第5話 お披露目会本番(7歳)①
会場は我らがタンタシオ領・領主様の城の講堂。
馬車にドンドコ揺られて2時間、へとへとになりながら着いた。
講堂の中に入れるのは貴族だけらしく、付き添ってきてくれたアンヘンには入り口で「御武運を」と送り出された。
本当なら保護者が付いてくるものなのだそうだが、うちは来ない。親がかなり忙しい場合はそういうこともある、とアンヘンは言っていた。俺以外に一人で入った子はいるんだろうか…悪目立ちしないかな、と少し不安だったが、入ってしまうと人が結構ごちゃごちゃとしていて親同士と思われるグループや子供同士で話しているグループもある。大丈夫そうだ。
タンタシオ領主は公爵だ。
(日本人の感覚で勝手に番付けすると)県知事みたいなもので、その下の侯爵、伯爵、子爵、男爵は市長、町長、村長みたいな感じだ。中央の王族直轄区が首都で王様が総理大臣、みたいな。
ただしめっ…………ちゃくちゃ権力が強いし世襲。
講堂は煌びやかな装飾が壁や天井に施されていて、テーマパークに来たみたいにテンションが上がる。疲れも吹き飛んで楽しくなった俺は ほぁーッ… と間抜けな声を出してしまった。
「行儀のなってないのがいるな」
可愛らしい声が俺の背中に刺さった気がする。ん?俺か?
くるりと振り返ると美少年が三人、俺をねめつけている。―――やっぱもれなく全員顔が良いな…。
そもそもこの講堂で美形以外を見かけていない。美形のバーゲンセール(?)である。
「貴様、お披露目に参列する者か?名は?」
真ん中にいたサラッサラの金髪に睫毛がバッシバシの金色の瞳を持つ大天使美少年が訊いてきた。輝かしい。直射日光浴びてたら多分目が潰れる。
「アマデウス・ロッソと申します」
シャキッと背筋を伸ばして答えると、大天使はフッ、と鼻を鳴らす。
「ロッソ男爵家か…私はアルフレド・タンタシオだ。憶えておけ」
なんと、同い年だという領主の嫡男だ!公爵令息!!
俺なんかよりよっぽど厳しい教育を受けてるんだろうな、姓だけでちゃんとどこの家か把握してらっしゃる。エラいな~~~~。顔も良いしエラい。俺はお披露目会に出る同い年の子の情報は領主の息子がいることくらいしか知らん。教えてもらってないので。
身分が低くなると治めている土地も田舎になりがちなので情報も不足してるのである。
「お二人のお名前も、よろしければお伺いしてよろしいでしょうか」
冷たい目で俺を見ていた両隣にいたタイプの異なる美少年にもにこやかに尋ねると、侯爵家と伯爵家の息子でお披露目に出る同い年だそうだ。アルフレド様は俺よりほんのちょっと低い背を踏んぞらせて言った。
「お披露目に出て貴族社会の一員になるのだからふるまいに気を付けるのだな。田舎者といえど」
高飛車な表情が映える~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
映え(ばえ)……。
パツキン美少年の見下し顔、たまりませんなァ……俺はショタコンロリコンの気はないはずだがこのままでは目覚めてしまうかもしれない。いやダメダメ落ち着け、俺は不器用純情系の美女とかお色気お姉さんキャラが好きです。
ディスられてるところもあるがポジティブにとらえると、俺の至らない所を早いうちに注意してくれたのだ。有り難いこっちゃ。俺の周りには目上の貴族が子爵家出身の家庭教師くらいしかいないので、高位の貴族からの助言は貴重であると心得よ俺。
「気を付けます。ご忠言、感謝致します」
ほぁ~~~ッ眼福~~~ と思いながら満面の笑みで返すとアルフレド様の脇の二人は微妙な顔をしたが、アルフレド様は少し驚いた顔をした後満足げに笑った。
「うむ。そのようにせよ、アマデウス」
「あの…もしかして、ロッソ男爵家の?」
集合時間まで(舞台の前に集まる時間を入り口で告げられた)フリードリンクをちびちびしながら隅っこで大人しく人々を眺めていた(つまらなくはなかった。色んな美形がいるなぁ~と観察してたので)俺に、おずおずと話しかけてきたのは栗毛の美少年だった。
はいはい、美少年美少年。いちいちテンションをあげていては疲れてしまうので、今日はなるべくローテンションで挑もうとしている。平常心平常心。
「はい。私をご存知で…?」
「あぁ、やっぱり。ロッソ男爵家は代々赤毛と聞いておりまして…あ、はじめまして、グロリア子爵家三男、リーベルトと申します!」
格上なのに人懐っこい笑顔だ。わんこ系キャラという感じ。高飛車美少年を浴びた後だったので気さくに接してもらえて感動してしまった。友達になれるかな…?!
