんの頭を撫でる。
大型犬を洗ってみるみたいな手つきだなと、ぼくは少し笑ってしまった。
リビングに入ってきたゆうきが、テーブルに紙袋を置く。
「これ、頼まれてたやつな。ミニカーで遊ぶときに使う追加パーツ。」
「助かるよ、ありがとう。」
僕は手を伸ばして紙袋を受け取る。
「ま、どうせ暇だったしな。それより――」
ゆうきが何か言いかけた瞬間、僕は意を決して言葉を口にした。
「ゆうき、相談があるんだ。」
「……どした?」
唐突な一言に、ゆうきが少し怪訝そうな顔をする。
僕は真剣な顔で続きを話し始めた。
「30歳と21歳って、ほぼ犯罪だよな?」
「……は?」
ゆうきの動きが一瞬止まる。でも、僕はそんなこと気にせず言葉を続けた。
「30っておっさんだろ? おっさんとデートって楽しいのかな? それに、どこに連れて行けば自然かな? いや、もしかして『ロリコンだー!』って通報されるんじゃ――」
「ちょ、ストップ! ストップストップストップ!!」
ゆうきは大きく手を振りながら僕の言葉を遮った。
「お前さ、どんだけ不安抱えてんだよ! 次々にうるさいんだけど!」
「だって、よく考えたら僕、30だよ?」
神妙な顔でそう答える僕に、ゆうきは大げさにため息をつく。
「いやいや、30はおっさんじゃねぇし、21はロリじゃねぇよ!」
呆れたように肩をすくめながらも、ゆうきはニヤッと笑った。
「つーか、普通にカップルじゃん。それに、あゆみちゃんもお前とのデート楽しみにしてるだろ?」
「……そうなのかな。」
「そうだよ! で、どこ行くつもりなんだよ?」
「そこが問題なんだ。どこに連れて行けば自然に見えるか分からなくて――」
「またそれかよ! 考えすぎだって!」
ゆうきは僕の肩を掴み、軽く揺さぶる。
「好きそうなところでいいんだよ!あゆみちゃんに喜んでもらえそうな場所を選べば、問題ねぇから!」
「……好きそうなところ。」
「それと、考えるのも良いけど、ちゃんと連絡はとっているのか?
お前めんどくさがりだから…。」
「失礼な!ちゃんととってるよ!」
ぼくは送ったメッセージを自慢するように突き出した。
「『今度の休み、楽しみだね』って…。」
おや?ゆうきが感動のあまり震えているじゃないか。
ぼくは少し勝ち誇った気分になった。
「いや、シンプル!すごくシンプル!いいんだよ?いいんだけど!もうちょっと何かいれたげろよー!」
「え!?」
僕が驚くと、近くで遊んでいたれんとりおがこちらを見た。
「パパ、ゆうきおじちゃんに叱られてる!」
「パパ、がんばれー!」
子どもたちの声援(?)を背に、どうしたものかと僕は考えていると
「まぁ、でも楽しそうで良かったよ。」
とゆうきはどこか安堵したような表情だった。
その目を見たぼくは
「いつもありがとう、ゆうき。」
といつのまにか小さく呟いていた。
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心がほどける時間 ゆう @yuu-_-shippo
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