第23話
それからしばらくシャリエッタとの会話が続き、切りの良いところでなんとか離れることができた。そしてまた各小隊の部隊編成を見て回っていると、逆にこちらを見てくる小隊もいた。警戒態勢中にそれはいいのか……? というか俺がいるからこっちに注意が向くのか。
それに気付いて俺は自分のテントに戻ることにした。そのまましばらくは休息だな。そしてテントに戻ってからはのんびりと時間を過ごし、昼を過ぎた辺りで、ミランダ大佐から各小隊の小隊長に集合命令が掛かった。これってツィエラも行くのだろうか。
「ツィエラも行くのか?」
「一応ね。呼ばれてないのに行って恥をかくより呼ばれてるのに行かなくて怒られるほうが嫌だから」
「そうか、行ってらっしゃい」
「ええ、行ってくるわ」
そうしてツィエラも行ってしまった。それから俺たちは何もすることがなく、暇を持て余していると、
「アルス様、あまり緊張していませんね?」
「逆に何に緊張したらいいのか分からないくらいだよ」
「男性ってもっとモンストルムの襲撃とかに怯えたりするものだと思うんですけど……」
「軍人30人ほどをぶっとばす俺がモンストルムに怯えると思う?」
「いえ、むしろ嬉々そしてモンストルムに攻撃をしかけそうです……」
そうだな、俺もモンストルムを見つけたら嬉々として攻撃をしかけるだろう。というか回復要員じゃなくて戦闘要員として連れてきて欲しかった。それくらいモンストルムと戦いたい。せっかく特注の杖を作ってもらったのにこれでは出番がないじゃないか。過激派女子を抑えるくらいにしか使い道がない。
そんな雑談をしていると、ツィエラが帰ってきた。思っていたより早い帰還だったな。
「お帰り、追い返されたりはしなかった?」
「追い返されたりはしなかったわ。それと次の作戦行動が決まったわ。明日の午前9時にモンストルムがまとまっている場所へ襲撃を掛けることになったわ。そこで殲滅できるなら殲滅、できないなら途中で撤退して翌日にまた攻撃をしかける。最大で5日続けるそうよ」
「最大で5日? 日数が少し中途半端じゃないですか?」
「グリューエル、それはおそらくアルス様の男性保護法の義務のことを気遣ってのことよ」
「あ、なるほど」
そうか、俺の精子提供の義務のことを考えて明日から最大5日間の攻撃をして、翌日にエイト・クエレーレ・カスタルムまで撤退するのか。確かにそれなら合計7日、ギリギリ精子提供の義務には間に合う。となるとアイーシャから渡された小瓶は必要なさそうだな。
「そっか、場合によってはアイーシャから渡された小瓶をここで使うことになると思ってたけど大丈夫そうだな」
「アイーシャさんにそんなものを持たされていたんですか、アルス様」
「ああ、場合によっては作戦行動中にフィオーネに頼むつもりだったんだけど、そうはなりそうにないか……ちょっと楽しみだったんだけど」
「アルス様、次は私なのですか……?」
「もちろん、次はフィオーネだ」
その次はグリューエルのつもりだが、グリューエルは知り合ってまだ日が浅い。だからこのことは言わなくてもいいだろう。もう少しグリューエルのことを知ってから伝えた方が反応も面白そうだし。
なんてことを白皙を紅く染めるフィオーネを見ながら思い、そしてこの作戦行動のモンストルムとの戦闘時のことを考える。
俺は回復魔法とエーテル弾しか使えない。近接戦なんて喧嘩戦法くらいしかできないから遠距離特化型だ。だがおそらく今回、エーテル弾を撃ったらミランダ大佐あたりから回復魔法に専念するように言われてしまうだろう。まあそれでも最初の1発は撃つけど。
それからはテントの入り口前に2人護衛が立ち、テントの中で俺と一緒に過ごす警戒態勢が取られた。一応モンストルム以外に女性という人種からも俺を守らないといけないから護衛小隊は大変だな。
そして夕方から夕食を順次食べていくようにとの通達があった。一斉に食べるとモンストルムの襲撃に対応できないのでそれぞれがカバーできる範囲で食べていくそうだ。だが俺たちには関係のないことなので適当な時間に食べることにした。
用意されている食料の中身を開けてみると、俺が救出された時に食べたあのベリー類を練り込んだ固形物だった。
「おお、まさかまたこれを食べる日が来るとは……」
「アルス様、この携帯食料に何か思い入れでもあるんですか?」
「ああ、俺が目覚めてから初めて食べた食糧だからな。とても美味しかった記憶がある」
「だとしたらそれは相当飢えていたからでしょうね。実際は口の中が乾燥して食べにくいわよ」
「そんなことを言われると食べる気がなくなるじゃないか……」
そう言いながらも食べてみると、確かにそれなりに味は良いが口の中が乾燥するな。それでいて水は限られているのだからなんとも酷い携帯食料だ。
