第28話 入学式
国中の貴族の子が入学する貴族学院。
歴史を感じさせる古さはあったが全体的に白く大きく、所々に金色の装飾があしらわれた絢爛な学び舎だ。
「ハイラインとアマデウス、リーベルトは同じクラスか」
一学年は100名前後で一クラス約20名、五組まである。一組が成績優秀者の集まり、五組は成績の悪い問題児が詰め込まれているという風の噂である。
アルフレド様とペルーシュ様が同じ一組、俺とリーベルトとハイライン様が同じ二組だった。
「くっ…何でアマデウスと…!アルフレド様と同じクラスになりたかった…」
「成績順ですよ、仕方ないでしょう」
成績は上位の50名まで張り出されていた。アルフレド様は一年生全体で2位だ。すごい。
ペルーシュ様が16位、ハイライン様が21位だった。俺が22位、リーベルトは25位。
そして一位は、何とジュリエッタ様だった。
ジュリエッタ様とアルフレド様との点差は3点だった。1位から10位まで数点差の接戦だ。
公爵家の跡継ぎという自覚もあるのだろう、頑張ってるんだなぁ二人とも。
学年の最終試験ごとにクラスはまた変わる。三組より下のクラスは子爵家と男爵家がほとんどだ。やはり身分が上の方が上の組に集まっている。やはり金が出せるほど教育の質が上がるのかな…。忖度もあるかもしれないが。
伯爵家に貰われた身としてはなるべくクラスを落とさないようにしなければ。
住んでいる地が遠いと会ったことがない子もいるので、知らない名前も結構ある。王都を挟んで反対側なんかだと全然会わない。
格上の家の子の名前は入学前に予習させられた。
しかしこの予習あまり役に立つ気がしない。
「○○伯爵第○子●● 青の髪」
「○○侯爵第○子○○ 茶の髪」
みたいな文字のみざっくり情報なのだ。似顔絵くらい欲しい。髪の色も人ぞれぞれ沢山あるのに一言って。
水彩絵の具で薄く色分けしたら憶えやすくなった。水彩絵の具があって良かった。油絵具もあるけど油絵具は乾くのにすごい時間がかかる。
「アルフレド様方、ご機嫌よう!」
溌剌としたこの声は…カリーナ様だ。
「カリーナ様、ジュリエッタ様、プリムラ様。ご機嫌よう!」
ロクティマ伯爵令嬢プリムラ様は確か、カリーナ様のお友達の一人だ。ジュリエッタ様と会ったお茶会で自己紹介し合った。ミルクティー色の髪で垂れ目のおっとりとした雰囲気の美少女。
……顔にそばかすも黒子もシミもないので、この美形インフレ世界においても美少女で間違いないと思う。
髪が光の加減によっては金色に近いので、もしかしたらかなりの美少女か…?
改めて見るとカリーナ様はそばかすと黒い瞳がマイナスになって、そこそこ容姿が悪いと思われる…
明るくて気が強そうな美少女にしか見えないが。
俺はこの美形インフレ世界の美醜判断基準を獲得した…。
おそらくほぼ知った…
はず!
だからといって態度を変える気はないのだが、やはり他の皆がわかっているのに自分だけわかっていないことが世界にあるというのは人付き合いをするにおいて不安要素になっていた。知らないうちに誰かの逆鱗に触れる可能性を捨て切れなかったから。
でもその不安がほぼ解消された。転生して13年……長かった……
納得は全くしてないがな!!!!!!!!!!!!!!!!
美形の黒子やそばかすなんて…………………むしろチャームポイントだろが!!!!!!!!!!!
