第16話

「出て行ったのか……?」

 一応トイレや風呂場も覗いて見たが、気配がないのだから居ないのは当然で。美風は首を傾げながら、とりあえず先にスーパーで購入した生ものや野菜を冷蔵庫に入れた。

「出ていくなら朝に一言言っていけよな。服だってどうすんだよ。二万も使ったのに」

 美風は古着屋の店のロゴが入った大きな袋を睨む。自分のパジャマ用に着るにしても大き過ぎる。

 こっちは窮屈な思いをさせて悪かったなという思いで買ったのに。アリソンからすれば頼んでないし 、いい迷惑かもしれないが。

「はぁ……なんかどっと疲れたわ」

 部屋で大の字になって美風は目を閉じた。

 出て行ってホッとしたような、モヤモヤするような、ぐるぐるとして思考が定まらない。

 人を殺めていないか。そう心配しながらも何かがイライラとさせる。

「きっと疲れすぎてんだな。先にシャワるか」

 勢いをつけて身体を起こした美風は、頭をスッキリさせようとシャワーを浴びた。だが望んでいた効果を得られず、風呂から出てもモヤモヤは取れなかった。アリソンが人に危害を加えていないかも気になって仕方がない。

 時計を見ると十九時半。そろそろ夕飯の準備をしなければと思ったが、色々と考えすぎたせいなのかあまり食欲がなかった。

「……適当にお茶漬けにするか」

 美風は冷凍しておいた一杯分の白ごはんをレンジで解凍する。アリソンが居たらカレーを作るつもりだった。買ってきた材料は直ぐに腐る物はないが、豚肉は冷凍庫に突っ込んでおく。

 お茶漬けを軽く平らげて、美風はテレビを見るともなく見ていた。時計をまたチラリと見ると二十一時前。

 美風は突然立ち上がり、上着を引っ掴んだ。上着を袖に通しながら玄関へ向かおうとした時、美風の心臓は大きく跳ねた。

「……なっ」

 玄関のドアに、黒い影の一部がめり込んでいる様に見える。それは徐々に姿を現してきた。

「ア、アリソン……」

「あぁ、ただいま。というのだったか?」

 美風は口を開けたまま頷く。

 アリソンが玄関を通り抜けてきた。霊体のように軽く物体をすり抜けるのではなく、まるでアリソンが触れる所だけがクリーム状になったかのように、飲み込まれるように通り抜けてきた。

 こんな事まで出来るのか。どうりで鍵が掛かっていたわけだ。

「ちょっと……誰にも見られてないだろうな」

 今頃我に返った美風は、アリソンの腕を掴んで中へと連れ込む。

「あぁ、問題ない。そこは俺も気をつけている」

「そうだとしても、人間界ここでは魔力を使わないでくれ。それに貴重な魔力だろ? ちゃんと温存しておかないとダメだろ」

 アリソンの前に立つと、美風は顔を見上げる。漆黒の目が真っ直ぐに美風を見返してくる。迫力ある目力に押されそうになるが、目を逸らす事はしなかった。

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