好きになるなんて、絶対ムリ!

ライム

第1話 ムカつくのに、君が気になる

「1位、高嶺颯真。2位、朝霧美咲。」


その一言が、教室の静寂を一瞬で“地獄”に変えた。


いや、ただの模試の結果だ。

テストの点数がいいからって、別にどうってことない。

……そう思おうとしたけど、脳内のどこかで鐘が鳴り響く音が消えない。


「お前、また負けたな。」


静かすぎる教室に、その声がやけに響いた。

視線の先にいたのは、高嶺颯真。


教室の窓際に立ち、カーテンを軽く揺らしながら、ぼんやり外を見ている。

けど、その口元はしっかり“にやり”と笑っていた。


ムカつく。


「……は? 何の話?」


冷静を装い、私はカバンを背負いながら振り返った。

でも、目線が合った瞬間に彼が手にしていた“あの紙”が目に入る。


模試の結果表。


「1位、俺。2位、朝霧美咲。」


言いながら、彼はそれをひらりと振った。

まるで優勝トロフィーでも掲げるみたいに。


「……何回言わせる気?」


「うるさい。」


私はその紙を奪い取ろうとしたが、ひらり、ひらり。

まるで彼の手元で紙が踊っているみたいに、あと少しのところで届かない。


イライラが沸騰する。


「くそっ……!」


「お前さ、俺のこと意識しすぎじゃね?」


——バチン!


まるで、何かが頭に叩き込まれたみたいだった。


「……は?」


私は思わず動きを止めた。


「お前、いつも俺の順位ばっか気にしてるじゃん。」


声のトーンは軽いけど、的を射すぎたその言葉が、悔しいくらいに深く刺さる。

こっちは“1位になる”ために頑張ってるだけだ。あんたのことなんか、気にしてるわけじゃない。


「は? 意識なんかしてないし!」


「はいはい、そーいうとこな。」


**“そーいうとこな”**が妙に優しげな声で、余裕たっぷりなのが、さらに腹立つ。


「ムカつくんですけど!」


思わず声が大きくなった。


すると、彼はなぜか楽しそうに笑い始めた。

目尻がほんのり下がって、ふわっとした笑顔になる。


……昔の“のんびり屋”の顔だ。


**「あの顔、最近見てなかったな」**と思った瞬間、心臓が大きく跳ねた。


え、なんで?

ただの顔だし、ただの笑顔だ。


いや、気のせいだ。そうに決まってる。

あいつの顔で“ドキッとした”だなんて、絶対にありえない。


なのに、胸のざわつきが消えないのは、どうしてだろう。


「どうした? 顔赤いぞ。暑いのか?」


余裕たっぷりの声が耳に響く。

その声が、やけに心臓の奥を掻き乱していく。


バクンッ——


「はあ? 暑くないし!」


彼は私の頭をくしゃくしゃっと撫でると、軽い足取りで教室を出ていく。


その去り際に、ふと振り返って、

「次も1位、もらうからな。」


とだけ言い残していった。


——ズキッ。


胸のあたりが、ズキッとした。

悔しさのせいか、それともあの“ドキッ”の延長線上か、わからない。


負けたくない。あいつにだけは。


なのに、どうして、あの一言がこんなにも引っかかるのか。


「絶対に次は1位を取る!」


カバンを肩にかけ、強く心に誓った。

今のままじゃ、負けっぱなしだ。


……ただ、あいつの「くしゃくしゃ」って頭を撫でた手の感触が、いまだに消えないのが、どうにも悔しい。

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