リオナの転生:失われた時代と魔法の記憶

桓譲

第1話 闇の中で目覚めた感覚


――冷たい。

どこか湿った空気が私の肌を覆い、次にくるのは温かい何か。揺れている……?


意識が戻ってきたと思った瞬間、私は目を開けようとした。でも、まぶたが重い。体も鉛のように動かない。それどころか、私の体には明らかに「何かがおかしい」感覚があった。手足が縮こまっているような、というよりも、異様に短い感覚。


「なにこれ……」

呟こうとしても、声は出ない。ただ、喉の奥で震えるような音がかすかに漏れただけだった。パニックになりそうになる私を、次の瞬間、さらに奇妙な現象が襲った。




柔らかい布の感触。そして……揺れる感覚。

誰かに抱かれているような、それも赤ん坊をあやすような感覚だ。


「……赤ちゃん?」


思考が混乱していた。でも、どうやらそうらしい。抱かれている位置や、体の動かしにくさ、何よりも視界がぼやけている――これが普通の視力とは思えない。


「待って、これ、どういうこと?」


記憶を辿ろうとするけど、頭の中には断片的なものしかない。最後に覚えているのは、車に乗っていて……あの時、確か……!


「ああ、そうだ……事故だったんだ」


私、死んだんだ。いや、そうだとしたら、ここは一体?天国?地獄?それとも、夢?でも、この感覚のリアルさは……!




徐々に目が慣れてきた。私はぼんやりと周囲の景色を認識する。揺れる葉、透き通る空。どこか素朴で原始的な風景。ここは……日本じゃない。少なくとも、見たことのある場所ではない。


耳元で誰かが何かを話している声がする。言葉は聞き取れないが、女性の声。柔らかく、優しい。多分、私を抱いている人だろう。母親、なのだろうか?


「なんで私がこんな状況に……?」




時間の感覚がない。私はずっと抱かれているだけだ。でも、その間も頭の中で考え続ける。この体は私のものではない――前の私じゃない。小さすぎるし、力が入らない。しかも、喋ることも、自由に動くこともできない。


「これって……転生とかそういうやつ?」


まるで小説や漫画で読んだような設定。死んだら別の世界に行く?けど、赤ちゃんからスタートっていうのはさすがに想定外だ。それに、ここがどんな世界なのかも全然わからない。


「いやいや、そんなの――!」

叫びたくても、喉の奥からは泣き声にしかならない。自分の意思とは関係なく出てしまう赤ちゃん特有の泣き声が、私をさらに現実に引き戻した。




少しずつ周囲の音や景色が鮮明になってきた。目の前には、優しそうな顔の女性が見える。この人が私の母親……なんだろうか。よく見ると、女性は動きやすそうな布の服を身にまとい、肌は日に焼けている。何か言葉をかけながら、私の額にそっと触れた。


「この人、本当に私の母親なのかな……」


私は赤ちゃんの声を発しながらも、内心で状況を整理しようと必死だった。だけど、どんなに考えても答えは出ない。唯一確かなのは、私はここにいるということ。そして、私の中に奇妙な「感覚」があるということだった。




その感覚は、体の奥底から湧き上がってくるような、何か温かいものだった。手足や指先に向かって流れる、透明なエネルギーのようなもの。


「なにこれ……魔法とか?」


自分でそう思うのもバカみたいだけど、他に説明のしようがない。このエネルギーの正体が何なのかはわからない。でも、私の中にあるのは確かだ。


「……こんなこと、本当にあるの?」


現実なのか夢なのか。今の私はそれを判断する手段を持たない。ただ、一つだけわかるのは――この体で生きていくしかないということだ。




再び眠気が襲ってくる。赤ちゃんの体は驚くほど疲れやすいらしい。考え事をしようとしても、意識がふわりと遠のいていく。


「次に起きたときには、もう少し何かがわかればいいのに……」


そう思いながら、私は新しい人生の最初の眠りについた。


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