不安症な私と、九谷焼のちょっとしたお話

星咲 紗和(ほしざき さわ)

第1話 不安症な私の日常

朝、目が覚めると胸の奥が重苦しい。太陽がカーテン越しに差し込んでいるのに、私はその光を鬱陶しく感じていた。今日はいつものように何もできない一日になるだろう。起き上がる気力すら湧かない。時計を見ると午前10時を回っていた。


「まただ……」


小さくつぶやいて、私は枕元にある薬の瓶に手を伸ばす。不安症――診断されたのは数年前のことだ。日常生活が普通に送れないほどの不安感と緊張感。それがずっと続いている。外に出るだけで冷や汗が止まらなくなり、人混みの中では呼吸さえうまくできなくなる。病院に通い、薬を飲むことで何とか日々をしのいでいるけれど、それでも心の重みは消えない。


ベッドからゆっくりと体を起こし、キッチンに向かう。部屋は静まり返り、唯一の音は冷蔵庫の低いハム音だけだった。朝食をとる気にはなれず、代わりにお気に入りのマグカップに紅茶を淹れる。カップに描かれた花模様をぼんやりと眺めながら、私は「今日もこれで一日をやり過ごすのだ」と自分に言い聞かせた。


そのとき、スマホが鳴った。画面には地元の友人、彩香からのメッセージが表示されている。


「今日、骨董市行かない?」


彩香とは久しく会っていない。彼女は私とは正反対の性格で、明るく行動的だ。いつも私を気にかけてくれるが、それが重荷に感じることもある。それでも、彼女の誘いを断ると罪悪感が押し寄せる。メッセージをじっと見つめながら、迷いが胸を占める。


「外に出るのは怖い。でも……」


悩んだ末、私は意を決して返信した。


「少しだけなら行く」


メッセージを送信すると同時に、再び胸が締め付けられるような感覚が襲ってきた。不安でいっぱいだ。けれども、どこかで「少しだけ変わりたい」と思っている自分がいる。それが九谷焼との出会いに繋がるとは、この時はまだ知る由もなかった。


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