気まぐれに少女を育てたら、大変なことになった(改訂版)

焼き鍵

第1話

前略。

死んで、神に会って、転生した。

ダンジョンに潜った。

偶然不老の薬ができたので、寿命というものがなくなった。

そのまま長い間ダンジョンに引きこもった。


そして今、飽きた。ということで、久々に地上の様子を見に行ってみよう。






適当に準備をして地上に出る。ただ、大抵のものは転移の応用で家から持ってくることが出来るので荷物は特に無い。服装も魔法で作ったTシャツとジーパンで、準備したものといえば自身にかけた翻訳魔法ぐらい。流石に数百年も経てば同じ言語は使われてないだろうからな。


かつて住んでいた村があった場所あたりに転移すると、そこは何もないただの草原だった。小さな村だったし、もう無くなってしまったか……と思いきや、少し離れた場所に建物が見える。相当遠くに見えるはずなのに人工物がはっきりと見えるのは、それだけ大きい建物だからか。

近づいてみると、それは巨大な壁だった。大きく円を描くように広がっているし、内部の街を守るための防壁だろう。ちょうど団体が街の中に入ろうとしているのか、門の前に行列を作っている。その奥には謎の水晶玉と、暇そうにしている門番が一人。しばらく観察してみたが、この街に入るには門番の前に置いてある水晶に触れる必要があるらしい。何の道具かな。魔力を使っているなら見るだけで構造は理解できるが。


……へえ。内部で動いている魔法の感触からして、害意を持つものが触れると赤く光る魔道具だな。思った以上にハイテクだ。内部に多少無駄があるが、これぐらいがこの時代の魔法の水準なんだろう。高くも低くもない、といったところ。いくらでも誤魔化しが利くが、そもそも害意はないからやる必要はないな。

列に並んだ後水晶に触れると、特に怪しまれることもなく中に入ることができた。やろうとおもえば透明化して門を素通りすることもできるのだが、ルール違反だろうからやらない。百年の引きこもりだろうと、ルールは出来る限り守るという常識ぐらいはある。


……あ、貨幣を徴収してる。入国料とかある感じね。前の人が払っていった硬貨を真似て手元でこっそり偽造しよう。どうせ溶かしたら一緒だし、セーフセーフ。






「……結構でかいな」


門をくぐるとそこには、記憶にある小さな村とは似ても似つかぬ大都市が存在していた。そりゃ数百年もすれば変わらないほうがおかしいのだが、それにしても尋常でない発展度合いだ。小さな村がここまで発展するなんて。いや、村とは関係のない別の集団なのか?そこまで知りたいことでもないのでどうでもいいが。


正面に見える道路には冒険者然とした者や荷物を運ぶ商人などが行き交っており、道路際の屋台や露店には野菜や肉、服などが売られている。遠くには怪しい壺や水晶玉を売っている店もあるので期待を込めて確認してみたものの、特殊な効果はないようだ。呪いの壺とかだったら面白かったんだけど。良い効果もないようだから、陶芸家の作品か何かだろう。


しばらく田舎者のようにきょろきょろと街を見回していたが、当然どこが観光名所なのかもわからない。観光案内所ぐらい建てといてくれ。


「なあおっちゃん、この街の名物とか聞きたいんだけど、何か知らないか?」


仕方ないので、手始めに入口の門近くにいた串焼きを売っている屋台のおっちゃんに声をかける。こんな場所で商売しているわけだし、お上りさんの案内は慣れているだろう。


「お、田舎から来たのか。そうだな、ここに来る観光客がよく見に行ってんのは、あっちに見えるでかい王城と、その横の騎士団の訓練場だな。なんでも世界最強らしい。王城の奥には高級志向の店がある。貴族や商人向けだが、質のいい飯や服が売ってる。あんまり個人向けじゃないが、イルン奴隷商会も有名だな。最近じゃあ亜人なんてのを取り扱ってるぞ」


串焼きのおっさんはくるくると串を焼きつつもよどみなく答える。手慣れてるな。観光客相手に案内をしてやって、ついでに串焼きを買っていってもらう売り方なんだろう。俺は無一文だけど。


