天使のはね(仮)
山田
ベージュ
その人はまるで天使だった。彼女は薄い濃緑のカーディガンを羽織って、ベージュのロングスカートをはいて、腰より少し上まで伸びた髪をさらりとなびかせて、背中には羽があった。そこは白い雲の上のような場所で、あたたかい陽の光が彼女を後ろから照らしていた。彼は吸い寄せられるように彼女の元までいき、ゆっくりと胸元に顔をうずめた。あたたかで、なにも恐れるものもない、そんな気持ちだった。彼女は優しく微笑んでいるようで、その白い羽となにも寄せ付けないような腕で彼を包んでくれた。羽毛布団のような2枚の羽が彼の身体に覆いかぶさっていく。彼はただただ目を閉じていた。もうなにも考える必要もない。ただただこの一瞬を、確かめていたかった。
目をあけるとやかましい工事の音が聞こえていた。彼の頭がどんどん現実に引き戻される。最近はずっとこんなんだ。別にやるのは構わないが、もう少し静かにできないものか。とはいえ彼が苦情を言いにいくなんてことはない。普通の人間なら働いている時間だからだ。
毛布にくるまりながらしばらくじっとしていた。そして彼女のことを考えていた。妙な夢だ。よく考えれば、なんであんな普段着の女性が背中に羽をつけていたのか。そんな人が俺にいるわけがない、なんて思った。それでも、彼のほほは未だに温かかった。
ギュイーン、という機械音がまるでお母さんのように彼をせき立てた。わかった、わかったわかった。起きるよ。起きるって。毛布をあけた瞬間、冷たい風が彼の元に差し込んだ。これは温められた空間に急に風が入ってきたため冷たく感じているのだ。しかし、やはり部屋は寒かった。身体で冷たさを感じるたびに、あの人の姿も薄れていった。
もう冬らしい。いったい秋はいつだったんだ、とトイレに向かいながら思った。
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