学園都市の異能譚

四季織姫

第1話 始まりの物語

 四月一日、俺は今日、とある人工島に上陸した。

 電車から降り、駅の改札を通り抜け、検査を通過する。

 新学期が始まるであろう今日あたりは入島者がごまんと増えるらしい。

 改札まではすんなりと出ることができたが入島検査にだいぶ時間がかかっている。

 なぜか改札は十個以上あったのに検査通路は五つしか無かった。

 そして、一人ひとりにじっくりと検査をするらしく、皆、イライラしていた。

 一時間半以上はかかっただろうか。

 長時間の拘束を解かれた俺は改めてここ人工島、学園都市アンリミテッド・ライブラリに上陸した。

 リュックサックを背負って、歩き出す。

 ここはプトレマイオスと呼ばれる中心島とその周囲に位置する十二宮学園がある島の十三の島によって成り立っている。

 それぞれの島は電車によって繋がっている。

 今はその中心島プトレマイオスにいる。

 この学園都市の構造は入島時に渡されたタブレットによって把握できる。

 なにぶん初めて訪れた場所なので地図の指す位置がわからない。

 しかし、こういう時に頼れる存在がいるのである。

 それこそ、個人AI。

 配布されたタブレットやインカム型装置イデアから連絡の取れるAIである。

 とりあえず早速連絡を取ってみた。

「おはようございます。松江雪菜様。」

 仰々しい挨拶が返ってきた。

「うん、おはよう。早速、道を聞きたいんだけど良いかな。」

「構いません。が、先に私へ名前を授けてはいただけませんか?」

「名前か、何が良いかな。」

 しばし長考する。

「うーん。君は何をしてくれるの?」

「私ですか?私はご主人様の質問に答えることができます。」

 うーんと、ともうしばらく考えてみる。

 すると、とりあえず一つの名前が浮かんだ。

「キョウ。っていうのはどうかな?」

「キョウですか?ありがとうございます。良き名前です。」

 名を与えるとすぐにキョウは仕事を始めた。

「ご主人様の行き先は処女宮ヴァルゴの寮で構いまでせんか?」

「ああ、とりあえず荷解きをしようと思ってね。わかる?」

「当然です。完璧に道案内して見せましょう。」

 機械映像であるはずなのに自慢げに笑っているのがわかる。

 キョウの道案内に従って、電車を乗り継ぎ、ヴァルゴの島に入る。

 寮の位置は駅からそこそこあり、十数分がかかった。

 いざ、寮に着いてみるとそこからでも学校が見えており徒歩数分といったところだろうか?

 寮のインターフォンを鳴らしてみるが、反応はない。

 代わりにイデアに反応があった。

 キョウからだ。

「キョウ?どうした。」

「ご主人様、インターフォンに反応がなかった場合は事前に渡されている鍵を使って入ってもらっても構いません。というか、大抵の生徒はそうやって入っています。さすがに百人以上の新入生を相手になんてできませんから。」

 それもそうかと応え、鍵を使って入る。

 体を入れ、扉を閉めるとガチャっと音がなる。

 オートロックらしい。

 こりゃ、鍵を忘れたら一大事だな。

 奥へ進むと、ロビーの横にくっついているようになっているリビングに人がいた。

「インターフォンには反応がなかったのに、人はいるんだな。」

「はい。インターフォンは寮母さんの管理室にのみ繋がっていますから。」

 などと、キョウと話していると、

「あら、新入生さん?」

 リビングにいた人が話しかけてきた。

 リビングにいたのは三人。

 なんとなくだが、話しかけてきたのは上級生だろうか?

「あのー、返事が欲しいのだけど。」

「ああ、すみません。おっしゃる通り今月ヴァルゴに入学するものです。皆さんは先輩でしょうか?」

「私だけ違うわね。」

 奥にいた女性がそう告げる。

「私たちは二年生よ。これからよろしくね、後輩くん。」

 先ほど話しかけてきた先輩とは別の方がそう言った。

「はい、よろしくお願いします。」

「なんなら後輩くんも入る?三人で親睦を深めていたんだけど。とは言ってもつい数十分前からだけど。」

「その前に荷物置いて来なきゃダメでしょ。」

 確かにその通りだ。

 荷物を持っているのを忘れていた。

「それに、部屋の場所も確認しなきゃだし。」

 確かに確かにその通りだ。

 部屋の場所さえ知らないんだ。

「じゃあ、ついて行こうか?この建物は複雑だし。」

「相手は男の子だよ。困っちゃうでしょ。」

 全くもってその通りである。

「部屋には入らないからさぁ。」

「だったら、お願いしても良いですか。」

 ここはそう言っておくべきだろう。

「君はお人好しなのかな?」

 あれれ?

 さっきまでこの人は俺の味方をしていた気がするんだがな。

 とりあえず一緒に行くことにした。

「私は神戸詩。この寮の寮長をしているよ。」

 俺についてくることを提案していた女性がそう名乗った。

 そして、それに続くように残りの二人も名乗ってくれた。

「私は高松美桜です。この学園、ヴァルゴの生徒会長を務めています。よろしくね。」

「仙台凛だよ。この二人とは違って君と同じ新入生だね。同い年だしタメ口でいいよ。よろしくね。」

「松江雪菜です。先ほども言いましたが新入生です。」

 自己紹介を終え、小話を挟んでいると僕の部屋についた。

「5―十、私の隣の部屋だね。」

 高松先輩が教えてくれる。

「じゃあ、私たちはここで待っているから荷物を置いてくるといいよ。」

 その声を背に鍵を取り出し、部屋のロックを解く。

 ガチャっと心地の良い音が響き、扉が開けられる。

 部屋の中に入ってみると、中は建物の外装やリビング、廊下の装飾比べると質素な様子だった。

 ベッドと冷蔵庫、簡易的なキッチンや作業デスクなど、必要なものはほとんど揃っていた。

 本島から送ってきた荷物はすでに部屋の中に入っており、俺はカバンを置いて鍵とタブレットと財布だけ持って外に出る。

「おや、早いね。」

「まぁ、本当に荷物を置いてきただけですから。」

「そっか。」

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