肌が綺麗なのが美人の条件というのはわかる。その条件は前世でも似たようなものかと思う。俺も思春期でニキビが出来ると気になって仕方がなかったな。黒子やそばかすもあまりに目立つとかだと気になる人もいただろうけど……化粧で隠せばいいのに、その化粧自体がけしからんものとされている始末。
気付いた後は何で気が付かなかったのか、とも思――――――いや気付かん。気付かんよ。
言い訳をするとしたら俺がまだ子供で男で、関わる外の人間も子供が多く化粧というものを全く意識していなかったこと。周りも言及しないし。
こちらの人間は誰もかれも美形なので、一見化粧しているように見えなくもないこと。マジでメイクしてないの??嘘でしょ…??と今でもたまに思う。
「ア、アマデウス様、お久しぶり…というほどではないですが、お会い出来て嬉しいです」
「春のお茶会以来ですね、ジュリエッタ様。ご機嫌よう」
ジュリエッタ様は鼻まで覆う白いシンプルな仮面を被っていた。
唇と頬の下は見えるので右目側の痣が少しだけ見えている。皆何も言わないしこれくらいなら見えててもセーフらしい。セーフとアウトの境界がわからん。
目の穴から彼女の紅い瞳も少し見えた。仮面の紐は彼女の顔の横髪と一緒に編み込まれて頭の後ろにリボンみたいに結ばれている。
ベールよりは前が見やすそうだし、口が見えたらやっぱり表情がわかって良い。
「ジュリエッタ様、成績一位ってすごいですね!普段から努力なさっているんですねぇ」
「あ…ありがとうございます。取り柄が真面目なことくらいなので…」
「真面目にやるって案外出来る人と出来ない人がいますし、大事ですよ。私も見習わないと…楽器の練習だったら真面目も真面目なんですけど」
「お前のそれは趣味だろう。…ジュリエッタ様、先日は失礼致しました…」
「私も失礼を…謝罪致します」
ハイライン様が深刻な顔で頭を下げた。ペルーシュ様と揃って。そうか、自信満々でベール取っていいよ!と言った後二人は青くなってそのままだったか…。
「いえ、大人の騎士でも腰を抜かす方がいらっしゃいます。何も恥じることはございませんわ」
大人の騎士でも!?そ、そか……
許されたような空気にジュリエッタ様と二人は曖昧に笑った。
「ジュリエッタ様。ユリウス殿下へのご挨拶は…なさいましたか?」
アルフレド様がどことなく気遣わし気に聞く。ユリウス殿下…二つ上の第一王子。
「…いえ。でも、入学したのだから一度はご挨拶申し上げた方がいいでしょうね…」
ジュリエッタ様は気が進まなそうだ。仲が良くないんだろうか…。
「それでは一緒に参りましょう、皆で行けばすぐに済みますよ」
アルフレド様にそう言われたら行くっきゃねえな…というように皆で殿下の挨拶に向かう。めんどくさいことをさっさと済ませちゃおう!みたいなノリでいいんだろうか。
ユリウス殿下は新入生の挨拶に囲まれていたが、少し人がはけた所を見計らって皆で近付く。
殿下は少し長い癖のある金髪を後ろで一つで縛り、少し暗めの黄緑の瞳の美少年だ。表情からして高飛車である。
初対面の頃のアルフレド様を彷彿とさせる。
当たり障りのない自己紹介と挨拶を次々と流れ作業のようにする。なるほど、大勢挨拶しなきゃならないとなると一気に済ませた方が相手にも良さそう。冠婚葬祭をちゃんとやらないとバラバラのタイミングで人に来られて逆に面倒、みたいな話を思い出した。
しかしこの殿下、男子には全く興味がなさそうで女子を見る時だけ見定めるようにじろじろと見る。
高飛車スケベ王子か……。
よいではないかよいではないかと言いながら服を脱がすタイプの…。あれはお奉行様だったっけ、殿様だったっけ?する方が美形になると女性向けコンテンツとして需要がありそう。
「少し良いか、ジュリエッタ」
ユリウス殿下にジュリエッタ様が呼ばれ、何か話している。
セクハラ言われてないといいけど……。
「…何をお話ししてらっしゃるんでしょう」
カリーナ様が不思議そうにしている。カリーナ様にわからんなら俺にもわからんな。
「縁談のお話かもしれませんわね」
「え」
プリムラ様の言葉にその場の皆が注目する。
「あら、現在ユリウス殿下と歳の釣り合う公爵家の令嬢はジュリエッタ様だけですから…有り得ないお話ではありませんわ」
そ、そっか……!?!?
ジュリエッタ様、王妃になる可能性、あるんだ…!!!!
公爵家はこの国には現在4つしかない。公爵家は王家に匹敵するほどの大貴族だ。王家との縁談は有り得る。
「…でもジュリエッタ様は嫡女でいらっしゃるでしょう?」
「10歳になられる妹君がいらっしゃいますから、もしかしたらどちらかが王家に嫁がれることになるのかもしれませんわね」
なるほど。ユリウス殿下はもうすぐ15歳。ジュリエッタ様の方が歳は近いけど…妹さんも五歳差だったら有り得ないというほどでもない。どちらかを跡継ぎに、どちらかを王家に…。
カリーナ様が少し険しい顔になった。
「ジュリエッタ様は、婿が取れなければ妹君に家督を譲ることになるかもしれないお立場…そこを突かれ、王家から縁談が来たとしたら条件が悪くとも断れないかもしれませんわ」
「…婿が取れないなんてこと…」
ないでしょう、と言おうとして黙った。全員の視線が俺に注がれていた。
「…なんでしょう」
「いえ、別に…」
「何でもありませんわ」
女子二人があさっての方向に目をやる。男子達は何か言いたそうな顔をしているものの黙っている。
うん……お上品が故に『オメーがなればいいんだよ』と言いたくても言えないオーラを感じる。
ほら、俺は良いけど…そういうのはジュリエッタ様の気持ちが大事だし……。
そういや条件が悪くとも断れないかも…って、王家から縁談で、条件が悪いってなんだろう……?
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