というか、それよりも気になることが。


「亜人?」

「んん、そりゃあ田舎だと情報は入ってこねぇか。亜人ってのは、人と魔物の混ざりもん、失敗作ってもんらしい。俺も噂でしか聞かねぇし、見たことはないがな」

「へー……」


記憶の中に思い当たる存在はない。人に擬態する魔物なら見たことはあるが、混ざりものという表現が似合うかというと微妙なところだ。奴隷商で取り扱っているということはそれなりに人型だと思うんだが、ペットショップ兼業の可能性もあるし分からんな。


「気になるなら見に行ってみたらどうだ?運が良ければ、農業に使う人間ぐらいは見つかるかもしれんぞ。金があれば、だけどな」

「わかった。ありがとう」

「情報量として一本どうだ?うまいぞ?」

「すまん、持ち合わせがない。それでなんだけど、魔石とかを金に換えられる場所はないか?」

「それなら冒険者ギルドだな、城の方に向かってから左に曲がればすぐ見える」


その後、礼を言ってから屋台を後にする。色々と見て回るついでに冒険者ギルドで金を稼いでいこう。家に保管している魔物の素材がどれだけの値段で売れるかはわからないが、安く買い叩かれるってことはないはずだ。


オススメされた観光名所の王城だとか騎士団の訓練場を遠くから覗いてみたものの、あまり見どころのある場所じゃなかった。王城はそれなりに大きく美しくはあったが、前世で観光地として有名だった城と比べれば流石に劣る。騎士団は……よく分からん。あまり強そうには見えなかった。彼らはなんで身体強化の魔法がある世界で自分の筋肉だけで戦ってたんだろうか。そういう訓練の一種だろうか。にしては体内の魔力が少ないように見えたけど。


残りは奴隷商とギルドだが……奴隷商の場所を聞き忘れたな。ギルドで聞いてみるか。




ギルドに向かうと、少し古びた大きな建物が目に入った。古びた、と言ってもボロい訳ではなく、歴史を感じられる味のある雰囲気だ。せっかく転生したのに魔法を究めるばかりでこういう組織には触れてこなかったから、ちょっとワクワクしている。

入口の扉を開け中に入ると、何枚もの紙が貼られた大きな掲示板と、暇そうに頬杖をついている受付嬢がいた。昼飯の時間だからか人が少なく閑散としている。ここの利用法はよくわからないので、暇そうな受付の元へ向かう。どうせ暇なんだし、聞けば教えてくれるだろう。


「どうも~。ご用件は?」


近づくと、暇そうにしていた受付嬢がだらけた表情を取り繕いつつ応対してくる。見た目は悪くないので、冒険者が俺の想像している集団ならそれなりに人気が出そうだ。こういう所でも受付の面接は顔で選ばれるんだろうか。


「魔物の素材を換金したいんだけど、どうすればいいんだ?田舎から来たからよくわからなくてさ」


変に不信感を持たれても嫌なので、串焼き屋のおっちゃんが勘違いしていたことをそのまま利用する。都合がいいしこれからもこれで通すことにしよう。


「小型の素材や魔石ならここですよ。冒険者登録は?」

「してない。登録ってどうするんだ?」

「えー……犯罪歴の確認の後、いくつかの試験を受けていただき、合格した方が冒険者の資格を得ることができます。また、試験を受ける際、受験料を支払って頂く必要があります」


受付嬢は真下を見ている。手元の書類をそのまま読んでいるようだ。利用者が読みやすい場所にないのか?と思って周りを探すと、それと同じ説明が書いてある紙が掲示板っぽいところに貼り付けられていた。見落としてたな。

しかし試験の内容は知らんが、面倒だからやりたくないな。ローカルな知識を問われる筆記試験みたいな形式だと落ちる可能性もあるし、そもそも本来の目的じゃないしな。


「登録しなくても換金は出来るのか?」

「はい。その場合、買取額が本来の8割となり、また、討伐依頼の対象であった場合でも報酬を受け取ることができません」


依頼の対象、つまりはここの説明と同じように、掲示板に貼ってあるやつだな。害獣とかを狩った報奨金とかが出るのだろう。ここに登録していないんだから、依頼を受けていない判定になって報奨金がもらえないのか。どうせいくらでも取ってこれるし、減るのが二割程度ならどうでもいいか。


