第2話 美的感覚の謎

 美人が多い地域、というのはあると聞いたが、いくら何でも通りかかる人全員美形だなんておかしい。何かがおかしい。

 俺は驚きを通り越して恐怖に陥った。

「~~~アンヘン!!」

「どうしました、アマデウス様」

 初老のダンディ執事、アンヘンがパニくった俺の肩を優しく掴んだ。

「その…この町って…きれいな人が多くない?多過ぎない?」

「ははは、そうですか?そういえばアマデウス様はうちの使用人のこともよく綺麗だと言って下さいますね。まだ特別な美しい人にお会いになったことがないから、よくわからないのかもしれません。うちの者も町の者も、普通ですよ」



 ―――――—―――――――― ふ、………普通?!?!?????!!!!!?



 俺は驚愕のまま、執事と護衛と一緒に町を見学してまわった。

 時々、 おっ!!割と平凡な顔の人間だ!!!! と言える人を見かけたが、男なら塩顔イケメンともてはやされてもいいくらいだし女なら地味だけど清楚系として普通にモテそうなレベルである。日本なら。日本なら!!!!!!!


 そう、この異世界は美形インフレ世界だったのだ。日本人の俺にとって。



 帰って一旦落ち着いた俺は、『外国人の顔、見分けがつかない現象』に近いのかもしれないと思い始めた。

 種類が沢山あるものは、見慣れないと違いが判らないものである。ガン●ムが全部一緒に見えるとか、女子大生が量産型に見えるとか。


 実際、俺には皆美形に見えるのに本人達はそう思っていない。俺の前では言わないが、使用人が陰口を叩いているところを盗み聞きした所、

『花屋の●●は嫁の貰い手がないって親が嘆いてたぜ まぁ顔があれじゃなぁ…』

『鍛冶屋の跡継ぎの○○も嫁の当てが全然ないって話だ。顔が残念だからなぁ』

などと見た目を批評するような発言があった。


 その名前の人物を町に出た時確認したが、平凡な顔ではあった。それでも俺から見たら塩顔イケメン、清楚顔美人ぞ。

『宿屋の看板娘の○○○、可愛いよな~。恋人いるのかな』

『いるに決まってんだろ、あんな美人が』

 その看板娘は確かに美人だった。でもうちの使用人達とそこまで差があるとは思えない。どこを基準に美人と判断してるんだ?いや美人だけど。紛れもなく美人だけど、それをいったらお前ら(注:使用人二人。20代男)も美形じゃん?!


 そんなこんなで困った俺は“見”にまわることにした。

 とりあえず、この美形インフレ世界の美形達の顔を自分が見慣れるのを待ったのである。


 色々あって、12歳。



 わっっっから~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 全員顔が天才ってことはわかる!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



 結局のところ、こちらの美醜の判断方法がほとんどわからないまま、今に至る。



 病弱インドア生活だったため日本で俺はインドアの趣味に色々手を出していたが、音楽の次に絵を描くのが好きだった。漫画の絵を沢山模写したり画集を図書館で借りてじっくり読んだりしていた。その為絵を描くと上手いね!と大抵褒めてもらえた。勿論本当にマジの画力があるとまではいかず『普通よりは上手』『味がある』『素人にしてはまあまあ』くらいのものだが。

 その過程で知ったと思うが、美形というのは不細工より作画コストが低い、という考え方があった。

 美形というのは整っている顔だ。パーツの配置や形がある程度決まっている。だが不細工はパーツの配置や形を崩さないといけないのだ。だから美形を描くよりも画力が必要になってくる…という話だ。


 その視点から考えると、もしかしてこの世界の神様…………

 不細工を描く画力………いや、不細工を作る造形力がなかったのか??????



 別にそんな力なくてもいいよと大抵の地球人は思うかもしれないが、人が美しいと思うものは千差万別だ。ブス専、デブ専、悪趣味と呼ばれる人達がいたように。

地球でそっちの好みの人が転生してきていたら絶望していたのかな…?

 この世界の人達を美しいと思うのも、俺の美的価値観ではそうというだけのことなのだ。

 不細工がいないからといって皆同じ顔という訳ではないから、見た目の格差は結局生まれるし。

 しかし地球生まれ地球育ちの価値観が捨てられない俺には、その格差の判断方法がまだ、わからない…。


 わからなかろうが、俺の人生は続く。



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