これを美味しいと思っていた俺はやはり相当飢えていたのだろう。というか今になって思うが、成長防止措置を施されて封印もされていたのに体は衰弱していたってどういうことだ? もしかして封印がちゃんとされていなかったのか? だが俺の肉体年齢は完全に止まっていた。のに衰弱していたってことはあの時助けてもらえなければ俺はどこかで死んでいたのかもしれないな。
そう考えるとツィエラとベロニカには感謝しかないな。あの時助けられて本当に良かった。
それから食事を終えてツィエラたちは今日の見張りの話をしている。モンストルムに対する見張りではなく女性たちから俺を守るための見張りだ。そして2時間交代で見張りを代わり、俺の護衛をすることになった。
寝袋の位置に関しては俺と女性たちの間にスペースを開けるのかと思ったら、俺が女性を怖がらないうえにツィエラとベロニカにはもう精子提供の義務の手伝いをしてもらっているので特に隣で寝ても問題ないことから、俺の両隣りにはツィエラとベロニカが寝ることになった。こうして俺の護衛は万全を期すことになった。
そして今日はそのまま就寝することにした。夜、1度だけ見張りの交代でツィエラが起こされるのと同時に俺も一瞬目を覚ましたが、すぐに夢の世界へと旅立ってしまった。
そして朝、眠っていると体が揺さぶられる。
「アルス様、朝ですよ、起きてください」
「ん、ごめん、あと5分……」
「駄目です、作戦行動中は規則正しく生活してもらいます」
「シスター頼むよ……」
「私はシスターじゃありませんよ、アルス様。さては寝ぼけてますね?」
そんなベロニカの声が聞こえてくる。だが眠気が強い。しかし起きなければ、今は作戦行動中だ。
寝袋からもぞもぞと動き始めて俺は上半身を起こす。そして周囲を見渡すと既に戦闘用意まで整えているツィエラたちがいた。
「みんな早いな」
「おはよう、アルス様。珍しくお寝坊ね」
「なんかここの土地はよく眠れるんだ」
「普段のベッドの方がいいでしょうに、まあでもよく眠れてるならそれでいいわ。朝食にみんなの水を出し合ってスープを作ろうと思うんだけど、アルス様の水も少し貰っていい?」
「ああ、いいよ。ところで火はどうするの?」
「質の悪いエーテル鉱石を持ってきてるからそれを燃料にして火を熾すわ」
そう言ってテントの外に出ていくツィエラ。俺も起きて寝袋を畳んでテントの隅に置く。そして軍服の上着を着てテントの外に出る。すると既にフィオーネとグリューエルはテントの入り口で警護をしていて、ツィエラは野営用のシングルバーナーを使って湯を沸かしている。そして食糧の中に入っていた干し肉を挟みで切って鍋に入れている。なるほど、エーテル鉱石はそうやって燃料に使うのか。今度エーテル鉱石の小粒でもあげようかな。
そしてしばらくして、食事が完成したので全員で食べることにした。
しかし、その途中、どこからか陰口が飛んできた。
──どうしてEランク小隊が男性の護衛任務に就けたのかしら
──新人小隊に護衛が務まるとは思えないけど、本当に大丈夫なの? 今からでも私たちの小隊と変わった方がいいんじゃない?
なんて様々な声が聞こえてくる。しかも俺たちにぎりぎり聞こえるような声量でだ。嫌がらせにしてはやることがダサいな。しかも作戦行動中に何やってんだか。
そう思った時だった。
「ほう、お前たちは男性が自ら選んだ護衛に文句があるのか? なら自分でアルス様に直訴してこい」
ミランダ大佐が陰口を言っていた小隊の女性に注意をしていた。
「ねえツィエラ、こういう陰口って多いの?」
「たいして多くないわ。それに私たちがEランク小隊なのは事実だから」
「まったく、俺が選んだ小隊にケチつけるなんて馬鹿だな。だから護衛に選ばれないんだよ。しまいには治療するのやめてやろうか」
なんて言った時だった。
「アルス様、御不快な思いをさせてしまい申し訳ありません」
ミランダ大佐が謝罪しに来た。
「別に悪いのはミランダ大佐ではないだろ、あそこでコソコソ陰口をいってる陰湿な馬鹿どもだ」
「それでもです。我々は御身の回復魔法を当てにしている身ですので、回復魔法による治療をされないと仰られてしまうと参ってしまいます」
「ああ、さっきの言葉を聞いてたのか。なら大丈夫だよ、従軍している以上仕事はちゃんとする。けど馬鹿どもにはうちの小隊を馬鹿にしないように言いくるめておいてくれ」
「承知いたしました」
そしてミランダ大佐がさっきの陰口を言っていた小隊のもとへ行く。それから少しの間怒声が鳴り響いていたが、まあそれは詳しく語る必要はないだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます