誓いの果てに〜最弱と最強の勇者〜
卯月 幾哉
序 死の兆候
※流血や人体欠損などの残酷描写があります。苦手な方はご注意ください。
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――ドサッと音を立てて、俺の左腕が地面に転がる。
『……そろそロ、死ぬ覚悟はできたカ?』
人間種には発することのできない、異音のような声で敵――魔王が俺に問う。
それは俺にとって死刑宣告に等しい。
――なんで、こんなことになっちまったのかなぁ。
俺はわずかに口元を
〝最弱〟とはいえ、俺もこの国に百人いる「勇者」の
「……フッ!」
逆境を
右手で剣を
……まだだ。まだ死ねない。
援軍は期待できない。
百人の勇者の七割は首都の防衛に当たっている。残りはそれぞれの故郷にでも帰っているだろう。
こんな
「……こんな田舎に何の用だよ。クソ魔王が……」
それは純粋な疑問だった。
てっきり首都を攻撃すると思っていたから、油断していたのは事実だ。
答えが返ってくることは期待していなかったが、魔王は意外にも戦意を緩め、俺の問いに答える姿勢を見せた。
きっと、もう勝利を確信しているんだろう。
『……知れタ事。勇者とそノ子孫を
「……何?」
問い返しながらも、俺は魔王のその答えに心当たりがあった。
『……キサマもその一人だろウ、勇者よ。かつテ余を倒しタ男と同じ気配を感じるゾ』
「…………」
――期待外れだ。
そう答えたいところだが、魔王の判断はあながち間違いでもない。
それは俺が〝最弱の勇者アレン〟の名前と血筋を継いでいるからだ。
……あぁ、そうさ。俺はあの「ニセ勇者」の子孫なんだよ。
†††
魔王が復活したのは一か月ほど前の話だ。
五百年前に倒された魔王の復活。
その凶報は
一度は
――じゃあ、俺の出番かって?
そんなわけないだろう。
俺はこの国に百人いる勇者の序列百位。文句無しの最弱だ。
昔、親父から
それにより、並の勇者十人分の力を
……
なぜかそっちの話は
ともあれ、俺はそんなご
だから、いくらご先祖様が倒した魔王が復活したからといって、俺に声が掛かるなんて話もない。
――そう、思っていたのだが……
「よお、アレン。知ってっか? 魔王が復活したんだってよ。お
「…………」
ニヤニヤと笑いながらそんなことを言ってきた男に、俺は文字通り閉口した。
こいつの名はクライド。序列十一位の勇者だが、性格はクソである。
「おい、なんとか言えよ。それとも、また俺に泣かされてえか」
無視を続ける俺に対し、クライドが自身の腰の
「――やめなよ」
それは俺のよく知る声だ。
「エミリア……」
俺は口の中で彼女の名を
序列一位、最強の勇者。それが俺の
彼女は俺と目を合わせると、花が咲いたような笑顔を見せた。
エミリアの登場を前に、クライドは面白くなさそうな顔をして聞えよがしに舌を打つ。
「チッ! いいよなぁ。最弱のお前なんかが、最強の勇者様に
「クライド、これ以上アレンを
「あー、わかったわかった。
「――魔王を
「そうか……」
エミリアの言葉は、当たり前の結論を示していた。
最強の勇者である彼女が、序列
非の打ち所のないストーリーだ。
「パパッと行って帰って来るから。応援してくれる?」
まるで近所にお使いにでも行くかのような気軽さで、エミリアは言った。
「ハンッ! 相手は魔王だぞ。油断してんじゃねえぞ」
最弱の俺なんかが彼女に指摘するのも
そう思って、一応はそんな言葉を掛けておいた。
すると、エミリアは嬉しそうに笑みを深めた。
「うん、大丈夫。私、最強だから」
「……本当にわかってんのかよ」
俺は
――俺はこの時、エミリアを止めるべきだったんだ。
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