2005年の屋内テクノフェス
@mtmynnk
開場午後6時
午後6時。
重いドアが開く。
身体の沈むようなビートが俺達のみぞおちを捉える。
光は回り音が一層圧を掛ける。
音はフロアに渦を巻き、流れ、俺達を打つ。
レーザービームがフロアを刺す。
終電の時間が近付くと子供やライト層は帰って行く。
セックスしたいカップルも出て行く時間だ。
俯きながら足だけ動くリズム・ゾンビは、みんなウォッカを飲んでいる。
俺は高い水とソーキそばとシシケバブを腹に詰め込んでいる。
ここに居る間、俺達は人種も宗教も超える。
考える事は皆同じ。
「愛している」
「愛している」
「アイラブユー」
「アイラブユー」
俺達はダンスミュージックの信徒だ。
暗いフロアに回る光が俺達を輪郭だけの存在にする。
赤青黄色。
俺達はいま、塊であり、個体である。
輪郭だけの俺達はいつまでも踊り続ける。
いつまでも。
多幸感。
午前6時。
俺達を会場の蛍光灯が明るく映す。
「パーティはもう終わり」とスタッフが俺達に告げる。
埃の舞うフロアがけぶって見える。煙のよう。小さな蜃気楼。
まだ踊りたい。まだ聴きたい。まだ打たれたい。そして、まだ踊らせたい。
ここからはDJとスタッフとの攻防戦。
客は拍手でリズムを鳴らす。
DJはそれに応える。
変化球のJ-POP。
スタッフは睨みを効かせる。
懐かしいクラシック。
もう終わらなきゃ。
まだ終わらないで。
祈るように踊り続ける。
踊り続ける。
踊り続けて。
スタッフがDJに耳打ちしているのが見える。
これで本当にもう終わり。
今年の夏はもう終わり。
DJがお辞儀をして拍手をする。
俺達も拍手をする。
「あいしてるー!」
酔っ払いがDJに叫ぶ。
俺たちも同じ事を考えている。
愛している。
DJを。
愛している。
酔っ払いを。
愛している。
500ml600円の高い水を。
愛している。
シシケバブを。
愛している。
すべてを。
ダンスを。
音楽を。
覚醒剤だけは好きになれない。
まばゆい朝日が俺達を迎えて、スタッフからは土産を貰う。
友達にハグをして別れ、始発で家まで。
電車のリズムすらテクノに聴こえる。
あれから20年経つが今でも覚えている。
今でも思い出せる。
今でも愛している。
WIRE05 at 横浜アリーナ from 6PM to 7AM
2005年の屋内テクノフェス @mtmynnk
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