掌編・『風鈴』

夢美瑠瑠

第1話


   茹だるような暑い、夏の日の昼下がり、ふと私は、青い”風鈴”を衝動買いしたのだった。

 古道具屋の店先に、色とりどりの玻璃でできた、手ごろな大きさと値の、昔懐かしいレトロな、例の”人智を凝らした天然の清涼剤”が、並んで吊るされていたのだ。


 チリンチリン、という紛れもないあの涼しげな、遥かに遠くの風景を眺めているような気分を呼び起こす、和の風物詩ならではの繊細な澄んだ音色。

 

 私は、もっともその用途にふさわしい気がする、深い藍色の風鈴を選んだ。


 … …


 縁側につるしたそれに、私はしばらく見惚れていた。


 安っぽいただのガラスのはずだが、職人の手練の技が、そこにひとつの小宇宙が生じたような、不思議な”美の空間”を構成していた。


 星雲のように渦巻いた意匠に、意識がキーンと研ぎ澄まされるような、吸い込まれそうに深く美しい藍色。


 … …


「チリリリン」と、微風にそよいで、風鈴が鳴った。

 滑らかな玻璃の美しい瑠璃色と相貌的な感覚で共振する、真摯で透明な響きだった。


 私はうっとりして、眼を閉じた。


… …


 

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