「ロッソ男爵家次男、アマデウスです!仲良くして頂けたら幸いです」
「こちらこそ!」
ヒャッホ~~~~~~~~~!第一の友達ゲット!!
平常心といった決心虚しくハイテンションになってしまった。
でも仕方ない、今日はお祭りの日(儀式兼学習発表会なんてお祭りみたいなもんでしょ)だ。
お披露目の発表は身分の低い方から始めるのだが、なんと今年は俺が一番手。
トップバッター!緊張しないといったら嘘だが、待つ緊張に比べたらマシかも。ささっと終わらせて他の子の剣舞と演奏を楽しめる。
司会進行らしき司祭が講堂のステージの横の台に立ち、楽器を携えた俺を筆頭に剣、楽器、剣、楽器、楽器…とそれぞれの得物を持った子供達がステージの前に進んで並んだ。
ステージっていうかでかい体育館の舞台って感じだが。並んだ時に「私がお名前を呼んで、『どうぞ』と言ったら始めて下さい」と司祭様が言っていた。発表会感が増す。等間隔に並び終えると歓談していた観客がシン、と静かになった。
「それでは、お披露目の儀を執り行いたいと存じます。一番。ロッソ男爵家次男、アマデウス様の演奏です。どうぞ」
※※※
結果から言うと俺はこの上なく堂々とお披露目の演奏を終えた。
出来栄えも良かった。
練習では、ロージーとバドルは100点満点中150点です!と太鼓判をくれたし、使用人達もこれなら絶対大丈夫と安心して送り出してくれた。練習通りに出来た。
庶民の間で流行したりよく知られている曲の楽譜はバドルとロージーが結構持っていたのだが、お披露目の演奏は貴族しか聴かない。
貴族ウケの良い曲の方がいいだろうとのことで、ここ数年で貴族の間で流行していた曲の楽譜をさがしてもらったのだが、まぁ~なかなか手に入らなかったそうだ。田舎なので。この世界では紙がまだ貴重なようで、紙の代わりに白っぽい薄い木の板を使うことも多いのだが、そんな訳で楽譜も貴重なのだ。結構お高い訳だ。アンヘンが父親に掛け合ってくれて何とか一曲だけ手に入った。
俺が弾き終わってドヤ顔で観客の方へ顔を上げると、シ―――ン…と静まり返っていた。
エッ… 拍手とかしない感じ…?なんかダメでした…?!
作法を間違えた?
演奏自体は良かったと思うんだけど…
途端に不安になる俺。
あ~~~こういう時トップバッターは不利なんだよな!!!前の人のやり方を見てなるほどなるほど、そういう流れね…?というのが出来ない!!!
顔は平然を装ったけど内心ムチャクチャドキドキしている俺をよそに、ハッとした様子の司祭様が口を開いた。
「つ…次は、グロリア子爵家三男・リーベルト様の剣舞です。どうぞ」
リーベルトの剣舞も無事終えた。失敗はなかったようだし子供にしては上出来だろう、というのが感想だ。
そして次は女子で演奏、続けて男子の演奏だったのだが、問題はそこからだった。
下手だったのだ。
伯爵家の令嬢、別の伯爵家の令息だったのだが、俺と比べたら明らかに下手だ。本人達の顔色も少しおかしい。具合が悪かったんだろうか?
会の進行を暫く見ていて、俺が特に作法を間違ったようには思えないが、観客の反応も何だかざわざわとしていて普通の発表会とは異なる雰囲気があった。何だか注目されてる気がするし。
そして、剣舞をじっと見ていて俺は気付いた。
身分が上の子の方が、どんどん、明らかに上手くなっていってる…
お披露目の演奏の最後はアルフレド様の隣にいた侯爵家令息だったが、上手ではあるのだが、俺よりは明らかに下手だ。俺と比べたら…だ。
大トリのアルフレド様は剣舞。
見事としか言いようがない立ち振る舞いに、その日初めて大きな拍手が響いた。
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