善とか悪とか、魔法少女とか

結 励琉

第1話 変なバイトのお誘いがまた来たんだけど

第一章 決断


「昨夜遅く、東京都千代田区にある花都銀行の丸の内支店の金庫から、現金が紛失していることが発見されました」

「警報で駆けつけた警備員が発見して、警察に通報しました」

「昨年から頻発している銀行の金庫からの現金紛失事件は、今回で三十件になります」

「取材に応じてくれた銀行によると、昨年後半から一件当たりの紛失金額は大きく減ったのですが、最近また増えているそうです」


「これまでの事件と同様に、銀行には外部から侵入された形跡はなく、建物や金庫の破損もないそうです」

「花都銀行では内部調査を進めることとしていますが、これまでの事件でも被害を受けた銀行の内部調査では、疑わしい結果は報告されていません」

「警視庁では捜査本部の規模を拡大して捜査にあたっていますが、今のところ具体的な進展は報告されていません」


「続いて、これも最近連続して起きている、高校生の行方不明事件です」

「昨夜、東京都北区の高校二年生、明原ひばりさん十六才が、アルバイト先から帰らないと家族から警察に通報がありました」

「ひばりさんはアルバイトのある日も必ず夜九時には必ず帰宅していたところ、昨夜は深夜になっても帰らず、携帯電話も通じず、友人も行き先に心当たりがないことから、通報したとのことです」


「アルバイト先の会社は、明原さんは八時半に会社を出たと説明しており、警察では防犯カメラの映像から明原さんの足取りを追っています」

「これで今年都内の女子高校生が行方不明になったのは三人目であり、警視庁では事件性も考慮し、異例の早期の発表を行ったものです」

「警視庁はこの事件でも捜査本部の規模を拡大するとともに、情報提供を呼びかけています」


 テレビのニュースは毎日このふたつの話でもちきりだ。

 現金の紛失って、一体これまでにいくらなくなったのかな。

 新たな事件を引き起こす危険があるとかで、被害金額の正確な額は明らかになっていないけれど、私がバイトどころか一生働いても稼げない額に違いない。

 でも、もっと気になる、というか心配なのは行方不明事件。


 女子高生の行方不明ってどういうことだろう。それもこの三ヶ月ちょっとで三人。

 連続誘拐事件? それとも自分の意思で失踪?

 誘拐事件だったら、犯人から何か要求があるよね。

 それがないとしたらもっと猟奇的なものかもしれないと、悪い方向へ想像がいってしまう。

 女子高生ということで人ごととは思えないので、どこかで無事でいてほしい。


 というのも、私は高校生になったばかりの15才。名前は藤ヶ谷こころ。

 さっきバイトと言ったのは、高校に入ったのでそろそろバイトをしたいと思っていたから。

 まだ高校に入ったばかりで卒業後の進路は真剣には考えてはいないけれど、「社会経験」というものをやってみたい。それに、買いたい物もある。

 15才、高校1年生の私にはいろんな将来が待っているのだから、少しでも将来を考える材料がほしい。

 

 将来と言えば、私の子供の頃の将来の夢は「魔法少女」。

 小さな頃から魔法少女もののアニメを観るのが好きで、今でも魔法少女は大好き。

最近のお気に入りの作品は、この前最終回を迎えたばかりの、「魔法少女にだまされて」。略称「まほだま」。


 ところが、実は弥生を誘った魔法少女は悪の組織の手先。

 ええっーと思って観続けていたら、そこから弥生はだまされたふりををして、悪の組織を内部から崩壊させていくという、逆転のストーリーだった。

 逆境にくじけず、強い精神力で道を切り開く弥生に憧れた。


 「まほだま」は百合の花咲く肌色要素もあって、テレビ放送で見えなかったものが、ブルーレイなら見えるというので、バイトのお給料で買いたい。

 そういうのを買うのは男性だけというのは、時代遅れの先入観念だよ。

 社会経験ができて、好きなものも買えて一石二鳥。パパとママも自分で働いて買うならいいよと言ってくれた。うちの両親は肌色要素に理解があるんだ。


 弥生なら、銀行の事件も、女子高生の事件も解決してくれるんじゃないか、そんな想像もしちゃった。

 自分が魔法少女になって次々と解決……という想像はさすがにしない。

 いや、バイトで魔法少女ができればそれができる……なんてことはあるはずがないよね。


 そんなある日、もうすぐゴールデンウイークという時に、私の愛用のSNS、「ツイスター」の私のアカウントに、一通のダイレクトメールが届いた。

 余談だけれど、「ツイスター」はその名の通り一ひねりした投稿が多く、私のお気に入りのアプリだ。


 送信元はバイト紹介を行う会社のアカウント。なんかいいバイトがないかと思ってフォローしたら、すぐにフォロー返しがあったアカウントだ。

 ところが、そのアカウントが投稿するのは、嘘かホントかわからない、世界の珍しいバイトのお話ばかり。それもただこんなのがあったというだけで、それに応募できるリンクはない。 


 それでも「ツイスター」らしいやと、フォローを続けていた。

 そうしたら、こんなDMが送られてきたんだ。

「いきなりのDM失礼します。弊社『スペシャルバイト』では、ココロン(私のハンドルネーム)様を見込んでアルバイトのご紹介をいたしたいと思っています。短時間で学業と両立でき、よい時給も保証いたしますが、決して犯罪に関わるものでもありません。お手数ですが、弊社に一度お越しいただけないでしょうか」


 DMに記された会社の場所は、副都心の、誰でも知っている大きなビル。でも、これ、見るからに犯罪臭がする。会社の名前もうさんくさいよね。

 一応調べたら、会社のちゃんとしたホームページがあった。それでも、それで信じていいと思うほど、私はネットリテラシーがない訳じゃない。


 ママに見せたら、そんな怪しげなところに行ったら人さらいに遭うか、犯罪者の手先にされるよと言われた。

 女子高生の連続行方不明事件が起きているし、最近はSNSから犯罪に手を染めるケースも多いから、ママの心配はわかる。

 なのでDMを放っておいたら、二通目が来た。


「先にお送りしたアルバイトのお誘い、ご不審に思われるのももっともです。しかし、このビルに入居するには厳格な審査があり、怪しい企業は入居できません。お仕事の内容を申し上げていないのがご不審の原因かと思いますが、直接でないとお話できません。これはココロン様にしかできない、大切なお仕事です」

 何なのだろうこれ。

 パパにそれとなく聞いたら、テナントビルの入居審査というのは本当に厳格で、中には警察のOBを審査部門で雇っているところもあるらしい。


 こういうときは、椎乃に相談しよう。

 椎乃は小学生のときからの大親友。高校も一緒、クラスも一緒。

 しっかりしていて、とっても頼り甲斐があるんだ。

 毎日学校でおしゃべりして、話し足りないときは帰ってからもスマホでおしゃべり。

 最近はお風呂に入りながらだらだらおしゃべりして、ママによく「早くお風呂上がりなさい」って怒られる。


「ねえ椎、変なバイトのお誘いがまた来たんだけど」

 椎乃にDMの内容を説明した。

 ちなみに椎乃とはビデオ通話。アニメだとお風呂場に湯気が立ちこめたりしている

けれど、現実にはそんなことはもちろんないよ。

 だから椎乃のあれやこれやが見えるし、私のあれやこれやも椎乃には見えていると思うけれど、そんなことは女の子同士だから気にしない。

 むしろ、大親友の発育度合いが確認できて嬉しい。

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