「それでいいや。換金してくれ」

「はーい。それで、その素材はどちらに?」

「当面の生活費を稼ぎたいんだけど、えー……これで、どれぐらいになる?」


バッグの中から、ダンジョンの外で適当に集めた魔石をいくつか出す。実際はバッグの中ではなく、自宅に乱雑に転がしてある魔石を転移魔法で持ってきているのだが。この時代に転移魔法を使える人がどれぐらい希少なのかはわからないが、一応こういうのは隠すに越したことはない。ここまで歩いてきて誰も使っていない以上、そこそこに希少だろうからな。

ごろごろと魔石をカウンターの上に並べていく光景を見ていた受付嬢は、数が増えるたびに暇そうな表情から驚いた表情に変わっていった。こっそりと反応を見つつ数を調整したので、そこまで異常にも見られないだろう。


「……ええと……合計で金貨9枚、銀貨6枚です。ここ王都でもしばらく生活する分には十分な金額ですね。ランクを付けるなら金級くらいですかね」


受付嬢の驚きようから察するに、俺が渡した魔石はそれなりに手に入れるのが難しいものだったようだ。で、金級ってのは何なんだろうな。多分強さをランク付けしたものだろうけど。


「金級ってのは?」

「この国で活躍するトップ層のひとつ下ですかね。中難度の討伐や捕獲依頼のほか、国から出る依頼を遂行することが主な活動内容です」


やっぱりランク付けらしい。田舎から出てきた男が異常に強いと目立つだろうから、いい調整だったんじゃないか?これなら、ちょっと強い魔物が出る村から出稼ぎにきた腕自慢程度に収まる。

出そうと思えばもっと色々出せるが、使うかも分からない金を過剰に稼いでも無駄になるだけだ。


「本当に登録はしなくていいんですか?この実力なら、相当な稼ぎを得られると思いますよ?そんな服じゃなくて、いい服とか装備も変えますよ?」

「また金が欲しくなったらそのときにする」


社交辞令的にそんなことを言ったが、街の散策が終わったら金が必要なくなるからもう来ない気もする。そんな服、というのは俺の着ている服を見ての事か。Tシャツも悪くないと思うんだけどなぁ。


今得たこの金をどう使うかな……ああそうだ、奴隷商だ。それを聞くのも目的の一つだった……が、奴隷を買いたい、なんて言ったらセクハラにならないか?男の求める奴隷なんて、露骨にそういう目的のように聞こえる。地図を買えればそれが一番いいんだけども。


「なあ、地図ってどこかに売ってないか?店を探したくてな」

「道を記した地図ならここでも売っていますが、その目的であればオススメはしませんね。ここは店の入れ替わりが激しく、情報が古くなっていることが多いですから」


うーん、当てが外れた。仕方ない。


「どんな店を探してるんですか?」

「奴隷商だ。なんか有名な奴らしい」


これは向こうから聞いてきたからセーフだ。そもそも地図を見てもわからないのが悪い、商売するならその辺も気を遣ってくれ。


「イルン商会ですかね?それならここを出てまっすぐ進んで、ちょっと大きな通りに出たら右に見えてくる白い建物ですね。綺麗な建物ですから、すぐ分かると思いますよ」


受付嬢は予想に反して普通の事のように対応してきた。ただの労働力を求めてると思われたかな。そういえば、串焼き屋のおっさんも農業に使えるとか言っていた。メインで取り扱っているのが農奴なんだろうか。


「わかった、ありがとう」

「いえいえ、またここに来るときがあったら登録もしていってくださいねー」


存外優秀であると判明したためか、来た時よりも受付嬢の対応がいい。彼女らも商売なんだし、稼げる相手だけ好待遇、なんておかしなことでもない。単純に将来の結婚相手に粉をかけているだけの可能性もあるが。


どうでもいい事を考えながら冒険者ギルドを後にした。

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