卒業近いし好きな女に告ろうとしたら猿にされたが?

雪染衛門

卒業近いし好きな女に告ろうとしたら猿にされたが?

 入学式の一目惚れからはや三年。


 今日、俺は三蔵みくらノリコに告白する。勝機はある。最近バチクソ目合うし!

 十八でついに無敵のソロクリぼっち軍団も一抜けだ。いまなら大晦日に初詣、正当なフラグも立つ!



 ワンチャンある……!



「興奮してる、マシラ?」


 幼なじみの桃生とうしょうモモが緊張気味に俺を見下ろしてる。いや見下ろしてる……?

 両手を前に広げてみる。いつから俺は剛毛ごうもうになったのか。


「なんでだよ」



――俺はさるになっていた。


「急でごめんだけど、マシラなら聞いてくれるかなって」


 モモは学ランをぎゅっとふところに抱く。いやそれ俺んじゃね?


されんうちに、猿になったが?」

「だって強行しなきゃ信じないっしょ」

「恐ろしい!」


 そもそもどうやって俺は猿に?


 飯も喉を通らん昼休み。迫りくる約束の屋上。一世一代の大勝負に腹が鳴ったらずいと、モモから渡されるままに食った謎の飴……。



 それな。



「一度食べたら、に反応して猿になる」

「そのシモっぽい響きなんとかならね?」

「でも変身できるのは一日三回まで!」


 聞いちゃいない。


「で、一日三回俺を猿にして何すんの?」

「……鬼退治」


 いるいるいる、すでにモモの後ろになんかいる!


「避けろ!」


 言うが早いか身体が勝手に動いてた。


「ありがとうマシラ、まじ助かった」


 モモが無傷なのは何よりだ。


とかひねりもクソもなくてくさ


 さすがに痛すんぎ、骨折れたんじゃね。と泣き言を押し殺して皮肉ってみる。


 充満する鉄錆てつさびにおい。視界が歪む。


「はー。なんか血足りねえ。イラつく」


 振り上げられた金棒は、俺を待ってくれそうにない。


「こちとら寒空さむぞらの下、待たせてんだよクソボケがっ!」


 怒りと共に振り下ろされる鋭利な音。恐らく俺の爪が影の英雄ダークヒーロー並みに伸びた。

 化物の顔面を引っ掻き回す。身体が躍るように軽い。視界が黒い。


 びた臭いが濃くなるたび楽しくなった。


「マシラ、戻って!」


 モモの言葉で我に返る。


 は、いまのマジで俺? 悪魔かよ。


 刹那、俺のショックごとぶったるようにモモの一閃が化物を貫いた。どっから出したし、その木刀。


 気付けば俺はでぶっ倒れてた。学ランは絶叫するまで、草履ぞうりの如くモモの懐のなか。悪魔かよ。


「ちと待て。感情がたかぶると変身するっつったよな」

「そ、鬼征伐ミッション終わるまでずっと猿!」


 かるッ。つまり告白はお預けってコト!?


 こうしての鬼退治は千文字ではじまった。


「んで鬼ヶ島ってどこ?」

「え、何それこわ


 まだ何も知らんけど。

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