生命管理局報告書
山科宗司
プロローグで終わり
「山科さんには僕の為にもまだ生きていて欲しいんです、あと数十年は生きる予定だったんで・・・・」
そう私に話しかけるのは赤いローブを身に纏う少年
少年の見た目に合わず声が低い
気が付いたら居たこの空間よりこの少年の方が気になる
「そうですか・・・・自分の記憶が無いんですけど、家族とかって居たんでしょうか?私には」
自分について覚えているのは名が山科宗樹である事、分かっているのは死んだ事、それだけ・・・・それだけでは無いのだが
「それはまぁ、散らばった記憶を集めるのは面倒と言うか・・・・・申請も必要だし、必要なかったという感じです」
「はぁ・・・・」
この若くは無いこの体、両親が生きていたのか分からないし、居たかも分からない。奥さんや子供が居たのかどうかすら、記憶も何も無いので分からない
「色々聞きたい事はあると思いますが、一旦僕の話を黙って聞いていてください」
「はい」
「よろしい」
「まず、僕の本来の名は明かせませんが、一般的に神と呼ばれている存在の一人だと思って欲しいです。我々は人間が生きた時間、山科さんなら約二十八年、その時間がそのまま僕達の寿命になります、わかりずらいと思うんで、まぁ、山科さんが生きれば生きるほど、僕達も生きられると思ってくれていればいいです。勿論、そんな役割を背負っているのは山科さん一人だけって訳じゃ無いんですけど・・・・本来、山科さんはあと数十年生きる予定で、僕は勿体ないなーと思って」
「生命管理局、死神達の失態は死神が対応するべきという考えから生まれた、寿命を全うして貰うための場所「田園」で山科さんは生きてほしいと僕は思い、業火から引きずり出したんですよ」
「つまりまぁ、言ってしまえば、転生ってやつです」
少年の話を聞いた私はほぼ理解出来なかったが、死んで多分、地獄に落ちた私にまだ生きていられる時間を与えてくれると考えるとそれはありがたいことであり、感謝すべき事だと思った。
「その田園っていうのは具体的な情報とか、何かパンフレットとか、ありますかね?」
「山科さんが読める文字ではそんなものないけど・・・・大体、剣と魔法の世界みたいな感じで、どんどん強くなっていく敵を楽しく倒していくゲームみたいな感じ」
「死神達はは惨めに死ぬ人間、引きこもりによく影響されてるし、ネットの小説とかゲームとか、そういうのが田園制作期間で流行ってたらしいから・・・・多分そんな場所。まぁ文字だけじゃ理解出来ない所も多いし、ほら、たとえ書類で全てを管理する彼らでも稚拙なんだよ、色々」
剣と魔法の世界・・・・ネットの小説やゲームに影響された死神達が責任を償う為に作った場所
やはり理解は出来ない。
「ちなみに、勿体ないっていう理由だけで私を生き返させてくれるんですか?」
「いや違うけど、聞きたいの?」
「まぁ・・・・一応」
「了解、じゃあ」
「最初に僕は神的な存在って言ったけど、僕にも上司がしっかりと居る、彼は君達人間じゃなくて、僕達の寿命で生き長らえている唯一無二の御方で・・・・まぁもう察しはある程度ついているとは思うけど、山科さんの寿命はそのままあの御方の寿命になる。あの御方が消えると僕達も消える、だから死神達も黙って田園を作った」
「色々まとめると、自分の命が惜しかった。それだけ」
「そうですか・・・・」
その話を聞いた山科と少年はこれからを話し合った後、山科は田園で生きる事、少年は山科を導く事に決まった
「ちなみに、私の寿命ってあとどれぐらいなんですかね?」
「本来なら大体四十年ほどですが、田園では時間の進み方とか前の世界とは色々違っているとは聞いているので・・・・んー分かんないです」
「まぁでも、田園では寿命以外で死ぬことは絶対に無いし、その時は突然来るものなので、幸せに寝ても、幸せに起きても、一秒後にはまた地獄行き。ですが、もし田園で何かを成し遂げたなら・・・・いえ、あんまり気にしない方が良いと僕は思います」
「分かりました・・・・・」
他の疑問点もある程度答えてもらい、転生した。突然に
転生なんておかしな事だが、転生した私は神が羽織っていたような赤いローブと、なんとも言いがたい、初期装備のような、ぼろくなった服を着ていた。
まぁ不快感もないし、ゲームらしくて良いかと考え、木々の開けたこの場所を見回していると
「転生、成功しました?」
少年の声が私の頭の中に響いてきた
目の前に少年の姿は無いが、頭の中では彼の声と笑顔がうっすらと見える
「分かっていると思いますが、私です。神です」
良い声が頭に響く
「ここが田園、なんですよね?」
「山科さんの周りが今、具体的にどんな状況なのかは僕には分かんないんですけど、始まりの地として作られ、名付けられた場所にいるという事は分かります」
「そうですか」
「ちなみに、山科さんはステータスってどういう意味か分かります?書き方が変に難しくて、なんというか自信過剰な奴が書いたような・・・・」
「ステータス・・・・」
ステータスって多分、ゲームの概念だよな。自分の実力を数値で表す・・・・いくらそういう物に影響されているからって、わざわざ個別に用意しないよな・・・・・
「私に聞くより、死神の人?達に直接聞いた方が良いと思いますけど、そんな面倒なものいちいち作るとか、無いよなーと私は考えます」
「そうかな・・・そうかも」
少年の悩む顔が浮かんでくる
「なら、無視してもいっか」
何かを破く音の後に噛み切れない何かを咀嚼する音が頭に響いてくる
「ごちそうさまでした」
数分間黙って苦しむ声を聞いていた私だったが、少しの嗚咽と共にその時間は終わった。
「不味いし、少し吐いたけど、重圧で肩がお堅く凝った管理局に相談するよりはマシ」
「頑張り?ましたね」
「ふっふ、うん」
「それはそれとして、色々話したいこともあるし最初の村に向かって貰って良い?」
「ん?はい・・・・」
山科は少年の言われた通りに開けた始まりの地から木々が倒れて生まれた道、最初の道を歩いて行った。
時々森の奥から何かが近づいてくる気配がしたが、出来るだけ気にしないように、足早に向かった
「もうすぐ見えてくるはずだけど・・・・どう?」
少年の声が山科の頭に再び響いた時、まさに最初の村と呼べる場所が見えてきた。木で組みあげられた簡素な門、石造りの家と村の中心に聳える巨木と周りに置かれた像
「凄いな・・・・」
「そうでしょ?僕は地図を眺めてるだけだし、山科さんの顔も見えないけど、プレゼントを喜ぶ我が子の姿を眺める親の気持ちが分かるよ」
「私の親じゃないでしょ、多分」
「それはまぁね、うん」
そう話しながら門をくぐると
「兄ちゃん、新人か?これから仲良くしようや」
強面なお姉さんに捕まった。
そのお姉さんの名前は春島、歳は聞いてないし、もし聞いたら殴り飛ばすような人なのだが、歳は私とあまり変わらないように感じる。そして彼女の身長は私より確実に高い、それが春島さんと呼ぶ理由
拉致され、酒を飲まされ、色々話し合った後、今日の宿代を払ってもらった
鎧を脱がない人や、宿に兼用された酒場などまさにゲームや中世のような場所、ツッコみどころも色々あるなと思ったが、気にしないで眠ることとした。
ちなみに春島さんの言葉で唯一感動できたのは
「今日は健やかに眠れ、この世界は狭いし、偽物だ、だけど俺たちはきっと幸せになれる。安心しろ」
この言葉は、突然死ぬその時がいつなの分からず、それが怖く、不安だと話した答えだ
自分でも単純だと思うが、私は嬉しかった。
それから二週間、私は今を必死に今を生き、楽しんだ
不思議と剣は軽く、弓矢はよく飛んだ。最初は自分に都合が良いだけで空しいのではと悩んでいたが、魔物
例えば
動き回る半液体、スライム
炎を口から吐く狼、レッドウルフ
背中に果物がなる鹿、ウッドディア
など、現実なら森を破壊するような害獣でも獲物、死なないと言われても命を賭けた戦いは私を興奮させた。
それに彼ら魔物は死んでもゲームのように経験値や素材にならず、死体になる。私達はそんな魔物を解体し、調理し、売ったり、食べたりする
普通に考えれば当たり前なのだが、春島さんが言った通りここは偽物、作り物の世界。だがそんな世界でも私の人生はあるし、人との関わり合いもある。
孤独でも、空虚でも無い
喜びが満ち満ちている世界だと私は思った
自分が死ぬ事なんて忘れて、眠った私だったが、目を覚ました次の日から世界がおかしくなり始めた。
それまで私達は、目が覚めると水を浴び、罠にかかった魔物を絞めたり、春島さんと夜飯を捕ったり、ほぼ一日中森を駆けているような生活だったのだが
何処からともなく現れた冒険者が必要以上に魔物を狩るようになった。
彼らは「魔王が率いる怪物達から市民を守っているだけだ」とよく言うが、魔物が村の中に入ったり、危害を加えられたりなど、我々が守ってもらわなければならないと思ったことは一度も無い。
同じ人間だし、田園のアップデート的なものだろうと納得していたが、世界がおかしくなり始めて約四日目
魔物が人間になった
日中は冒険者が魔物を狩るので酒場で酒を飲んで、やさぐれていた私と春島さんだったのだが
夕方、彼らがむやみに殺した今日の成果を見せびらかせる時間
彼らが背負っていたのはレッドウルフでもウッドディアでも無く、角や獣の耳が生えている人間
彼らは「獣人種だ」と騒いでいたが、私にはコスプレしているだけの人間にしか見えなかった
その獣人種と呼ばれる人間を冒険者達は解体して、スープや串焼きにして食べていた。
そんな光景を見て、私は・・・・・
「・・・・・。」
「この世界どうなってるんですか?ほんとうに、狂ってますよ」
「それは・・・・田園を作っていた管理局の流行が行動に移された結果だと思う」
「どういう事ですか」
「流行の波と共に、田園には魔王や冒険者、他にも魔女やドラゴンなど色んな存在が追加された。それは僕も別に良いと思うんだけど、魔王は管理局が直接操作している」
「魔物が突然人間のようになったのは魔王役が愛でる為に変化させただけなんだろうけど、彼は田園の本来の意味も価値も理由も何もかも忘れているし、趣味も悪い。それに・・・・」
「いや、今回は山科さんの意見を聞きたい、僕にはその光景が見えないから」
そう言われ、楽しむ冒険者達の方を見る
強面の彼は生首から目玉をえぐり取り、頬張る。マグロのように
優しそうな彼女は足をしゃぶりながら頬張る。豚足のように
小さな少年はタレを絡めて焼いた臓器を頬張る。焼き肉のように
彼らが食べている魔物は本来の姿ならただの晩餐、今の姿では悪食のカニバリズム
「私は魔物を元に戻したいです、それに活気が生まれるとしても、冒険者は私達の邪魔でしかない。正直、彼らも消えて欲しい」
「そう・・・・・うん」
「じゃあ、魔王討伐、行こうか」
「えっ?」
「魔王討伐、殺す必要は無いけど、下僕程度にはなって貰う必要がある。それに冒険者の目標は魔王討伐、英雄、勇者になること。魔王をしばいて魔物を戻して、冒険者を統率するか、冒険者という存在ごと消すか、そこは山科さんの自由だけど、とにかく魔王役を引きずり堕としてもらう」
「理解出来た?」
「はい」
「それじゃあ、剣と弓矢の準備を、信頼できる仲間と共に暗闇を切り開いて、道は僕が指し示す」
生命管理局報告書 山科宗司 @Impure-Legion
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。生命管理局報告書の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます